デートの前日もデートですか?
次の日、涼介は友樹にLINEでのやり取りを報告した。
「えっマジ?それデートじゃん!」
「マジ。」
「良かったな〜!でも、まだ油断はすんなよ!」
「分かってるよ。はぁ、今から緊張するわ。」
「まぁ頑張れよ!あっ後、向こうが店予約するんだよな?」
「うん。してくれるっていってた。」
「五万だな。」
「はっ?」
「サイフに五万はいれとけ!高い店をおごらされるかもしれないぞ〜!」
「五万かぁ〜。今月は昼メシ抜きだな。」
「まぁ頑張れよ!じゃあ、報告楽しみにしてるわ〜。」
涼介は、一週間ソワソワしながら過ごした。
そして金曜日になった。
相変わらず、集中して仕事をしていると、
ブーブー。
涼介のスマホがなる。
部長?何だろ?
「お疲れ様です。」
(すまん!衣川くん・・・実は、今日大前社長と打合せ予定だったんだが、体調を崩してしまってな。)
「大丈夫ですか?」
(まぁ寝てれば治る。問題は、大前社長がやる気マンマンでな、体調を崩したと連絡をしたら、衣川くんと打合せするから、夕方会社に来る様にいってくれと言われてな・・・急で申し訳ないんだが、行ってくれないか?)
「さすがに一人はまずいですよ!力不足ですよ!」
(大丈夫だ。この前の料亭での君を見ていたら、安心して任せられる。あと、打合せの後、食事とお楽しみもあるだろうから、経理部でカードを借りて行きなさい。西条さんには連絡しとくから。あ〜頭が痛い・・・頼んだよ。)
プープープー。
マジかよ!部長、電話きりやがった!
どうすんだよ〜。
とりあえずやるしかない!
涼介は今日やる予定の仕事を夕方までに終わらせるため、必死で頑張った。
「終わったー!マジ疲れたわ。このあとも大変なのに倒れるぞ鬼上司!」
涼介がブツブツいっていると、後ろから笑い声がする。
「ふふっ」
涼介が振り向いた。
「西条さん?どうしたの?」
「猿渡部長から連絡があって、無茶ぶりされて、必死に頑張ってるだろうと思って来たの。はいっ!」
「あっ!カード!ありがとう!すっかり忘れてたよ!」
「あと、これも。お昼食べてないでしょ?」
「おにぎり!ありがたい!あっお金。」
「いいよ。また何かおごって〜。」
西条は急いでいる様子で、足早に立ち去っていった。
あっ!俺も急がないと!
涼介はもらったおにぎりをほおばりながら打合せの準備をする。
そして、大前社長の元へ向かった。
打合せは良い雰囲気で進み、
「よし!今日はここまでだな。」
大前社長は満足げに微笑んだ。
「衣川くん、今日のディナーは店を予約してあるから行こうか!お楽しみの予約は頼むよ!」
「はっ、はい!ありがとうございます。では、少し席を外します。」
あ〜。マジかぁ〜。店予約ってどうすんのよ!
あっ!凛花がいるじゃないか!
涼介は、凛花にLINE電話してみた。
(涼介くん、どうしたの?)
「あのさ・・・」
(明日キャンセルとかダメだよ!)
「ちっ違うよ。急に接待しないといけなくなってさ、今日店いる?」
(いるよ〜!この前の社長さん?)
「そう。」
(じゃあ、私にお任せ下さい!社長のお気に入りの子もおさえとくね!)
「助かるよ〜。一瞬どうしたらいいか頭が真っ白になってしまったよ。」
(ふふっ。私がついてるから、安心して来て。)
「ありがとう。じゃあ後で。」
(はぁ〜い。楽しみにしてるね!)
良かった〜!
凛花がいなかったら絶望の底だったぞ。
部長もなかなかやってくれるな。
はぁ、もう既にクタクタだよ。
涼介は、大前社長とディナーをすませ、
凛花の待つ店へと向かった。
西条さんに感謝だわ〜。
これカード忘れてたら大惨事だったぞ。
と言うか、明日凛花とデートなのに今日も会うの照れくさいな・・・
ガチャ。
店に到着し、ドアを開ける。
『いらっしゃいませ〜。』
「大前社長〜また来てくれたんですね!」
「また会いたくなったんだよ!」
「まぁ、嬉しいわ。」
大前社長が嬉しそうにはなしている向こうで、凛花がこちらを見て微笑む。
涼介は、席に座る。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりましたよご主人様。」
「ごっご主人さま〜?」
「こういうの好きでしょ?」
「はっ、はい・・・」
「ふふっ。今日は大変だったね。」
「うん。もう疲れ果てて今にも寝そうだよ。」
凛花は涼介の耳元で囁く。
(あと少し頑張って。寝そうになってたら、目が覚める事してあげるから。)
「えっ?・・・それだけで目が覚めた。」
「ふふっ。涼介さん面白い。」
大前社長が満足げな表情で話しかけてくる。
「なんだ、なんだ?二人はいつの間に仲良くなったんだ?衣川くんも隅に置けないな〜。この前来てから店に通ってたのか?」
「い、いぇ。この前初めてこういう店につれて来てもらって、今日で2回目です。」
「そうか、そうか。猿渡くんの昔を思い出すよー!」
「猿渡ですか?」
「猿渡くんも夜の店デビューは私となんだよ!初めて連れて来た時は、緊張してガチガチだったよ!わっはっはっ!」
