美人だからって何をしてもいいわけじゃないわ。貴方なんて、わたくしの人生に関係ない人。二度と近寄らないで頂戴。
「あら、ごめんなさいね。アレン様はわたくしの方がいいと言うの」
ああ、まただ。また彼女に好きな人を盗られた。
貴族なら誰でも通うバル王国の王立学園。
16歳になったジュテルシア・ユテル伯爵令嬢も例外なく、王立学園に通う事となった。
そこで、幼馴染の令嬢、エリーナ・エトス伯爵令嬢と顔を合わせた。
彼女は派手な顔立ちの金髪美女だ。
仲良さげに傍にいたのは黒髪碧眼の美男、アレン・ビクトル伯爵令息。
以前、母に連れられていった、貴族の交流の場で、密かに思いを寄せていた令息だ。
黒髪碧眼の彼はとても美男子で。
だから、母同士が仲が良く、共に出かけたエリーナの傍でうっかり言ってしまったのだ。
「アレン様って素敵ね」
と、そして後悔した。
昔、やはり交流会で、素敵ねと言った令息と、エリーナは仲良くなったと以前、言われたのだ。
仲良くはなったが、結局、エリーナはその令息に飽きたらしく、手ひどく振ったと母から聞いた。
たいして知り合いでもなかったその令息に対して、素敵ねと言ったはいいが、ジュテルシアも深く興味を持ってはいなかった。
だが、アレンに対しては、黒髪美男で武術にも優れた素晴らしい男性と噂に聞いていたので、ちょっと見かけて胸がときめいたのだ。
それが今回、王立学園に入学したら、アレンと仲良くしているエリーナを見かけた。
そして、これ見よがしに、
「あら、ごめんなさいね。アレン様はわたくしの方がいいと言うの」
と、仲良さげにしている姿を見せつけられた。
どうしてなんで?ちょっと素敵ねと言っただけじゃない?
それなのに、どうして見せつけてくるの?
エリーナとは友達付き合いしたくない。
王立学園で同じクラスだが、距離を置きたい。
そう思えた。
エリーナはアレンとお付き合いをしているようだ。
家格は同格。家同士の話し合いが成立すれば婚約者にだってなりかねない。
そう思えた。
ジュテルシアだって婚約者を探さねばならない。
両親に任せてもいいが、自分の目で令息達を見てみたいのだ。
この王国では16歳以前に婚約者を決める事を許されていない。
だから、どの家も16歳以降に婚約者探しを始めるのだ。
だから、ジュテルシアも必死だった。
勿論、令息達も同じクラスの令嬢達も必死である。
ただ、2歳年上の王太子殿下だけは違っていた。
2年前の事だ。
16歳になってすぐ、名門公爵家の令嬢と婚約を結んだのだ。
あらかじめ、水面下で両家での話し合いが成立していたのだろう。
そんな中、エフェル第二王子が、ジュテルシアに声をかけてきた。
金髪碧眼の彼はとても美男だ。
「色々な令嬢達と知り合いになりたくてね。私は婿入り出来る家を探しているんだ」
「そうなのですか」
「伯爵家だってかまわない。君を候補の一人にいれたい」
「光栄ですわ」
そこへ、エリーナが割り込んできたのだ。
「わたくしも候補に入れて下さいませ」
「え?君は別の令息と仲良くしているのでは?」
「あくまで候補の一人ですわ。わたくし、エフェル第二王子殿下の事を深く知りたいです」
まただ。貴方はアレンと婚約するのではなかったの?
それなのに、また?そんなにわたくしが男性とお付き合いするのを阻止したいの?
それとも盗りたいの?
エフェル第二王子は頷いて、
「まぁ候補の一人に入れてもいいかな…」
そこへ、アレンがやって来て、
「君は私と婚約するのではないのか?愛しているって散々私に囁いていたではないか」
「だって、エフェル第二王子殿下、とても素敵なんですもの。貴方とはまだ婚約していないわ。わたくしだって色々な令息を見てみたいの」
「最低だな。私は君の事を愛している。君に夢中だって、プレゼントを沢山あげた。両親だって君との婚約に乗り気なんだ。私は君の家に婿に行く心の準備を」
「知らないわーー。まだ婚約を決めていないでしょう。だったら、わたくしエフェル第二王子殿下を候補に入れてもいいかなって思うの」
「最低だな」
アレンは背を向けて歩いて行ってしまった。
ジュテルシアは思った。
あれではアレン様も怒るわ。いいのかしら?
エフェル第二王子も心配そうに、
「いいのか?追いかけなくて。君との婚約を真剣に考えていたみたいだぞ」
「構いませんわ。まだ婚約していないんですもの。それより、エフェル第二王子殿下の事をわたくし知りたいですわ」
エリーナは美人だ。どんな男性でも言い寄られたら悪い気がしないだろう。
エフェル第二王子はにんまり笑って、
「あちらの木陰でゆっくり話をしようか」
エリーナの手を引いて、彼は行ってしまった。
きっと、ジュテルシアの事なんて忘れてしまっているだろう。
ジュテルシアは冴えない茶の髪の女性だ。
それに比べて派手な金髪のエリーナは美しい。
目を潤ませて男性を見上げれば、誰でもふらふらと心を奪われてしまうのだ。
わたくしもエリーナみたいに美しく生まれたかったな。
心から悲しく思えた。
数日後、アレンから声をかけられた。
「エリーナはエフェル第二王子殿下に夢中みたいだから、改めて。私は君に興味がある。付き合ってくれないか?」
「わたくしに興味を?」
初めて見た時から胸がときめいたアレン。
黒髪碧眼の彼はとても美男だ。
でも何故、自分に興味を?
