“忠告と充実 advice and plenitude„
俺が呼ばれた弓張月駅前にあるカフェは駅前に大きくそびえ立つビルの一階に併設された洋風な雰囲気のカフェだった。いざ入り口の前に立つとドアにある小さな小窓から中の様子が伺える。中には今どきの女子が多く見られ、中身も中々洒落ているという男子高校生には少し入りづらいカフェという事が分かった。だが水篶に呼ばれたからには入らないわけにも行かず、意を決してドアを開ける。
店のドアを開けると、開ける前から気づいていたのか、奥の方で俺に手を振る女の子が居た。恐らく水篶だろう。俺は奥の水篶が居る方へと足を運び、その後腰を下ろした。中々洒落た空間でジッとしづらい。
「いきなり呼んだのに来てくれてありがとう」
水篶は初めにそう言った。
「呼んでくれたのは嬉しいんだけど、何かわざわざ俺を理由があるんでしょ?」
「うん、でもその前に飲み物でも頼も?」
そう言われ、大人しくメニューを開く。コーヒーから紅茶、デザート類も中々豊富である。暫く眺めていると水篶が「私はミルクティーにするけど、睦月くんは?」と聞いてきたので目星を付けていたブラックコーヒーを頼んだ。
「さて、飲み物も頼んだことだし、本題に入るよ睦月くん。
単刀直入に言うけど瀬々良木さんに何か言われてたでしょ?
多分、脱出不可能のクリアについてだとは思うけど」
その言葉に俺は驚いた。その表情は隠せていなかった様で、
俺の様子を見た水篶が話を続けた。
「やっぱりね。今からでも良いから、今後瀬々良木さんに関わらない方が良いよ」と、いつもとは違う、真剣な雰囲気でそう言った。
「どうしてだ? 何か理由があるのか?」
「瀬々良木さんの家は父親が絶対の権力を持っていて、
父親の命令は絶対なの。恐らく、睦月(むつきくんに接触するように命令されたんだよ。わたし、瀬々良木さんの父親の和樹さんにだいぶ昔に求婚された経験があるから分かるの」
俺は水篶がさらりとカミングアウトした事と
その言われた女の勘に驚いた。
「分かった。彼女には気を付ける。けど求婚されたってどういう事?」
「わたしが中学生の時に、親にお見合いさせられたのが瀬々良木和樹さんなんだよ。もちろんお断りしたけど……」
俺はこれを聞き、「なんか、ごめん」と軽く謝罪する。すると水篶は「良いの、気にしないで」と言う。暫く俺と水篶の間に少し気まずい空気が漂う。そのタイミングで店員が注文したブラックコーヒーとミルクティーを持ってきたのでお互いに黙り込みつつ、
マグカップを片手に持つ。
「これ、美味いな」
家で良く飲むインスタントとは全く違う。コーヒーの香ばしいにおいが鼻からその奥へと通っていく様な爽快感さえも感じられる。その様子を見て水篶が頬を赤らめた。
「やっぱりそう思うよね? ここは私の行きつけなんだぁ……」
あまりにも可愛らしい表情を浮かべていたので俺も少し赤くなっている、そんな気がした。そんなこんなで二人とも飲み物を飲み干したところで会計を済ました。
帰り際、水篶が照れながら言った。
「今日短い時間だったけど楽しかったよ、睦月くん? …………とっても」
最後の方が少し聞こえなかったが楽しかったと聞き取れた俺は短く、
「おう、俺も楽しかった。今日はありがとう」と言い、今日は別れた。