“邂逅 encounter„
2015/4/8(水)改稿。
2015/10/19(月)再改稿。
スーパーを後にした俺は早速ではあるが福引きで手にしたチケットが使える遊園地、ファーズランドについて調べるべく、そのスーパーの並びにある大型書店でもなければ全国展開や地域展開もしていない商店街の本屋に立ち寄った。
何故わざわざ立ち寄ることにしたか。その理由は単純で、ファーズランドに興味を抱いたからだ。ファーズランドと聞いて、ふとテレビでの宣伝や雑誌の広告が頭の中に浮かんだのだ。確かそれは近くに出来た新しいアミューズメントパークだった筈で俺は過去にこれに興味を示して目をつけていたような記憶がある。
だがどうしてだろうか、何故興味を示して目をつけていたのか生憎ながら分からない。だからこうしてわざわざ本屋で調べようと立ち寄ったという訳だ。
俺は入るなり、迷うことなくゲーム情報誌のある売り場に急行しそのゲーム情報誌たちを見渡す。そしてそこにはやはりお目当ての物は置いてあった。
「ファーズランド・脱出不可能特集号」と大きな見出しで書かれたその情報誌は一際目立つところに置かれていて、すぐに見つけることが出来た。とりあえず俺は以前なぜ興味を示していたのかを確かめる意味も込め、ページを開く。そこには大きな写真や実際に行ってきたレポーターの感想などがありとても興味深そうだ。
読みふけること、十数分。
俺はなぜファーズランドに惹かれていたかを理解することが出来た。
ファーズランドとは俺がハマっているパソコンゲーム、
脱出ゲームの制作者である人物、長門嘉月という青年が社長を務めている会社「α」通称「アルファーグループ」が造り上げた遊園地であるということ。
また、このファーズランドの目玉アトラクションに位置付けられている、リアル型脱出ゲーム「脱出不可能」はファーズランドが開業してから多くの人が詰め掛けて、何万人と挑戦しているのにも関わらず未だに脱出成功者が一人も出ていないという、まさに脱出不可能ということだ。
俺はこれに興味を惹かれていたのかと思うと内心、ウキウキしている自分が居た。そんな事を雑誌片手に考えつつ次ページに行こうとした時、ふいに肩を叩かれた様な感触があった。通路を通る人がぶつかったのかなと俺は振り返る。
振り返ったそこには、煌やかな色彩で腰のあたりまであるストレートの黒髪をたなびかせ、少し青みのきいた黒色で迷いのない真っ直ぐな瞳をこちらに向けた華麗な少女だった。彼女は左手で髪をとかすような仕草をしながら、言った。
「こんなところで、何してるの?」
俺はこの人を知っている。
「ねぇ……? 聞いてるの?」
やはり、そうだ。この人は。
「何、ボーッとしてるの? ほら、私だよ?
錦織水篶。分かる?」
彼女は少し身を低くして、俺を下から見上げる様な姿勢でそう言った。
そんな単純な動きでさえも彼女からはどこか丁寧さを感じる。
「あぁ、すまない。俺、ボーッとしてたよ錦織さん」
そう、清楚な様子の彼女は俺の通う高校で同じクラスの錦織さん。俺の住むこの辺りで名の知れた、由緒ある名家「錦織家」の錦織水篶さんだ。
「ほら、またまたボーッとしてるよ睦月くん?
おーい神代睦月くん…?」
「あぁ、ごめんごめん。考え事してた」
「何さ、考え事って…?」
俺は少し言うことを躊躇ったがこの際、言うことにした。
「えっとですね…。冷静に聞いてほしいんだけど……。」
「うんうん…!」
「先ほど、そこのスーパーの福引きが当たってしまいましてですね……」
錦織さんはもう既に冷静さを失い、目を輝かせていた。
「え!? 嘘っ…!? それってもしかして……」
「もしかして・・・・何?」
「それってもしかしてファーズランドのチケットでしょ…っ!!」
俺は思わず驚愕する。
まだ何も話していないはずなのに彼女は当ててしまった。
「あぁ…、ご名答なんだけどさ。どうして分かった?」
俺は疑問形でそう言った。
「だってわたしさ、新しくアミューズメントパークが近くに出来たって友達から聞いてさ、睦月くんが今持ってるその本を読んでみたら…行きたくなっちゃって。スーパーの福引きの行方を追っていたんだよ……?」
彼女は照れくさそうに頬を赤らめてそう言った。
それは俺にとって予想外の事だった。