月の名の持ち主と人造能力者達の衝突篇part13 “第1のメッセージ first message„
俺は文月からあの無線を受けてから暫くの間、腰が抜け、
地に伏せたままだった。想定外だった。こんな事が起こるなんて
考えたことも無かった。そもそも考える気がなかった。あり得なかった。
俺は考えることをやめた。やる気がなくなった。俺は文月とは戦えない。
アイツは俺の親友だ。昔から。だが実際はそうではなかった。
物凄い喪失感が俺を襲った。失いたくないものだったから。
これが戦意喪失というやつか...これが先ほど俺が姉妹に使ったものなのか。
心からその気持ちが分かった気がする。これほど辛いものはない。
俺は空を見上げたまま...動かなかった。
そしてどれだけ時間が経ったかも分からなくなった。
このまま何もしなくて良いのだろうか、と俺は俺に訴えかけた。
俺はこのまま何も救えないで、月の名の持ち主の皆を救えないで
終わるのだろうか。俺にはそんな力はないのだろうか...。
いや、それは違う。俺には戦うことの出来る力がある。
誰かを救うことのできた、この力がある。俺は自分の手を見つめた。
俺はこれまで不可能なことだって全て可能にしてみせた。
それが出来るなら...俺はアイツを救うことだってきっと可能だ。
そう、独りでに思い立った俺は文月に会うために5回の爆発が起きた場所、
1つ1つに足を運ぶことに決めた。斬月達の動向も気になるところだが
あいつらならきっと無事だろうと心に決めた。俺は月の石の刀を携え、
ビルの屋上を後にした。
爆発が起きた場所からはある意味親切なことに黒い煙が上がっているため
簡単に向かうことができた。俺は今、姉妹と決着をつけたビルからほど近い
偵察班の居たであろう場所にたどり着いた。
しばし探索していると、そこには後から書かれたであろうメッセージが
瓦礫に向かって赤いスプレーで大きく描かれていた。
「I cry」私は泣く
その一言だけだった。だがこれを見て俺は確信した。
これを書いたのは文月だと。筆跡が完全に文月だからだ。
このたった一言を俺は噛み締めた。
その時...俺の後部で物凄い衝撃音...いや、落下音が鳴り響いた。
俺は思わず、振り向く。すると目の前にはもう飛来してきた凶器が。
間一髪...ッ。避けることができたが、何者かの姿が見えない。
俺はこの場を離れ通りに出る。そこには月壊零式でもなければ、壱式でもない。
見たことのないタイプの兵器が佇んでいた。
人型だが巨大で、ビル3階分程ある。壱式は人と同じくらいのいわゆる
アンドロイドのようなもので人自身が身につけることもできれば、
自動操縦できるようだが、これは違う。よくよく観察すると胸部に
弐の刻印が刻まれている。
「クソッ...コイツが月壊弐式とでも言うのか...ッ」
このデカ物の後ろにはコクピットの入口のようなものがある...ッ。
これは...いわゆる巨大ロボットだ。実用化させるとは...。
感心している場合ではなかった。月壊弐式はロボットとは思えない速さで
ビルとビルとを駆け、こちらに攻撃を加えてくる。
どうやらこれをたった1人で片付けなければ先には進ませてくれないようだ。
俺は覚悟を改めて決め、月の石の刀を構えてそのたった1人で地を蹴った。