人造能力者研究開発局篇part11 “脱出のキッカケ„
どれだけ時間が経ったのか分からない。
だが相変わらず俺は地面に崩れ落ちたままの姿勢で
ずっとこのひび割れている床をただひたすらに眺めていた。
俺に押し付けられたのは今まで良く使っていた、
斬月の力を真似た斬撃の力を失ったという現実だ。
俺は五十嵐のあの言葉を何度も、何度も脳内再生してしまうほど
現実を受け入れられなかった。あるいは受け入れたくないのだろうか。
「じゃ、君の力を喰わせてもらうよ」
あの言葉にはこんな重みまで備わっていたのか。
「ハハハハハ...」思わず俺は笑みを浮かべる。
その行為に特に意味は無いがもう笑うしか無かった。
そしてまたしばしの静寂が戻り、床を眺めるしかないと思っていたが
俺は咄嗟に目を前に向けた。
「やっと気づいたか、ターゲット」
「ずっとそんな調子とは貴様らしくない」
そこに居たのは淡いブルーの髪を持つ双子。
1人は背中まで髪を伸ばし、大人しそうにも見える少女。
1人は肩に届きそうなショートヘアの凛々しく構える少女。
この2人には言わずとも見覚えがあった。
「ムーン=スノー姉妹か。無事だったんだな」
俺から出た言葉に対し2人はやれやれといった表情を浮かべた。
「貴様は相変わらず敵である我々を気にかけていたのか」
「この状況でそんな発言をする貴方に疑問を感じます」
「こんな状況だからさ。もう俺は力を1つ失った。
ここから出る手段も考えることをやめた。そんなどうしようもない状況
だからなんじゃないかな」
俺は自分自身何を言っているのか、もう訳が分からなかった。
それを聞いた2人は何も言わずに持ってきていた大きめの袋をあさり始め、
何も言わずに鉄でできた何かを取り出した。
それを見た俺は思わず口を開く。
「どういうつもりだ...?」
彼女ら2人が取り出したのはこの牢の鍵だ。
なぜこの2人が俺にそんな行為をするのかが分からなかった。
「これは五十嵐の命令ではない。我々の独断だ」
スヴャストラスはそう答えた。
「じゃあ尚更だ。どうして俺を助ける...?」
「あの時の借りだ。借りを返したかった。それだけだ」
スヴャストラスに続きインファストラスはそう答えた。
あの時...、大崩壊地区の時か。
「さぁ、出ろ。五十嵐の言っていた通り貴様はこんな所で終わる奴じゃない。
この先の警備も貴様のせいで手薄になっている」
俺は牢から出て、言われた通り脱走しようとすると手を取られた。
「か、勘違いするんじゃないぞ。ただ借りを返した。それだけだ」
「そうです、お姉さまの言う通り借りを返しただけです。
その...まだ決着も着いてないですし...」
「あぁ、分かってる。次会う時には決着を着けよう」
俺はそう言い残しこの人造能力者研究開発局からの脱走を
いや、脱出を試みる。この施設の情報も一通り実は取得した。
もうこれ以上ドジを踏むわけにはいかない。