わたくしは美しくないのよ。
アレンはため息をついて、
「君は真面目に勉学にも励んでいて、図書室でよく見かけた。結婚するなら、しっかりした女性がいいと改めて思えてね。そりゃ、エリーナは素晴らしかった。とても綺麗だし、目を潤ませてこちらを見てくれば、何でもしたいと思った。沢山、プレゼントもしたよ。でも、あっけなく第二王子殿下の方へ行ってしまった。だから改めて、君と付き合ってみたい。互いに条件が合えば、婚約したいと思っている」
「あ、あの、わたくしでよろしければ喜んで」
心から嬉しかった。
本当にわたくしでいいの?
何だか世界がキラキラと輝いて、とても幸せに感じた。
翌日、アレンにお弁当を作って来て、中庭で弁当箱を開けて見せた。
「あの、うちの使用人が作ったものに、わたくしがちょっと果物をっ。料理はしたことがなくて」
「まぁ伯爵令嬢だからね。でも、一緒にお弁当をと言ってくれて嬉しいよ」
いざ、食べようとしたら、エリーナがやってきて。
「アレン様。わたくしという者がありながら」
「君は第二王子殿下がいいんだろう?だから私は改めてジュテルシアと付き合いを」
「第二王子殿下だって候補ですわ。婚約者候補。貴方はわたくしの婚約者候補でしょう。わたくしを一番に考えて貰わなくては困りますわ」
そう言って、アレンの手の上にあった弁当を手で叩き落とした。
「こんな手作りの弁当、地味なジュテルシアらしいわね。さぁわたくしと一緒に食堂へ行きましょう」
地に散らばったお弁当。せっかく使用人に頼んで、作って貰ったサンドイッチや肉のから揚げ、野菜サラダ、果物が無残にも散らばって。
涙がこぼれる。
何でどうして?エリーナはわたくしの幸せを壊すの???
アレンが立ち上がった。
行ってしまうの?エリーナと一緒に食堂へ???
アレンはエリーナに向かって、
「最低だな。お前は」
エリーナは目を見開いて、
「わたくしが最低ですって?」
「そうだろう?一生懸命、ジュテルシアが弁当を作ってくれたんだ。それを地に叩き落すなんて。ジュテルシアに失礼だろう」
「はぁ?ジュテルシアに失礼?わたくしはこんなに美しいのよ。ジュテルシアなんかより、わたくしの方が優先されて当然じゃない。こんな弁当なんて食べないでわたくしと食堂へ行って食べましょう。ね?アレン様」
目を潤ませてアレンを見上げるエリーナ。
アレンはエリーナから背を向けて、地にこぼれた弁当の中身を弁当箱の中に拾い、ジュテルシアを見上げ、
「すまなかった。君がせっかく用意してくれた弁当がこんな事に。改めて今度、一緒に食べよう。ジュテルシア」
そう言ってくれてとても嬉しかった。
エリーナが何か言おうとしたら、エフェル第二王子がにこやかにエリーナの背後に立っていて。
「確かに君は私の婚約者候補でしかないが‥‥‥真剣に付き合いを考えている二人の仲を壊していいとは思えない。こんな女と婚約し、結婚したらそれこそ不幸を呼び込むことになる。君の事は皆に言いふらしておくよ。勿論、婚約なんてごめんだ」
エリーナが慌てたように、エフェル第二王子に、
「わたくしは美しいの。何をしてもいいはずよ」
「美しければ何をしてもいいのなら、美しい犯罪者が増えて困るな。王国に」
冷たく言い放ってエフェル第二王子は行ってしまった。
エリーナはジュテルシアに、
「貴方のせいよ。何とかしなさいよ」
ジュテルシアはアレンの傍でその様子を見ていたが、
アレンが代わりに一言、
「自業自得だな。行こうか。ジュテルシア」
喚くエリーナを無視して、二人で教室へ戻った。
エフェル第二王子が言いふらしたのだろう。
男子生徒も女子生徒も誰もエリーナに話しかけず遠巻きにするようになった。
エリーナがキイキイと、ジュテルシアに食ってかかってきた。
「わたくしは悪くないわ。冴えない貴方のせいよ」
あまりにも煩いので、さすがのジュテルシアも言ってやった。
「美人だからって何をしてもいいわけじゃないわ。貴方なんて、わたくしの人生に関係ない人。二度と近寄らないで頂戴」
さんざん見下されて、好きな人を盗られてきた。
でも、もう、二度と盗られたくない。二度と関わりたくない。
誰かが教師を呼んできたらしく、教師がエリーナを教室から連れ出して行った。
「わたくしは悪くない。離しなさいよ」
さんざん喚いてエリーナは連れ出されていった。
アレンがジュテルシアの傍に来て、
「大丈夫か?ジュテルシア」
「ええ、大丈夫よ。もう、二度とあの人には関わりたくないわ」
エリーナは翌日から学園に来なくなった。
エフェル第二王子が手を回したのだろう。
しつけの厳しい修道院へ行かされたと聞いた。
エリーナがいなくなって、ジュテルシアはとても幸せだ。
アレンと一緒に、ベンチでお弁当を食べる。
「とても美味しいよ。私は君との婚約を前向きに考えたい。今度、君の家に行っていいかな」
「ええ、喜んでお待ちしていますわ」
空は青空。ジュテルシアは、アレンとのこれからの生活に胸を躍らせて、心から幸せを感じているのであった。




