砦の下見
よし!誰もいない、と思う。鞄を下げて、誰も居ない廊下を静かに歩いて行く。王様自から結界を張ったそうでナカナカ切れ目が無い。弱い所が有りそうだが、良い腕してるね全く!ウロウロ彷徨っていると、弱い所を見つけた。人間努力してみるもんだ!小さなバルコニーから箒で飛ぼうとした時ネットが飛んで来て確保された。(本部え~確保された。少佐の到着しだい引き渡す。)(本部了解~抵抗する場合眠らす許可を出す、速やか~) ハイハイ抵抗しません。僕は頭の後ろに手を回し、武装解除されるのを眺めた。罠か!出来すぎたバルコニーな訳だ。「さすが慣れてるね、捕まり具合最高だ!」アンがニヤニヤしながら現れた。「良い天気ですね、少佐ピクニックの許可を願いたい。」僕はおどけて答えた。「午後に出掛けてくれないと。警護の予定も有るんでね。馬車を仕立てておく。昼過ぎに来てくれ。」僕はコクコクと頷いて大人しく部屋に帰った。うーん、手の内読まれている。仕方ない、午後まで待ってやるか。昼食の後、アンがやって来た。「馬車を用意した、行こうか。」ガラガラ馬車に揺られて、砦を目指した。何個かの集落を通り揺られ砦に着いたのは夜遅くだった。直ぐに兵達が夕食の準備と周辺の警護を始めた。アンと僕は分隊を引き連れ砦に入って行く。砦の中は埃っぽく、掃除のしがいが有りそうだ。「中庭で夜営する。土嚢の設営を!」下士官達がテキパキと動き、簡単な野戦陣地が出来た。「何で、砦の中で泊まらないの?」僕はアンに聴いてみた。「罠が仕掛けられて居るかも。それに僕は綺麗好きなんだ。」
元々、この砦は海軍の警備用だったそうだ。しかし、毎年冬場は氷が張り航行に支障があっが、新しい軍港の準備と射程の長い要塞砲が出来た為に放棄された。まあ、人が来ないのは有難い。勉強の邪魔なので静かな方が良い。「此処なら警備もしやすいだろ?人が来ないんだし。」「君が戦闘に向く人物だったらな。からっきしダメだろ?」確かにそう言われればそうだ。「心配するな。多分結界を張張り直せば大丈夫。父上が何とかしてくれる。その前に調査しないと。」「毎年学校からそこそこの数の魔法使いが出るだろ?何で数が少ないんだ?」アンがゆっくりコーヒーをすすりながら鼻で笑った。「お金の力を借りたのさ。純血にこだわると天才かバカしか居ない。そんなに力も魔力も無いのに、家名だけで入学出来る。」なるほど、僕が上位にランキングした訳だ。「長老連中は良く知っている。何処の家に支障があった。この先どうなるか。」僕には関係無いな。自由に研究して任期が終わればお袋の所に帰る、それだけだ。「さ!寝よう。明日は忙しいぞ。」僕は毛布にくるまりウトウトし始めた。今日は疲れた、なれない馬車のお陰で腰も痛いし。アンは少佐か。カッコイイな。何時の間にか深い眠りに落ちた。
翌日、探検が始まった。まずは魔法で罠を探すが、コレと言った物は見当たらない。中の方は荒れていたが、掃除だけで大丈夫そうだ。兵士に手伝ってもらい使う部屋だけ掃除した。地下に海と繋がる温泉が有り湯気を立てていた。「水兵達が保養所にしていたらしい、街が遠いのが不満だったそうだ。」
作業があらかた終わり、兵士達を撤収させると、アンは箒を取り出して、砦に残った。上空から地図を書いて正確な位置を記録している。何でも結界を張るのに必要だそうだ。日も沈み始めた頃ようやく終わり、アンが降りて来た。「食事にしよう、置いていってくれた瓶ずめの野菜と塩漬の肉が有る。」暖炉に火を起こして、食事の準備を始めていると、アンが鞄を持って来た。まさか泊まるのか?僕はこのまま居つくつもりで服を持って来たけど。「心配しなくて良い。明日帰って結界を張ったら君が一人で居ても大丈夫。今日は無防備だ。僕が居れば魔法使いが来ても大丈夫。」その前に他の危機が来そうだけど、あまり考えるとまた思考を読まれちゃう。でもね、18才の男の頭の中なんてピンク色だしな~参ったな、アンがチラリと睨んだ。「大丈夫。僕の方が強い。」ハイハイ大人しく寝ます。その前に温泉気になるな、埃まみれだし行ってみるか。僕がゴソゴソ鞄をあさりタオルを取り出すと廊下を静かに歩いて行く。階段を降りて真鍮のドアを開けると、暖かい部屋に入った行った。壁のドラゴンの松明立てに魔法で火を付けると湯船が浮かび上がる。ただ地面を掘って石をひきつめただけだったが、ワイルドぽくっていい。裸になりタオル一枚でお湯の中に入って行った。両親呼んであげれば喜ぶな、親父腰が痛いなんて言ったっけ。後ろで音がした。アンが入って来たらしい、「岩陰に居る。こっち見るな」そんな事言われてもな余計見たくなるじゃないか。「離れて居ては警備に成らないだろう」ごもっともです。仕方ない先に退散するかな、僕は服を着ると真鍮のドアの外で待ちながら、
明日荷物を届けてもらったら、色々な事を始めよう。ダウンタウンで暮らす親の為にも勉強して偉く成ろうなどと考えていた。
アンが出てきた。髪を下ろしているので別人みたいだ。「ワインが有る。ご馳走しよう」いつも軍用コート姿なので、シャツ姿だと細く感じる。ワインのコルクを抜くと革のジョッキに注いだ。ボンヤリ眺めているとアンが不思議そうな顔をした。「いや、僕は君が男だと思ってたから、こう見ると女の子だったんだと思って。」「その方が世間的には都合いいのさ。 」昼間の疲れとワインも手伝って何時の間にか深い眠りに落ちた。