いよいよ出発
いよいよ出発の朝を迎えた。お袋は寂しそうにしていたが、親父なんかは知らん顔で朝早くからパンを焼いていた。「じゃ、行って来る。住む所決まったら知らせる」僕が行こうとした時に、パンの入ったバスケットを渡された。「途中で食え。」また直ぐに釜に向かってしまった。「ありがとう」僕はそれだけ答えると、荷物を出す為に入り口に向かった。
軍の馬車は定刻どうりにやって来た。僕と余り歳が変わらなそうな兵卒と荷物を積み込んだ。トランク3個、薬草ケース2個。トランクには魔法書と実験機材が詰め込まれて重そうだった。泣くお袋をなだめ定期船のいる港に向かう。朝の道は混んでいたが、軍用馬車とあって道を譲ってもらえた。「君の身分証、魔法薬医のものだよね。」フラスコと天秤のロゴのペンダントを見ながら兵が話しかけて来た。「ウン、新米だけどね、今から5年の武者修行さ」「僕はビリーだ宜しく」「ミハエルだ宜しく」ビリーは少し考えてから話出した。「な、調薬費高いのか?ウワサで普通の薬の10倍ぐらいするって聞いたけど」噂は本当だし、庶民からしたら最後に頼る薬だった。時間と手間が掛かる。物によって特殊なハーブがいるなどイロイロ理由があった。「患者さんごとに配合が違うし、手間が掛かる。噂は本当だよ」僕の答えを聞いたビリーは少しため息をついた。「家の婆さん膝がイタくて歩けないんだ。いい薬があればと思わず聞いたんだけど、直ぐに出来ないんじゃな」「そうだね。」二人で溜息を吐いたが、フっと思い出した。隣の爺さんに泣きつかれてクリームとシロップを作った事があった。3日ほどで痛みが少なくなり、少しだが歩ける様になった。あの薬なら赴任先の挨拶がわりにと少し多めに作ってある。「少しだが有るよ。魔法薬分けられると思うよ。」港に着いてからトランクの中身をかき回し、小瓶とクリームの包を出した。「合う、合わないが有るからクリームから試して。痛みが少なくなり、調子が良い時にシロップを少しずつ使ってくれ。」うっすらと発光する小瓶を眺めながらビリーが頷いた。「俺あんましお金無いんだ。代わりにコレでどう?護身用に兵器庫から持って来たんだが。」ピストルと火薬入と丸い鉛の玉だった。「兵器庫にしりあいが居るから廃棄扱いにして貰うさ。気にしないで持って行ってくれ。」僕は喜んだ。なんせ、剣やダガーすら持っていなかったのだ。僕はピストルをベルトに差し込み、ビリーと定期船にトランクをはこんだ。
定期船は三本のマストがある貨物船だった。後ろの方に1等船室その下に2等船室があった。僕は余り旅費を掛けたく無くて、二等船室にした。旅費は事前にもらっていたが、節約して残しておくのは自由だ。6人部屋に入ると、先客が居た。若い女性と太ってきつい顔のおばさんだった。案内してくれた水夫が「奴隷商人さ。生憎部屋が満員御礼でね、あのババア奴隷9人も連れているのに5人分しか払わないんだ。言いぐさがベッド5台しか使わないから!だと、頭イかれてる」「でもなんで、僕が同じ部屋なんだ?おかしいだろう?」水夫が大きく溜息を吐いた。「仕方ないだろ。いい歳のおっさんより角が立たないだろ。それに目の保養に成ると思えば、安い位さ」これ以上掛けあっても得る物なし!仕方なく部屋に戻る。念のためペンダントを胸のポケットに隠した。おお!ピストルの点検も。備えあれば憂いなし。恐る恐るドアを開け中に入った。自分のロッカーを開け中に上着を入れ、貴重品を入れてから魔法でロックした。やれやれコレで一安心。着替どうする?シャツだけで我慢するか。ベットは?と思い見ると、何と全部占領されていた。「ここ、僕のベット何だけど、退いて貰えないかい?」ベットにいた若い女はキョトンとオバさんの方を見ている。「ナンダイ!若い女性が寝ているんじゃ無いか!黙って譲ってやるのが紳士じゃないか!坊や女のコに床で寝ろてか!世も末だね!」オバさんの目に勝ち誇った光があった。クソ先手を打たれた。僕は少し考えてから「この女の人もベットの一部なんでしょ。僕はこのナンバーのお金を支払ってここに来た。コレは僕のものだ。それともチケット見せて貰ってもいいのかな?」丁度さっきの水夫が顔を出した。「丁度良かった。僕のベット何だけど、白いシーツと女のコ付きかい?」水夫が少し考えてから、「ああ、あのベットはあんたに貸した。その上のシーツと女のコもだ。船じゃ5人分のベットしか女たちにかして無い。」水夫はそれだけ答えるとニヤリとした。オバさん舌打ちすると、何か違う言葉で女のコに話すと、ベットから出て行った。やれやれコレで一安心。定期船はその日の午後引き潮に乗り出発した。5日の辛抱だ。ベット横たわり揺られているうちに寝てしまった。