“見殺し leave in the lurch„
2016/1/27(水)改稿。
「くん……睦月く………睦月くん………。起きて……ッ!」
水篶の声が聞こえる。ここはどこだ、保健室か?
そうか、俺はあの時気が動転したっきり。あの争いを思い浮かべていると、
「睦月くんッ!」と力強く水篶が俺を呼ぶ。
こんなところでのんびりしている訳にはいかない。
俺は俺を呼ぶ人の期待を裏切らないように、今ある力を振り絞り、起き上がる。
すると俺を呼び続けてくれたであろう、水篶が涙ぐむ。
「良かった……良かったッ。このまま起きて来なかったらどうしようって………本当に思ってたんだから。良かった、良かった……」
「そんなに心配してくれてたんだ……。悪い、ごめんな」
「なんで睦月くんが謝るのさ……。むしろこっちが謝らなきゃだよ」
「俺は。俺は、何も出来なかった。俺の前で二人も死んでしまった。
俺は見殺しにしたんだ。俺があの時……。俺が、俺だけが犠牲になれば」
俺の言葉は続かず、水篶が言葉を挟んできた。
「睦月くん、そんなこと考えないで。わたし、怒るよ。
確かに君の前で死人が出てしまったのは変わらない。
でもあの時君に……出来た事なんて……」
水篶はそこで口を閉じて下を向いてしまった。
そんな姿を見たくなかった俺は代わりに話をする。
「あぁ、確かにあの時俺に出来る事なんて……。
今の今まででもう四人も居なくなってしまったんだ。
これ以上増えちゃいけないんだ。早く皆を学校から脱出させなきゃいけない。
それが今できる、最大の罪滅ぼしなんだ、きっとな」
「うん……、そうだね。私たちが……早く皆を」
水篶の暗かった表情が少し明るくなったように思えた。
「そ、そうだ。睦月くん……わ、わたしリンゴ剥くね?」
思い出したかのように水篶は保健室の冷蔵庫に
丁度良くあったのだろう、リンゴを取り出し、リンゴを剥き始めた。
だが俺はここである事に気づく。
「おい、水篶。お前さ……」
俺が近づき、そう言うと「ひゃあ!?」と驚きの声を上げ、
包丁を床に落とした。
「おいおい、やっぱりか。水篶さぁ……。
料理できないんだろ?気持ちは嬉しいけど、無理は良くないぞ?」
「ううっ。やっぱりバレちゃった? そうなんだよ……。
わたし、親が包丁を持たしてくれなくて…料理できないだぁ……」
「そっか……。でもお家柄的に、な。
簡単な料理で良いなら俺がまた今度教えてやるよ?」
と言いつつ立ち上がり、水篶の落とした包丁を拾おうとする。
だが俺はその包丁を見ると、拾うことを止めた。
なぜ止めたか。それは落ちたはずの包丁が床のタイルとタイルの
隙間に綺麗に突き刺さっていたのだから。それも不自然なほどに。




