プロローグ
俺は今日、三年間通ってきた中学校、月の江第三中学校を卒業した。この三年間は妙に速く過ぎ去った気がする。俺は周りの高校よりもレベルが高い高校への入学が決まっているので、小学校の頃からの友達や中学校でできた友達とは、会う機会がな減るだろう。その事を少し、寂しくも感じていた。
(これで、最後なのかな……)
先程まで、記念撮影や涙ぐみながら話す人などで、落ち着かずにいた。が、今じゃ、この校庭にいるのは、俺だけになってしまっていた。俺は校門に寄りかかり、皐月を待つ。今日、友達からの昼飯の誘いも断っているのは、昨日皐月から、『明日、卒業式が終わったら、校門で待っててね』と言われていたからだ。皐月、宮森皐月(みやもり さつき)は俺の幼なじみであり、学内では一つ後輩でもある。後輩といっても、歳の差は1ヶ月程しかない。俺は三月の中旬、皐月は四月の上旬に誕生日を迎える。
「皐月よ……いったい、いつまで俺を待たせる気なんだ?」
腹が減ってきた俺は、少しテンションが下がってきていた。そう、呟いた時だ。体育館から一人の少女がこちらへ小走りで近寄って来る。
「飛鳥、卒業おめでと!」
「おう、ありがとな。で、まさかそれだけを言うためだけに俺を待たせた訳じゃ無いよな?」
「もちろん!」
「で、一体なんだ?」
「えっと、その……」
すると、少し俯き、声が小さくなってしまった。なんだ? 愛の告白でもする気か?
「第二ボタンちょうだい!」
「はぁ?」
いきなり、見当違いの事を言われ、変な声が出てしまった。
「別に構わねぇが。なんで、そんなもん欲しがるんだよ?」
「え、えーと……」
何だか歯切れが悪いな。ん? もしかして……
「成る程な。ついに、俺を尊敬の対象にする気なんだな? うむ、良い心がけだ」
そう言い、第二ボタンを力を込めて外した。
(でも、第二ボタンってそう言うことなのかな?)
「ほらよ」
俺はぶっきらぼうにボタンを渡す。
「あ、うん。ありがとう!」
少し、頬を紅潮していたが、特に指摘はしなかった。
「それじゃ、帰るか?」
俺と皐月が一緒に帰ることなど珍しくはない。
「あ、えっと、ごめんね。後片付けがまだ終わって無いんだよ」
「は? ここにいて良いのか?」
「先生が目を離してる隙に抜け出してきちゃった」
テヘッといった感じで話しかけてくる。
「そうか……、ならサボって帰ろうぜ。」
一人で帰るのも何だしな。
「え? でも……」
「大丈夫だって、俺も去年サボったし」
「後片付けの終わりにも点呼あるよ?」
「え? ……あ!」
そして蘇る去年の出来事。
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トゥルルルルル トゥルルルルル トゥルルルルル
「はい、夏目ですけど?」
「夏目、今日のあとk」
ガチャン
トゥルルルルル トゥルルルルル トゥルルルルル
「はい、夏目ですけど?」
「今電話切りやがっt」
ガチャン
その後、電話は来なかったものの、翌日酷く叱られた。
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「そう言えば、去年叱られた記憶が……」「まったく、飛鳥は子供ね」
「皐月もこんな所で、俺と喋ってると俺と同じ運命を辿ることに……」
「はいはい、それじゃ、またね飛鳥」
俺の言ったことをスルーし、走り去って行く我が幼なじみ。
「さて、一人寂しく帰りますかね」
そう呟き、俺は家路についた。