「ははっ!以外です。」
「衣川くん、きみには期待しているぞ!猿渡くんと共に、私と私達の会社を、サポートしていってもらいたい!」
「あっ、ありがとうございます。できる限りの事、いやっ、それ以上を提供できる様にがんばります!」
「頼もしい!よろしく頼むよ!」
「はい!」
隣りで凛花が微笑んでいる。
また、耳元で囁く。
「良かったね。明日はお祝いしないとね。」
今日も2時間くらいいたな。
涼介は店の前で大前社長がタクシーに乗るのを見届けた。
涼介は、気が抜けたのか、その場に座り込み、立ち上がれない。
「大丈夫ですか?」
涼介に女の子達が駆け寄る。
「あっ、私今日もうあがるので、任せて下さい。」
凛花はそう言うと、涼介の背中をさする。
見送りに来た女の子達は、涼介を凛花に任せ、店に入って行った。
「大丈夫?」
「うん。迷惑かけてごめん。」
「うぅん。送ってあげるから、ちょっと店の中で待ってて。」
凛花は涼介を支えながら、店の中に連れていき、座らせた。
しばらくして、凛花が身支度を整え戻って来た。
「涼介くん、帰るよ。」
涼介は意識をギリギリたもちながら凛花を見た。
「あれっ?西条さん?なんでここに?」
凛花は、一瞬はっとした表情をしたが、
「涼介さん、それ誰〜?女?ヤキモチ妬いちゃう・・・」
「あっ、ごめん。凛花だ。スネた顔もキレイだね。」
涼介は意識が遠くなっていて、思った事がそのまま出てしまう様だ。
「ちょっ、ちょっと。何言ってるの?」
いつも余裕のある凛花は、珍しく照れている。
「酔っ払いを送迎して帰りま〜す。
お疲れ様です!」
凛花は店の人達に挨拶をし、
涼介を支えながらタクシーに乗り込んだ。
凛花は、涼介の頭を膝に置き、頭を撫でながら思った。
(酔っ払い涼介くんに油断したー!ウィッグ取ったから、私だってバレた?
神様!明日記憶とんでる事を祈ります・・・
寝顔、初めて見たな。カワイイ。)
「涼介くん!着いたよ!」
涼介はまだ意識がもうろうとしている。
凛花は、涼介を支えながら、やっとの思いでベッドに寝かせた。
「疲れた・・・涼介くん!鍵閉めて、ポストから入れとくからね!」
「うん〜。」
「おやすみ、頑張ったね。」
帰ろうとする凛花。
涼介は、意識がもうろうとしながらも、凛花の腕をつかんだ。
「凛花・・・一緒に寝よ。」
「ちょっ、ちょっと!正気ですか〜?」
「うん。一緒にいたい。」
「絶対に正気じゃないよね?酔っ払ったら最強ですか?」
「俺は・・・起きてるっぞ。」
「・・・分かった。」
凛花は、仕方なさそうだが少し嬉しそうに涼介の隣りに横になった。
凛花はドキドキしていた。
(きゃー!私、涼介くんと同じベッドで寝てる!進展早すぎだよ。ムリムリムリ〜!)
「きゃっ!」
酔っ払い涼介は最強だ。
凛花を抱きしめながら眠りについた。
(ちょっと〜!折を見て帰るつもりだったのに、これじゃ帰れない・・・ウィッグ付けてないし、明日の朝この姿見られたらバレちゃうよね?ヤバいヤバいヤバい!あ〜もう!いいや。幸せ〜。このまま寝ちゃお。)
「あ、朝だ。俺、どうやって帰って来た?布団がいつもより柔らかいなぁ・・・いい匂いもするなぁ・・・」
「あの〜どこ触ってるんですか〜?」
「ん?凛花の声がするなぁ・・・
わぁー!!」
涼介は飛び起きてベッドの端に後退りする。
「な、な、な、な、なんで!?なんで凛花がいるの?ここ俺んちだよな?!」
「意識もうろうとしてたから送ってあげたの。そしたら捕まって帰れなくなったの!」
「ごめん!」
涼介は人生で一番綺麗な土下座を披露した。
「ふふっ。キレイな土下座に免じて許してあげる。」
「迷惑かけたね。ごめん。」
「いいよ。私、もう少し寝たいな。
隣り来てよ。」
「えっ?うん。」
涼介は隣りに寝転んだ。
「ふふっ。ちょっと〜昨日の夜と全然違うじゃん。ピンって鉛筆みたいだよ。」
「そっそりぁ、女の子と一緒に寝た事ないし・・・」
「昨日寝たじゃん!早くぎゅってして。」
涼介は凛花をぎゅっとした。
「なぁ、もしかして昨日したの?」
「さぁど〜でしょ〜?」
「教えてくれよ!」
「ナイショ。っていうか、太ももの辺りに何か当たってますけど。」
「しっ仕方ないだろ・・・こんなくっついてんだから。」
「ふふっ。昨日のお返し。おあづけ・・・。」
「寝れない。」
「ダメ。寝るの。」
涼介も凛花も疲れていたのか、しばらくすると眠っていた。
昼頃二人は目を覚ました。
「涼介くん、おはよ。」
「うん、おはよ。」
「私、そろそろ帰らないと。」
「えっ?帰るの?」
「だって今日デートでしょ?帰ってお風呂入って、オシャレしないと。」
「このまま一緒にいたいな。」
「ダメ。私、デート楽しみにしてたんだから。」
「残念。でも後で会えるんだよな?」
「そうだよ。後でね。」
凛花は身支度を整え、帰っていった。
涼介は、幸せな気分でぼ〜っとしていた。
俺、惚れちゃったな。
あれだけ友樹に言われたけど、
もう引き返せないわ〜。
涼介は枕に顔を押し当て叫んだ。
「凛花ー!好きだー!」