月の名の持ち主と人造能力者達の衝突篇part11 “彼女らとの決着 sisters the end„
俺は何をしたか、それは容易いことだ。
俺の周りを凄まじい速さで動き、かく乱しているインファストラスと
狙撃銃のスコープ越しにこちらを覗き込んでいるであろう
スヴャストラスの2人を同時に打ち取る方法はこれしかない。
単純にこの場を去る、逃げる素振りをしたのだ。するとどうだろうか。俺の周りから風を切る音が聞こえなくなったではないか。
となると後ろにインファストラスが居る、というのはほぼ間違いない。俺は体を急転換し、こちらに迫っていたトンファーによる打撃を間一髪で避ける。
「ン...!?」
それを目の当たりにしたインファストラスは何かの異変に気づく。
その異変とは先程の打撃を繰り出したはずの相手がいない、
つまり俺の姿が見えないのだ。何故なら俺は自分の背後を取ろうとしていた
相手、インファストラスの背後に居るからだ。それにやっとインファストラスも気づいたようだがもう遅い。そろそろあれが来るはずだ。
「んな...馬鹿な...ッ!!」
それに感づいたインファストラスが大きく目を見開く。
それも目を真っ赤にして。俺が背後に回れた理由は単純に、
以前目の当たりにして戦いに身を投じた相手の真似をしただけだ。
そう、諫早皆月のな。
諫早皆月の力は自分の速度を上げるものだろうが、
それを俺が真似したということでさえ気づくことなくインファストラスは
突然、俺の前に倒れた。
突然、というのは語弊がある。これは狙い通りの必然だ。
彼女は仲間の射線に入ったのだ。俺を狙って撃ったはずの弾道に入ってな。
彼女は地に伏せたまま、顔を上げた。
「これが...お前のやり方なのか、ターゲット。いや神代睦月よ...ッ」
俺はその彼女の嘆きを黙って聞いた。
「敵である私に正々堂々とし、こうして刃を交えていたというのに最後は自らの手で止めを刺さずに...ッ!!お前を言う奴は...!」
あぁ、その通りだ。彼女の言いたいことは分かる。
俺は自分の手で彼女らを倒すことは出来ない。
彼女らの苦しみを理解できるからだ。
「フフ...ハハハハハッ...だが見事ではある...
こうして私とスヴャストラスを同時に無力化できるものな...私の死によって」
その主張も間違ってはいない。同士撃ちによってこれまで研究所で
ともに戦い抜いてきた姉妹関係にある人を撃ち殺したのだ。
スヴャストラスは物理的には死なないが、心理的には死んでしまうだろう。
戦意喪失、というやつだ。
「あぁ...そうだな。お前のその事は間違いない。だが...俺は...
お前たちを...」
俺のその言葉はそこで途切れた。
「...助けたかった、か。貴様はどこまで馬鹿なのだろうか。貴様の命を狙っているものでさえ救いたがる...欲張り...者...が」
そして俺の目の前にいる彼女の言葉もそこで途切れた。
こうして俺が今棒立ちしていても狙撃が来ない。これは決着を意味する。
「さて...。戦いはまだ終わっちゃいない」
そうだ。まだこれが終わりではない。斬月はどうなっただろうか。皆は無事だろうか。だがそんな事を考えている余裕は無かった。
轟ッ...轟ッッッ!!各所でとてつもない爆発音が響き渡る。それも5回。俺は今、高台に当たるビルの屋上にいたため、起きたであろう場所が分かったのだが...。
そこは仲間のいるであろうピンポイントな場所であった。先程までの人造能力者研究開発局の奴らの戦いぶりや作戦とは大きく違う。奴らは数で俺らをどうにかしようとしていたはずだが...。
その時、俺の足元に落ちていた無線機から聞いたことのある声が聞こえてきた。この無線機は偵察班からの連絡が来るはずなのだが、その声は偵察班の人間のものでは無かった。