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脱出不可能  作者: 風雷寺悠真
第15章原初の三日月篇
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“過去との決着 The past end„

 これは俺が小学校高学年の頃だった筈だ。


 俺がまだ小学生だった頃は今じゃ家にも居ない親父と母さんは家に居て、中々充実していた毎日だったと思う。だが夏休みに入る頃、親父の姿が日に日に傷ついていたのだ。本人はただ、仕事中に怪我をしていただけだ。気にするなと言っており、それに対して母さんも何も教えてはくれなかった。


 その時の大崩壊地区は建物一つ崩壊しておらず、まさに最盛期だったのだろう。街並みは全て新しいものだらけで、綺麗で近未来的なものばかり満ち溢れていた。だが実際にはその裏には小学生なんかには分からない世界が広がっていた訳で。その中の一つに親父の旧世代と呼ばれる月の名の持ち主達と機関との衝突、そして月の名の持ち主同士の分裂があったのだろう。


 夏休みが終わる頃、俺は親父である神代海月こうじろみづきに連れられて、その再開発地区に初めて足を踏み入れた。再開発地区の治安悪化がニュースで報じられていた頃合いであり、今となっては親父が俺を連れて行った理由が何となく推測できる。


 そして連れて行かれた先は紫月しづきさんも居る、月の名の持ち主の隠れ家の様な場所だった。だがここで親父の後を尾行していた奴が居たようで、その隠れ家は機関の連中に包囲されてしまう。この時の月の名の持ち主はその機関の実験体同然だった。つまりは脱走した人々がこの再開発地区に集結している状態だったのだ。


 包囲された隠れ家から反撃を行うも、それも上手くいかなかったのだろう。紫月しづきさんや親父を中心とした月の名の持ち主の集まりの大半は捕縛、射殺された。その場から逃げて、ただ逃げる残酷な光景が俺の脳裏に焼き付く。


逃げに逃げた紫月しづきさんや親父などの生き残りは他の原初の三日月と呼ばれた有力者、久我暁月くがあかつき御剣蒼月みつるぎそうげつに助けを乞うが拒否を言い渡される。その理由にはこの三人の対立関係が関わっていた。


 その関係とは単純に自らの道理の違いだ。久我暁月くがあかつきは我の道は全て自分で切り開かなくては気が済まない道理を持っており、御剣蒼月みつるぎそうげつは物事は時の流れに沿って行われなければならないという道理を持っていたのだ。そして紫月しづきさんにもまず優先すべきは仲間の命という道理があり、原初の三日月と呼ばれた三人は全て道理が合うことなく、対立していたのだ。


 その為、いきなり助けを乞いに来た紫月しづきさんや親父は相手にもしなかった。


 だが機関の粛清は彼ら、二人を中心とした者達にも及ぶ。機関は脱走した月の名の持ち主を全て掃討しようと画策していたのだ。


 結果、再開発地区で原初の三日月達の対立の中に機関も入り、四すくみの関係が完成する。その影響で再開発地区は紛争地域の様に月の名同士、月の名と機関の戦闘があちらこちらで引き起こる最悪の事態となる。


 中でも一番最悪と言われたのが原初の三日月と呼ばれる旧世代の月の名の持ち主の中で最大の力を持ち得た三人による、再開発地区中心部での直接対決だ。


 久我暁月くがあかつきは全ての熱を操る力と己の拳を使い、御剣蒼月みつるぎそうげつは全ての水を操る力と自らの流派の剣術を。そして紫月しづきさんは全ての風を操る力と柔術を用いた。


 この時の再開発地区中心部は時には凄まじい温度を記録したり、時には凄まじい水の息吹を感じたり、時には凄まじい突風が襲ったりなど到底入ることの許されない様な空間だったらしい。


 だがこれを辛うじて見ている人物がそこには居た。


 それは小学生であった神代睦月こうじろむつき、つまりは俺だ。俺は彼ら原初の三日月の壮絶な戦いを目の当たりにしていたのだ。


 「お前が、お前しかあれを止められない」


 その言葉が俺を動かしたんだ。


 原初の三日月が争うことで各地に異常気象が引き起こり、各地に大地震が引き起こり、まさに天災だった。


 だが気づけば俺は彼らの争いの中へと歩いていた。


 そして俺はあの時、その時持つもの全てを、持てるもの全てを解放した。


 すると原初の三日月達の力が途切れ、その場に地割れが起き始める。


 その地割れからは見たこともない白い、とてつもなく白い、純白の物体が見え始める。その純白の物体は気づけば手を付いていたその地面から生み出されていたのを忘れない。


 そう、その純白の物体こそ月の石と呼ばれるものそのもの。


 月の石が俺と接触している地面から生み出され続けるとその地面は轟・・・・ッとみるみる凹み始める。


 再開発地区中心部は第三者である幼き頃の俺の乱入により大クレーターが生み出され、それは原初の三日月の争いよりも大きい衝撃波となる。


 その大きい衝撃波はその場全てを崩壊させた。


 崩壊していく中で侵食していく月の石。俺から見える景色は雪景色の様にただただ白かった。


 雪景色の様な世界の中で最強と謳われていた原初の三日月は紫月しづきさんしか姿が見えず、地面に突っ伏していた。


 このフラッシュバックした記憶は俺の持っていたその力を思い出させる。


 俺は原初の三日月の争いを止めた張本人だったという事。この際に、紫月しづきさんを殺しかけたという事。


 俺は再開発地区を今では予想もできない力で大崩壊地区にした事。「お前にしか止められない」この言葉は一体誰が言ったのだろうか。この言葉に俺は動かされたのだと推測できる。


 俺が月の石を生み出した人物という事。月の石とは何か。それは単純に月の名を持つ、能力者達の力を俺が受け止め、凝縮させた謎の物体という事なんだろうな。


 記憶の整理が俺の中で決着する。この鮮明に浮かんだものを確かめるにはある人物を訪ねるのが最善だ。


 「親父か……」

全てを紐解く中で中心に居たものこそ、親父の存在だった。


「記憶の整理は付いたか?」

ふと横を見やると文月がそこに居た。


「あぁ、確証はないが俺の過去の整理は付いたさ」


「そうか。なら、もうするべき事は分かってるんじゃないかな?」


そこに全てを見透かすように紫月しづきさんがにこやかに言う。


「あぁ、全てを取り戻す中でするべき事は親父に旧世代やら、月の名の持ち主やらの全てを話してもらう事だ」


「ご名答だ。じゃあ早速だが、親父さんの居る場所を教えてあげよう。そうしたら私の役目はお終いだよ?」


「それはどこなんだ?」


「それはね、再開発地区が作られた時の削り取られた大地で形成された人工島だよ」


その一言は俺を驚かせた。

長々と書いてしまったので想像しながら読んで頂けたか心配です。

これで主人公神代睦月君の謎が紐解かれ始めました。


次話をお楽しみに。

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