決戦 3(咲子)
わたくしは加茂の異変に気が付きました。
その時、火車は止まります。
周りの気配は静かです。自然に火車の扉は開きます。
わたくしは加茂を連れて外に出ました。わたくしの目の前に康紀さまが立っておられます。
本当は駆け寄りたい気持ちで一杯だったのでございますが、なんせ加茂の足は進みません。
それに加茂はわたくしの袖口を強く握っているのです。
加茂は小さな声で「・・・・・咲子様・・・ここは?」
そうなのです。加茂は今、何が起っているのか事態が飲み込めず、目が宙に漂っているよなのです。
確かに。わたくし達二人の上、周りには百鬼が蠢いています。
わたくしの前に立っておられる康紀さまだって今、何が起っているのか状況が飲み込めず、ただ呆然と眺めておいでなのです。
そこへ、鷹明さまと友親さまが駆けつけて来られて「咲子殿、大丈夫でございますか?」とお聞きになられます。「はい。大丈夫でございます。ただ、加茂と康紀さまが・・・・・」
すると鷹明さまは康紀さまの背中を強く叩かれています。きっと、康紀さまを正気に戻されたのでございましょう。「咲子殿、加茂殿。こちらへ参られよう。」
わたくしは目を瞑って「神様、どうか何事も起りませんように。」と、つぶやきました。
わたくしが目を開けて康紀さまのところへ行こうとしましたところ、もう百鬼の姿はありません。
康紀さまは涙を流してわたくしのところへ駆け寄って下さいました。
百鬼の姿が無くなったのはきっと、陰陽師でおられる鷹明さまのお蔭でございましょうね。
「咲子殿、怖くはありませんでしたか?」
「はい。・・・・・・でも、恐ろしく・・・恐ろしかったでございます」
咲子殿は普通のお方では無い!と俺は確信した。
もしや・・・・・いいや、そんな事はありえない。
とりあえず、俺の屋敷に連れて行かなければ。
もう少しで夜も明ける。
わたくしと加茂は康紀さまに連れられて鷹明さまのお屋敷に来ています。
わたくし、正直に申しまして今、ホッとしている状態でございます。
やはり、あの百鬼と火車・・・・・・
「空想」ではなかったのですね。今になって恐ろしさで体が震えております。
康紀さまは「咲子殿。良く頑張られた。」と涙ぐまれています。
わたくしも康紀さまのお顔を見て「やっと、わたくしは康紀さまのところへ来る事ができました。これからはずっと康紀さまとご一緒です。」と思い嬉しさも込み上げて。恥ずかしい事なのですが、わたくしは声を上げて泣いてしまいました。加茂も「咲子様、ほんに・・・・・良かったでございます。加茂は・・・加茂は・・・・」と泣きじゃくっています。
わたくし達の傍に控えておられた友親さままで涙を流されておられます。
わたくしは嬉しさのあまり考えていなかったのですが・・・・・・お父様・・・
わたくしが居なくなった今、どうされるのでしょうか?
お父様・・・・咲子をお許し下さいませ。
あと、少しです。
まだ続くのか・・・・(康紀)