砦にて
翌日アンは箒に跨り空に消えて行った。やっと一人だ、僕はカトラスとピストルを持つと箒に鞄を載せて近くの村に行く事にした。ご飯の買い出しもあったし現地調査しないと。白い山を越えれば直ぐに村に着く。そんなに大きく無いが、漁港もあって、市場も有りそうだ。
教会の前の広場に降りると皆驚いていた。生の魔法使いを見るのは初めてとゆう人も多いだろう。「すいません。パン屋さん何処です?」近くに居た女性に声を掛けた所震える手で市場の方を指差した。僕は礼をいい、歩き出した。何気無く後ろを見ると、子供が何人も付いて来る。チットした見世物だと思ったんだろうか、子供にお店を聞きながら歩いて行くと医者らしい人物に話し掛けられた。「あんた魔法使いだろう?軍人ぽく無いな。」度のキツイ眼鏡を掛け直し僕の首もとのタグを見た。「魔法薬を錬成出来るのか?そいつは有難い。なあ俺はジョンソンだ、この先で医院をやっているんだ、朝飯は?俺がご馳走するから」ジョンソンに強引に連れて行かれた。
「いやー、軍に知り合いが居てな、何でもアン様の旦那候補とか軍医だとか、色々な噂話が有ったんだ、まさかこんな田舎町に来るなんて」ジョンソンは自分のコーヒーに岩塩をいれかき回した。「ああこれか、あんたもいれてみな、味が引き立つ。」イヤイヤ僕が呆気に捕らわれているのは、貴方のせいですよね、と言いたかったが此処は我慢。「此処に薬局は?何処でも一軒ぐらいあるでしょ?」僕の質問にジョンソンが溜息を吐いた。「去年の秋薬剤師の爺さん天国に旅立っちまってこの俺が調剤してるのさ。でもな俺は外科医なんだ。病人診れるか?」学校で内科の勉強はしたが、専攻した訳じゃ無い。「見れない事無いけど、あくまで医者の見解に沿って練成するんでね、何処までできるか?」ジョンソンがニヤリと笑った。「大丈夫。俺がサポートするから、そんなに不安そうな顔をするなよ。そう名前聞いて無かった、」「ミハイル ゾーレッツです。」ジョンソンとスケジュールの事で話し合い、週三日のペースで顔を出す約束をした。アンに薬の相場聴いとかないと、ダウンタウンじゃ普通の薬でも随分と高く思ったけど。
パンなどの日常使うものを仕入れて、砦に帰ると昼過ぎになっていた。ヤレヤレ砦は遠いので、押しかける事も無いと思うけど、何か不安感が拭えない。最善を尽くすしか無いか。城に行った時に医学書借りて勉強するか。バケツとモップを抱えて掃除をしていると何時の間にか外が暗くなり雪が降り出した。あまり雪を見た事無かったのでしばらく眺めていた。(南国希望だったけど、雪も良いものだ)
すっかり冷えた体を温めるべく熱いスープを作った。出来映え良さに自画自賛しながら食事を取っていると人の気配がする。アンに脅された事もあって、急に怖くなった僕はカトラスとピストルを持つと薄暗い廊下に出てみた。階段を降りて一階に行くと、扉の閂を見た。大丈夫外した跡は無い。でも話し声がする。砦は僕一人なはずだ、話し声がするはず無いな。そーとあちらこちらドアを開けてみたが、誰もいなかった。どうもキッチンの排煙菅から聞こえる。排煙換気菅が有る所は下の温泉しか無いな。少し開いたドアから覗くが湯気で見えない。でも誰かいるんだ、散々迷った挙句、ピストルを構えてドアを開けて見た。ほら、アメリカの警官がよくやっているやつ。バッチを上げてピストル構えて。「FBIだ、両手を挙げろ!」最初の某組織名は言わなかったが、自分なりにカッコ良く飛び込んで、濡れたタイルで滑って転けた。もう少し運動しとけば良かった。お尻をさすりながら立ち上がると目の前に人魚が居た。おとぎ話に出てくる奴が十人ぐらいか、皆とても綺麗だった。「大丈夫?」半分笑いながら人魚が近寄って来た、いや湯船を泳いで来た。「貴方だれ?」まて!それ僕のセリフ、いいよジェントルらしく名乗ってやるか。「ミハイル 此処の主になった。昨日からだけど、結界無かったの?」人魚は胸を隠しながら湯船の縁に腰掛けた。他の人魚も寄って来た。とても綺麗だから、目のやり場に困る。「そんなにモジモジしなくても、結界無かったの。水のトンネルとても長いから張らなかったかも。たまに来ておしゃべりしているの。外はとても寒いし。」今日は雪も降っているしそうだよな。「私たち見ても驚かないの?水夫なら今頃大騒ぎ。呪われる!!なんてね。レディに失礼でしょう?」この喋っている人魚が一番年上だろう。僕より少し上かな、まだとても若いのも混じっている。「いいや、僕の邪魔さえしなきゃいいよ。名前聞いて無かった。」「マリでいいよ」「じゃあマリ、後でお風呂入りたい。少しの間撤収してもらえる?」クスクス笑い声がした「いいよ。」僕は礼をいい濡れたピストルを拾うと部屋に引き上げた。魔法薬で使う海藻を知っているかもしれない、仲良くしとこう。すっかり濡れた上着をハンガーに掛けて夕食の残りをかたずけた。
本を読みそろそろ寝ようかと考えてドアを出た。タオルを持ち、装填し直したピストルを脇に下げた。別に怖い訳じゃない、護身用だ。お風呂のドアを開けると、静かだったので服を脱いで入って行ったら、実は岩陰に隠れて居た。「イヤー悪気無かったの、でも外は寒いじゃない。お酒ご馳走したげるから。」皆革のジョッキを持ってご機嫌そうだ。僕が端の方に入ると、「モジモジして無いでコッチに、女の子と付き合った事あるでしょ?」お酒のせいか、ほんのりピンク色の顔をしたマリが寄って来た。足は魚と思っていたが、なめらかだった。「此処で何してるの?随分と長い間空き家だったと思ったけど。」少し酔っているのか形のいい大きな胸を隠すの忘れている、参ったな何処見て話するの?「実は魔法使いなんだ。国から研修で此処に来た。」「じゃあ、何処かの貴族?そう見えないけど、」大きなお世話だ。確かに品がないのは認めるが。「ダウンタウンのパン屋さんのせがれです。何故か僕だけ魔法使いなんだ。マリ、魔法使える?」彼女は首を横に振った。「此処にいる皆使えない。でもすごい、魔法使いが来るなんて。彼女は?許嫁とか居るの?」今度は僕が首を横に振った。「そこのソフィなんてどう?とても綺麗だし私よりいい胸してるよね。」ヤバイ胸を見ていた事ばれてる。顔が赤くなるのが解るくらい火照っている。此処は退散するか。チラリとソフィと目が合った、とても綺麗だ。「明日もおいで。食べ物あるとうれしいな、毎日魚じゃ飽きちゃう」僕は礼をいい服を着て部屋を出た。何か疲れたな、今日は色々な人物に会う。毛布に包まりねてしまった。