“恐怖の絶頂 The top of the fear„
2016/1/27(水)改稿。
俺はあの黒板に書かれた議論メモを目にして、自分の名前には月がある。
つまりは月を持つものなのだと自覚し、恐怖の感情に襲われた。
その恐怖はクラスメイト達の視線となり、俺は迷わず教室を後にしてしまった。
そしてこの恐怖は長くて静寂な廊下で増大する。
とりあえず、少しずつでも良いから歩みを進めてこの校舎から
本当に脱出できるところが無いのか、校内を見回ることにした。
特別棟に入ったぐらいの事だ。後ろからこちらに近づいてくる足音がする。
その音は初めは小さかったのだが段々と、段々と次第に大きくなる。
俺は思わず後ろに振り返る。
「逃げろッ、頼むから逃げてくれ。クラスの一部の奴らが君を狙っている。君が月を持つものだと言い、神代睦月を始末すればここから出られるだの訳が分からない事を言ってるんだ。クラスは今、騒然としてるが錦織さんがどうにかしてる。今のうちに……ッ」
そう怒鳴りつけるような大きな声で言ったのはがクラスの学級委員だった。
俺の思っていた恐怖は具現化してしまった。
丁度その時、学級委員の後ろから大きな声が再び聞こえてきた。
「コォウジィロォォォ___ッ!」
それは人間が発して良いのか分からない狂気に満ちた叫び声だった。
よく見ればそいつは大きなノコギリの様な物を両手に抱えていた。
奴は走るのを止めず、こちらへと迫ってきていた。
「早くお前も逃げるぞ、学級委員さんよ」
今居るこの廊下は近くに階段もなく、一本道だった。
教室に入るも窓から出れる訳もない。
俺達はまるで仕組まれているかの如く、校舎の端へと、
更に端へと追い込まれていった。
そしてついに校舎の行き止まりのところまで追い込まれる。
後ろには壁があり逃げることは出来ない。絶体絶命というやつだ。
「ヤットオイツイタヨ……ハハハハハ…ッ」
気の狂ったクラスメイトはそう言う。
奴の目はどこかトローンとしていて正気を保っていない。
それ程恐怖が溜まっていたのだろう。恐怖が異常に積み重なれば頭が
おかしくなるのも無理もない。
「フフフ…ッ、コレデココカラデレル……」
奴はそう言うと大きなノコギリを振りかぶって勢いをつけ、
こちらに振りかぶってきた。
何も防御できるものもない。これはここで死ぬのかと思った矢先、ノコギリが俺に刺さることは無かった。その代わりに俺の前には血の噴水が吹き荒れる。
「ッッッ………ッ!」
クラスの学級委員が俺を庇い、声にもならない絶叫をする。
「止めろ、止めてくれ、なんでお前が……。止めてくれェ……ッ」
なぜ、学級委員が俺を庇ったのか。
それを考えようとした時には彼は地面へと倒れ力尽きていた。
「貴様ァァァ____ッ!」
俺が学級委員の力尽きた姿を目の当たりにして無意味にも殴りかかろうと
した時、俺の拳は気の狂ったクラスメイトには届く事が無かった。
「フ、フフフフ……ッ」
気の狂ったクラスメイトは笑っていた。
それも、大きなノコギリを自らの腹部に突き刺しながら。
「お、お前は何をしているんだよ……?」
俺は怒りなのか悲しみなのか自分でも良く分からない感情を
抑えながらそう言った。
「ハハハ……ッ、俺にはただ人を殺すという重さがここまでの物とは
思わなかった。オマエを殺せば出られるのならやろうと思った。
ただ、ムショに行くのはご免だからナ」
彼もまた、学級委員の様に力尽き、虚しくも地面へと倒れた。
俺も血の吹き荒れる争いを受けて、まともに立っていられず。
気が動転し、地面へと倒れた。