誕生
私の頭の中が真っ白になった事は憶えています。
「オギャ~~、オギャ~」
「お方様、女の子でございます。そして、なんと綺麗なお子でございましょうか!」
そう、私は今、宮中でも一、二を争われている左大臣の一の部下である方を父に持つ、上級貴族の家に誕生しました。
でも、私は普通の家に生まれたかった。
生まれたばかりの私は周りを見ようとしても目が開きません。耳だけが過敏になって周りの状況が分かってきました。
でも、私は前世の記憶を持っています。これからはここの家の家族の一員として生活して行きます。
今頃、思うのですが私が最後につぶやいた神様への冒涜が聞き入れられたのかと思います。
もう一度、人生を与えて下さって有り難うございます。
この世界でも両親に可愛がられたいと思っております。
私が生まれて二十日ほど経った頃、目が見えるようになりました。でも、まだ話す事は出来ません。
私はお乳を飲んでいますが、傍で私の手を取って微笑んでおられるのは誰でしょうか?
「咲子、早く大きくなって下さいね。」と話しかけられています。
「ほんに、咲子様はお賢いお子様でございまする。」と乳母なんでしょうか話されています。
私の名前は「咲子」なのですね。この綺麗な方は「母」だと理解できました。
それから数ヶ月は幸せな日々が続いたと思います。
私が独り遊びをしている時、急に母は私を抱き上げて仰いました。
「咲子、これからはお母様と何時までも一緒ですよ。」と私の頬に涙が落ちます。
お母様が泣いておられたのです。
それから1年経ちました。
私は少しづつ言葉を覚えています。でも、この世界の赤ちゃんはまだまだ言葉を発することは出来ません。皆さんに不信がられないように勤めなければ、お母様が悲しまれます。
そして、私は初めて「父」に出会いました。
父は私を見て「なんと・・・芙蓉にそっくりではないか!」「芙蓉」とは母の名前でございます。
母は私を抱き上げる父をみて幸せそうに微笑んでおられました。
でも、私の記憶はここまでしかないのです。
咲は「咲子」として誕生しました。