表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひとみ先生の眼科診察室  作者: らな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/21

第18話 津川さん

「津川まゆさーん。おはようございます。」

津川さんは25歳。円錐角膜で通院している。


円錐角膜とは黒目の部分が円錐状に変化していく病気だ。

10~20歳代前半で発症し、40代までに徐々に進行することが多い。

強い不正乱視が出るためハードコンタクトレンズをつけ角膜を押さえることで、乱視の矯正を行うのだ。


津川さんも10代からひまわり眼科に通院している。

いろいろ複雑な家庭事情があるらしく、そういったストレスもあるのか受診するたびに身体が大きくなっている。

待合では寝ていることが多い。シューシューという大きな呼吸音が診察室にまで聞こえ、時々無呼吸になるのかピタッと止まっている。


そして入って来た津川さんを見てひとみは驚いた。


まゆちゃん、また身体が大きくなってる・・・。

150キロくらいある??


津川さんは十代から通院しているので、眼科の職員の間では”まゆちゃん”と呼ばれているのだ。


患者用の電動椅子はそこそこ重量がありほぼ固定の場所に設置しているのだが、身体の大きな人が来ると陽子が事前に後ろに下げて診察用の細隙灯から距離を開けるようにしている。

今日も陽子がまゆちゃんのために椅子を後ろに下げてから呼び込んだ。


まゆちゃんが椅子に座った瞬間、細隙灯を置いていた大きな診察台がドンッと音を立てひとみの方へ押し出された。

ゴンッ!

診察台がひとみに激突した。

細隙灯を置いている診察台は電動のかなりがっしりしたものだ。


この台、動かせたんだ・・・。


台がぶつかった痛さよりも、そっちが驚きだった。

「先生・・・、すみません・・・。」

いつもぼそぼそしゃべるまゆちゃんも、この時ばかりは慌てたようにひとみに謝った。

そして立ち上がって診察台を真っ直ぐに直し、椅子をかなり後ろの方まで下げてから座りなおした。


まゆちゃんの目は円錐角膜とハードレンズの使い過ぎで黒目の真ん中が濁ってきている。

「津川さん。前から言ってるようにレンズの装用時間をもっと短くしないと、黒目が痛んでレンズが使えなくなりますよ。」

「でも・・・、ハードレンズ付けないと見えないんです。」

そうなのだ。円錐角膜の患者さんは眼鏡で矯正視力が出にくいので、まゆちゃんのようにコンタクトの使い過ぎで炎症を起こす人が多いのだ。

「それはそうなのですが家では眼鏡にするとか、少しでも時間を短くして下さいね。」

「はい・・・。」


「あと下まつげが黒目に当たって傷になっているので、強く当たっている所だけ抜いておきますね。」

「はい・・・。」

太ると頬の肉で下瞼全体が押されてまつげが目に当たることがよくある。

”まつげが当たっているから、もう少し痩せた方がいい”と何度か言葉が喉元まで出かかったことがある。


痩せなきゃいけないのは、絶対まゆちゃんも分かってるわよね・・・。


若い女性なので、デリケートな問題は話しにくい。

結局この日も”痩せて”の一言が言えないまま、まゆちゃんは帰って行った。


それから2年後、まゆちゃんの黒目の濁りはどんどん悪化し最後は総合病院に紹介となった。


眼鏡では見えないのできっとひとみの言いつけを守れずハードレンズを使いすぎてしまったのだろう。

しかし、基本的に物静かで素直ないい子なのだ。


良くなって欲しいな・・・。


おそらく病状は厳しいだろう。

ひとみは祈ることしかできなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