脱出不可能の異変篇part19 “押し寄せ消えるもの„
大きな音が聞こえたのはおそらく近くで雷が落ちたらしく
そしてこの広い地下空間の奥から水が流れてきているような
そんな音が聞こえていた。これが放水炉の役割か。
「ハハハハ...ここもこれまでのようだな。助かりたいならば今だぞ?」
長門が言う。全てを分かりきっていた、そんな風に。
それに対し、俺は疑問で返答する。
「どういうことだ長門、もしかしてお前...」
「あぁ、その通りだ。このままだと流れてきている水がここを埋めつくし
私達ともども溺れ死ぬだけだ。だから言った、助かりたいなら今だけだと」
「...ッ!」
どうする...俺。このまま長門と決着をつけずに終わっても良いのか...?
「そういえば...言い忘れていた。君との決着はついている。
それも、始まる前からな」
「始まる前から...だと?」
「そうだ。決着は私の負けが決定付けられていたんだ。
さぁ睦月君、行くが良い。先程のエレベーターは使えないがその裏にある
梯子でならば上へと上がれる...行けッッッ!」
「長門...ッ!?」
「私の負けが決定付けられている理由が知りたいか?...愚かなやつだ。
だがいずれ分かるさ。この先も様々な事が君を待ち構えている、ということは
教えておこう。ではな」
長門がそう言った時、放水されて来た水はもう後ろまで来ていて
俺は走った。地面を蹴って、蹴った。その瞬間、長門が水に飲み込まれるのも
見えた。あいつは結局何だったんだろうか。あいつはずっと中立を
保っていたが最後には敵として。だがその最後の最後には俺には仲間に見えた。
梯子が見えてきた。俺は後ろをもう、振り返らず急いで梯子を登った。
長門がどうなったか...それは誰にも分からない。