船は辛いよね?
朝からバタバタと音がして目が覚めた。窓から入って来る風が冷たい。ほぼ北に進んでいるので、これからどんどん寒くなるだろう。春になったばかりだし、仕方ないか。ノックする音がして、朝食とコーヒーが運ばれて来た。塩漬の豚に固すぎるパンだった。腐らない様にしているのは分かるが、もう少しなんとかならない物かな。塩っぱい肉を家から持って来たパンに挟んで食べた。とても堅いパンは食べれそうにない、部屋の人達もパンをコーヒーに浸したり薄く切ろうとしたが、無駄な努力だった。例のオバさんがジロリと睨んでいるので、急いで食べるとデッキに出て行った。船室よりデッキでお日様に当たっていた方が暖かく心地よい。見渡すと軍服姿の若い士官がいる。でも魔法使いには見えないな、魔法の匂いがしない。もしかしたら消しているのか敵軍に悟られない為に訓練が有ると聞いた事が有る。悲しいかな医者や薬医には要らない訓練だ。僕がぼんやり見て居るとパッと振り返り目が会った。ヤバい!大体はこの後絡まれる。僕は目をそらして逃げ様とした時に声を掛けられた。「君、チョット!」海を眺めるふりをして、聞こえてないよ~的にしていたが、前に立たれた。「君、魔法使いだろ?」金髪、ガラスの様な瞳、絵に書いた様。僕はボサボサの頭を掻きながら「何の事ですかね?」とトボけた。だって面倒臭そうなんだけど。「嘘は通じない。君から魔力が感じる。」真面目な優等生だったのだろうな。「で?」思わず言ってしまった。「君、どこまで行くんだ?」まるで担任の先生の様な威圧感。早く逃げなければ。ダウンタウンで鍛えた危機管理アラームが鳴っている。「ノルデンまで。」「そう。僕もそうだ。僕の故郷だ。でもその身なりはなんだ?制服有るだろう?」確かに、くたびれた軍用コート親父のお下がりのシャツズボン古着屋で買ったブーツ。綺麗には見えないな。「僕は軍人さんじゃ無いんで、支給されない。ただの薬屋さ。しかも、親はパン屋さ。」彼は黙っていた。少しの沈黙の後、「この船のオーナーは僕の親戚だ。上流階級と会うのに、剣ぐらい下げていないと笑われる。」彼は黙って着いてこいと合図すると、船倉に降りて行った。部屋からカトラスを下げて来ると僕に押し付けた。「コレは短かくて使いやすい。稽古はノルデンに着いたら、ミッチリ付けてやる。」僕は頷き礼を言いながら、部屋に戻った。その日一日中本を読んで過ごした。またあの士官に捕まってジロジロ見られるのも癪に触る。静かにしているのが一番だ。
気温が下がり、ドンドン寒くなった。木造船だけに、ストーブは無く、薄い毛布に潜っている。流石に風を引きそうなので、魔方陣を作って枕を温める事に。簡単な呪文と共に枕がホカホカして来た。我ながら仲々の出来だ。ベットの中に仕込んで温めて寝る仕度をする。塩茹でのポテトスープと石のようなパン。親父のパンは今朝全部食べてしまった。頑張って流し込んで、夕食が終了、後2日の辛抱だ。風が良いので少し早く着くらしい。家のキャベツだらけのスープとパンが懐かしいなど考えながら、ベットに入った。真夜中揺すられて目が覚めた。女のコが悲惨な顔をして立っている。寝ぼけていた僕は悲鳴を上げそうに成ったが、寸前で回避。だって暗がりで顔を覗かれていたら誰でもビビるよ。手振りと片言の説明で、寝床から溢れたらしい。確かに三人で寝るには狭すぎて、あのババアは太っていたので二人でもキツイだろう。でも僕が犠牲になる理由にはならない。ぼくはオバさんを起こす様に女のコに伝えると、横になった。しばらく話し声がしてまた起こされた。いい加減頭に来ていたので、不機嫌な声と共に首を向けた。「悪いね、その子寝かしておくれよね?あたしのとこじゃ狭くてさ。寝酒に上等な酒をあげるから。」オバさんが枕下から瓶を取り出した。お袋からもらえる物は貰っておきなさい。その後の事はよく考えてから。の教えに従い、何も言わず受け取った。オバさんは毛布を被ると寝てしまった。いや、寝たふりかも。これだけ寒いとウトウトするだけで眠れないだろう。枕を足元にいれて女のコの枕を頭に入れ再び横になった。女のコは枕がホカホカして来たのでビックリしていたが、やがて寝息を立てた。困った。今度僕が眠れない。手を動かしたいのだが、モソモソすると触ってしまう。結局朝になってしまった。今夜は遠慮しない。と心に誓いもしかしたらあんな事もこんな事もなどと想像しながら歯を磨いていると、「楽しそうだね。何かあった?」昨日の軍人さんだった。今日は帽子をかぶって無くて、長い金髪を後ろに束ねている。「同居人をどうやって懲らしめようかと考えていたんだ。」「余程ひどい奴か?」「ああ、僕の未熟さに漬け込んで来る。」相手は、大きな?を浮かべている。僕は気にしないで朝食を取りに行った。「困った事があった相談に来いよ。」背中に声が飛ぶのを手を上げて答える。相談する気は無いが断る事も無い。昼寝でもしようと考えた。