“閃き intuitive inspiration„
2015/5/26(火)改稿。
2015/12/24(木)再改稿。
いきなりではあるが、部屋を見渡してみてなぜここが脱出不可能と言われているのか分かった気がする。
なぜ脱出不可能と呼ばれているか、それは簡単なことだ。この部屋に置かれているものの多くがダミーだと考えられるからだ。その中で例を挙げるならばこの模造刀だ。観賞用に置かれているのだろうが、これをどこに使えというのだろう。全く見当もつきそうにない。
長門嘉月がこれまで作ってきた脱出ゲームは舐めるようにやっていて、今でさえ同じところをやり直しているほどだ。だがいざ、こうして現実で脱出ゲームをやるのと画面の中で脱出ゲームをやるのは違うということか。
悔しいが、この部屋にヒントとなるものは存在しない。それもある中、時間制限まである。下手したら脱出も無理かもしれない。
そう内心諦めかけていると不意に水篶が声を掛けてきた。
「睦月くん、そんな深く考え込まなくても良いんだよ? それじゃ、楽しかったという顔をしていなかったさっきの人達と同じだよ?」
その一言でハッと目が覚めた。確かに、水篶の言う通りだ。クリアしたいという気持ちで居過ぎた。残り時間七分、じっくり考えることとする。
俺は改めて部屋を見渡した。
先ほどのタイマーが壁面にある方を正面に見て右側の方の壁には四角い穴が三つずつある。この穴には恐らくブロックを差し込むのだろうと考えていたのだが、そのブロックはあっさりと見つかってしまった。これは言わずともダミーだろう。
残りあと四分。俺は内心焦り始めていた。何も思い浮かんでこない、こんな気持ちは今まで無かった。この脱出ゲームはそういう気持ちにさせる様に造られているのだろうか。
いや、そんなことはどうでもいい。俺は焦る心をどうにか鎮めようと昨日コンビニで購入した清涼菓子、フリースクをポケットから取り出して特徴的なフォルムの入れ物を口元へ近づけては口の中へと放った……筈だったのだが。
口に含んだ筈のフリースクの小さな粒は俺の顔の横を通り過ぎ、後ろの方へと飛んで行ってしまったようだ。やってしまった、もったいないなと振り返ったがそのフリースクはどこにも見当たらない。顔の向きを元に戻すとそこにはフリースクがあった。
これはおかしい。
これはどういうことだ。
後ろに飛んだ筈のフリースクが後ろには無く、前の元の位置にあったのだ。後ろにフリースクが飛んでいかなかったのだろうか? いや、それはあり得ない。俺はこの目で見たはずだ。
ではなぜ……。
その答えは一つしかない。俺は閃いた様に行動を開始した。