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獰猛な竜騎士と草食系悪役令嬢  作者: 待鳥園子


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021 正解

「メロールは、人の言葉が……わかるんですね?」


 私は鱗の一枚一枚も識別出来るほどにこんな風に、竜を間近で見るのは初めてだ。大きな口がある恐ろしい顔をしているけれど、なんだか表情豊かで愛嬌がある。


 それに、何度か私のことを助けてくれたのだ。段々と好ましい存在に思えてきた。


 ヴィルフリートは私の疑問を聞いて、片眉を上げた。


「わかるよ。言葉がわからなければ、俺が騎乗することも難しいだろう。それに、俺のメロールは竜の中でも特別に賢い。そこらへんの人間なんかよりも、ずっと頭が良いんだ」


 ヴィルフリートは顔を近づけて自分に甘えるメロールを撫でながら、誇らしそうに言った。


 メロールが彼がいうほどに賢い竜であるかは、知識もないし付き合いの少ない私にはわからないけれど、ヴィルフリートが自分の竜メロールのことを気に入っていることは間違いなさそうだった。


「あの……ヴィルフリート。ごめんなさい」


 さっきヴィルフリートが敢えて話題を変えてくれたことは、私だって理解していた。涙を流した彼はきっと気恥ずかしかっただろうし、別に私にこうして謝って欲しいわけではないと思う。


 けど、ヴィルフリートはあの時に私を助けようとしてくれたし、それは今までも一貫して変わっていない。だというのに、私は何も悪くない彼に酷い言葉を投げつけたのだ。


 ヴィルフリートは複雑な感情が込められていそうな、大きなため息をついた。


「……これからは、絶対に自分が居なければなんて思うなよ。誰かは必ず、悲しむんだから」


 私はその言葉を聞いて、胸がぎゅうっと締め付けられた。


 誰かは悲しむ。それは、ヴィルフリートのことだろう。


 私が自暴自棄な態度を見せてしまったために、目の前のヴィルフリートを悲しませた。


 彼は最初から心配してくれて、なんとか、守ってくれようとしたのに。


「……ごめんなさい。本当にごめんなさい。ごめんなさい」


 胸がいっぱいになって、言葉が見つからない。こうして、何度も謝るしか出来ない。


「もう謝るなよ。素敵なヴィルフリート様、ありがとうございます……だろ?」


「ごめ……ふふっ」


 もう一度謝りそうになってから、いつかのやりとりを思い出して微笑んだ私を見て、ヴィルフリートはほっと安心した表情をしていた。


 ああ……そっか。私は彼の表情を見た時に、おそらくはこうなのだろうと悟ることが出来た。


 ヴィルフリートは私のことを、ただ助けたかっただけだ。


 国外追放になって何もかも失ってそれでも異国に向かうと言い出した女の子が、こうして安心して笑うところが見たかったんだ。


 ヴィルフリートは不意に空を見てから、目を細めて言った。


「そうだな。夜明け前に……城に戻ろう。俺もこれまでに、なにも考えていなかった訳でもない。お互いに嫌いな女を、一緒に地獄まで落とそうぜ」


「……ヴィルフリート?」


 彼の言った通り、空は明るくなり、もうすぐ夜は明けそうだった。


 暗い夜を突き刺すように払う、朝の眩い光。


 私は黒い感情を持つフロレンティーナを、恐れるばかりだった。


 自分には理解し難いとても怖い存在……だから、逆らうことも出来ずに言いなりになるしか出来なかった。


「おい。ブライス。やられっぱなしは、俺の性に合わない。とりあえず不意打ちの初手は避けられたから、これからとことん追い詰めてやろうぜ」


 ヴィルフリートは好戦的な表情を浮かべて、そう言った。



◇◆◇



 メロールに騎乗し二人で降り立ったのは、聖竜騎士団寮の近くだった。


 まだ夜も明けきらない早朝ということもあり、近くに人影は見えない。


 ヴィルフリートはメロールの首を叩いて、近くの森に隠れているように指示を出すと銀竜は心得たようにすぐに去って行った。


 ここまでの私はてっきり、ヴィルフリートは寮の中に隠れて生活するのかと思っていた。


 私に直接説明してくれた団長はヴィルフリートの反逆罪が冤罪だろうとわかっていたようだし、元々ここに住んでいるのだから、問題はないだろうと。


「じゃあ、俺は先に温室に行ってるから。朝食を持って来てくれよ」


 当然のことのように城へと歩き始めたヴィルフリートは言い、私はそれを聞いて目を丸くした。


「その温室って、私が庭師見習いとして管理を任されている……あの、温室です?」


 なんで、温室に行くの? そう思った。


 恐る恐る聞き直すと、ヴィルフリートは変な顔をして頷いた。


「それ以外に、俺がどの温室に行くんだよ。とにかく……先に行ってるから。ブライスは朝食を食べてから来いよ。あ。水筒に熱いお茶も頼む」


 私に言いつけると、ヴィルフリートは特に顔も隠さずに堂々と廊下を歩いて行った。


 指名手配犯にあるまじき余裕な態度を見て、彼は私と別の生き物なのかもしれないと思った。


 だって、もし私だったら、どうにか姿を隠しながら温室へ行くはずだもの……いえ。むしろ、あれくらい堂々としていた方が、逆に怪しまれないのかもしれない。


 私もそうだけど行き交う人の顔なんてろくろく見ていない人がほとんどなのだから、ヴィルフリートが何事もなかったように通り過ぎるなら記憶に残る確率も少ないだろう。


 だから、あれが正解……なのよね。

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