新生脱出不可能の始動篇part7 “1ヶ月と半分という長い時間„
目が覚めると車の中だった。
「あ、お客さん。起きましたか、そろそろ着きますよ...」
と運転手が言う。今俺がいるのはタクシーの中らしい。
ドアのガラス越しから景色を見るとそこはもう見慣れている
景色があった。
というかタクシー?長門忌月の仕業だな...。
そういえば俺はお金も何も持っていなかったと思い視線を外から
自分の膝の上に移す。その膝の上には茶色い封筒が置かれていた。
「ん...」
見覚えが無いので思わず手に取り、覗いてみるとお札と小銭が少し
入っていた。これもおそらく長門忌月の仕業か。
「お客さんここで大丈夫なんだよね?」
と運転手が言うとタクシーが止まる。止まった場所は丁度俺の家の前だ。
「え~、料金2650円ですね」
無愛想にお金を入れるトレーを差し出してきた。
俺は茶色い封筒をひっくり返しそのままトレーに入れる。
「はい丁度ね。レシートはいるかい?」
レシートは断ってそそくさとタクシーを降りたが
お金が丁度だったのが気がかりだ。アイツはそんな事まで知っているのかと
思ったが深く考え込んでも解決しないと考え、黙って家のドアをノックする。
しばらく経つと開錠音が聞こえ、皐月が出てきた。
「ただいま、皐月」
その俺の言葉に皐月が怒る。
「アニキ。どこに行ってたかは聞かないでおいてあげるけど
連絡の1つも寄越さないとか...流石に怒るよ。いい加減にして」
いつもの皐月以上に怒っているのが伺える。
それもそうだろうな。家を1ヶ月と半分も空ける事になってしまったのだから。
「あぁ、悪かった...。確かに連絡入れられなかったのは俺が悪い。
ごめんな...皐月。皆も心配していただろ...?」
と恐る恐る聞いてみる。
「そうだよっ!皆毎度おなじみで心配してたよ。でも凄い焦ってたのは
水篶さんと秋葉さん...ぐらいだったのかな...。後の皆はなんだかアニキの
行き先を知っているかのようだったよ...?」
確かにその通りだとしたらその通りかも知れない。
身近な名前に月が付く仲間は俺が脱出不可能に挑み続けているのは知っている。
知らないのは水篶や秋葉、皐月くらいなのは変わらないだろう。
「ともかく...悪かったから家入れてくれ...寒くてしょうがない」
もう季節は完全に秋真っ只中。風が吹き付けてくると非常に寒い。
「しょうがないなぁ...バカアニキは」
そして家に入ってからもう汗や汚れでベタついていた服を
洗濯機に投げ込み風呂に入ったりなどしてやっと落ち着いた。
ふと放置されていた携帯で受信箱を見ると凄まじい数のメールが...。
「ふぅ...」
思わずため息が出てしまった。俺は明日皆に誤魔化しの言い訳を
言おうと思い、失礼ながら読まずにゴミ箱へと移した後消去した。
...ゴメンな。
そして1ヶ月と半分もあんな場所にいた為非常に疲れていたのか
気づけばもう朝になっていた。
「だいぶ寝たな...」
だいぶ寝た、か。確かにそんな気がする。
あの場所ではすぐには寝付けなかったからな。
このあと皐月を起こして、一緒に朝食を取ったあと、
制服に着替えて、身支度を整え、皐月とともに家を出た。
これも1ヶ月と半分ぶり...なのか。
俺は学校に着くまでの通学路、言い訳を考えることにした。
脱出不可能をやっていることは伝えてもいいだろうが、
月の名前の話や力について言うわけにはいかない。言えるわけがない。
ともかく一心不乱に考えた。