5、
どこまでも続く樹木の群れ。
晴れた昼間なのに、重なる枝葉で光が届かない。
目の前の鬱蒼とした雑木林を眺めながら、一服している黒尽くめの男。
くわえているタバコを左手ではずし、ため息をつく。
ため息をついてもなお、無精ひげが囲む赤黒い唇からは不完全燃焼のストーブのように煙が立ち昇る。
地図上では林とあるが、これじゃあ森だな・・・
男は舌打ちして、短くなったタバコを足元に投げつける。
まだ濡れているアスファルトに触れた吸殻は、ジュッと叫び声を挙げて一回撥ねたっきり、おおなしく横たわった。
「久保さん、現場を汚しちゃ駄目ですよ」
男が振り向く。
五部刈りの男が近づいてくる。
厳つい体つきだが、顔は童顔で、瞳はきらきらと少年のようだ。
彼の背後に、地べたに這いつくばるようにして調査している鑑識たちの姿が見える。そしてその向こうには、再び林が迫っている。
「すまん、つい」
久保は長身をかがめて吸殻を拾う。
顔を上げると、男が携帯ケースを差し出していた。
礼を云って拾った吸殻を入れる。
「あれ、井口。お前も吸うのか?」
「いえ、」
五分刈りの男は微笑えむ。
「吸殻を見つけたら、拾うことにしているんで」
それを聞いて、久保は照れたように頭を掻いた。
それからハッと我に返り、咳払いをして真顔になる。
「目撃者は」
「見つかりそうにありません」
井口が悲しそうに顔をしかめて答える。
「なにせ人通りが滅多にないところで、それも夜になると通る人はまったくいないとかで、」
井口は手帳を広げたまま、空を見上げる。
両脇から覆いかぶさる木々の梢の隙間から、わずかに木漏れ日が差している。
「とても、こんなところには・・・」
「しかし、現に人がここを通った跡がある。そうだろう、井口」
久保が井口を鋭く睨む。
「人がいなければ、犯罪は起きない」
井口は云いかけたことばを飲み込んで、うなずく。
「これで何件目だ。いったい何人の犠牲者が出ていると思っているんだ。しかも、女子ばかりを狙う卑劣な犯行! クソッ!!」
久保はダンっダンっと地団太を踏む。
そこへ2人の下に鑑識の1人が駆け寄る。
「確認が取れました」
井口がさっと手帳を開く。久保も落ち着き、鑑識の言葉に耳を傾ける。
「現場に残されたバックは、龍之宮中学のものです。中身やキーホルダーの類は全て持ち去られています」
「またか・・・っ」
久保の拳が、ゴキッと音を立てた。
「それから、傘は失踪した女子が昨日の朝家を出るときに持っていったものでした」
井口が手帳から顔を上げる。
「あの赤い傘か」