入学させられたのだ。
学業に追われる毎日がやっと終わり、静かな毎日が戻ってきた。13歳で入学命令書が届き、全寮制の魔術師の学校に強制入学させられたのだ。本来、此の手の学校は、貴族や戦闘魔術を使う軍の名家に魔術医など血筋が通る人達の学校だった。命令書が届き、お袋は慌てて役所に出かけて、入学を断りに行ったが、断られた。「魔術師は国家財産です。理解出来ない事が有るならココにお書き下さい。」家はパン屋で莫大な入学金が払えない。お袋が、暗い顔を悟ってか、役所の職員が詳しい話しを聞いてあげるので、後日来なさいと言ってくれた。お袋は字が余り読めなかったのだ。親父もそうだ。教会の神父が子供達を集めて教える所しか行った事なかった。僕だけが小学校に辛うじて通った程度。友達で字が読めない奴がごまんといた。
後日、役人が迎えに来て、俺とお袋を馬車に乗せると、セントラルパーク前にある中央議会省に連れて行かれた。馬車にソファーがあるのに驚いた。乗合の馬車にしか乗った事が無かったので、思わずハンカチーフを轢いてお袋と座った。「簡単に説明しときますよゾーレッツさん。実は出生届のミハイル君の手形から魔力の反応が出ましてね、魔術師は国家財産です。この国にほんの少ししかいません。これは体を鍛えれば成れるとか、貴族だから、とか関係ないのです。血筋は大いに関係するようですが、随分昔の力が出てきたとも考えられます。」役人がポットに入った紅茶を勧めた。「学校に必要なものは全て国が揃える用意が有ります。」
議会省でも同じく説明を受けた。必要書類にサインをし、封印の刻印が押された。「おめでとう。ミハイル君に少し適正の検査が残っているので、来て下さい。お母さんお茶はいかがですか?此処で少しお待ち頂きます。」役人が僕を別の部屋に案内した。「上着を取り、楽にしてくれ。いまから適正の検査が始まる。痛くないさ。ただ、水晶玉を見るだけだ。」ほどなく老人が登場し震える手で水晶玉を撫で始めた。思わず大丈夫?と言ってしまいそうな危なっかしい手つきだ。「あんたの生まれる前からやってるよ坊や。大丈夫。」半分、自分に言い聞かせているかの様に呟く。「頭を空っぽにしておくれ。」何か覗かれる感じがして程なく終わった。「何も特別な事は無いさ。坊やの器と色を見せてもらったんだよ。器は魔力の量。色は適正だよ。」「どんな色?」思わず聞いてみたが、老婆はウインクすると、退席を促した。「書類が届けば、全て判る。先入観は阻害にしかなら無い。しっかり学びなされ。」お袋とまた馬車に乗り、家路についた。
ダウンタウンに有る我が家では、ちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。知り合いに偉い人物が出るのだ。しかも、将来を約束されて。長屋の大家なんか娘に一番いい服を着せて連れて来ている。普段家賃の催促にしかこないのに。
一ヶ月ほど準備期間があった。僕の周りの変化に戸惑い驚きの連発だった。パン屋に来る客が変わった。若い娘さんが増えた。多分親が行って来いとけしかけているに違いない。モテるのは嬉しいが、自分の後ろしかみていない様で、複雑な気持ちだった。大家の娘と婚約騒ぎには多いに驚いた。教会の熱心な信者なんかは、今でも許婚制度なんか守っていたから。でも13歳だ。少し早すぎるよね。大家の事、将来の稼ぎに目が眩んで娘まで売りに出したと噂が飛んでいた。やれやれだ、子供ながら疲れちゃう。