凛花のひみつ。恋の行方。
「あ〜今日も良く働いたな〜」
凛花との約束の日から25日経っていた。
涼介は、仕事帰りに会社から駅までの道を歩いていた。
「あと6日・・・あー!長い・・・」
涼介がブツブツ独り言を言いながらあるいていると、
「やめて下さい!」
「真凛、お前ふざけるなよ!」
何やら揉めている男女が涼介の視界に入ってきた。
「はぁ。助けてあげないとな。なんで俺は最近こういうのに良く出くわすんだろ?」
涼介は揉めている男女に近付いて、声をかけた。
「あの〜。」
「なんだお前?」
涼介の声に二人は振り向く。
「って、凛花?」
「涼介くん!」
凛花は涼介の後ろに隠れた。
「わっ、私、この人と結婚するんで。」
「はっ?ふざけるなよ!俺がお前にどれだけつぎ込んだと思ってんだよ!」
涼介は、この男に見覚えがあった。
凛花の肩に手をまわして歩いていた憎い記憶がよみがえる。
「涼介くん、行こっ!」
凛花は涼介の手を引き、逃げ出そうとする。
「待てよ!」
男は涼介の腕をつかんで殴りかかる。
「ちょ、ちょっと!」
殴られて倒れ込んだ涼介に凛花は駆けよった。
涼介の口からは、血が流れ出していた。
「大丈夫?涼介くん!ひどい!どっか行って!」
「うるせぇよ!真凛!黙って着いてこい!」
男は凛花の腕をつかみ、連れて行こうとする。
「ま〜て〜。」
涼介は、男の足をつかんだ。
男は、涼介の背中を何度も踏みつける。
「離せ!うっとうしいんだよ!」
「凛花を離せ。」
涼介は男の足をはなさない。
「絶対に離さない!」
「いっいてぇ!」
涼介の握力はリンゴを握りつぶせるくらい強かった。
男はたまらず、凛花の腕を離した。
「おい!もういい!離せ!」
涼介は意識がもうろうとしていて、男の足を離さない。
凛花が涼介に駆け寄った。
「涼介くん、もう大丈夫。離して。」
涼介は、凛花の声に男の足を離した。
男は涼介から数歩離れ足を気にしている。
「いてぇな!うっざ。なんかもういいわ。」
男は不機嫌そうに立ち去っていった。
「涼介くん!大丈夫?・・・ごめんなさい。私のせいで。」
「大丈夫。俺、凛花を守れて良かった。」
「ありがとう。」
凛花の目尻からは涙だこぼれ落ちた。
凛花は、ヨレヨレと歩く涼介を支えながら、やっとの思いで家に着き、ベッドに涼介を座らせた。
「涼介くん。大丈夫?」
「うん。」
凛花は涼介のとなりに座り、涼介の肩に頭を置いた。
「私ね・・・私だって、女の子だから、オシャレしたかったの。」
「えっ?」
「私、小学生まではかわいいねって、いろんな人に言われて育って、嬉しかった。私、かわいいんだって・・・。でも、中学生になったら、1年生の時に、同級生とか、年が上の人とか・・・あげく、先生にまで言い寄られて。男に色目使ってるって友達もできなかったしいじめられてたの。でも、一人だけ、私を友達だって言ってくれる子がいたの。」
「それって、優里ちゃん?」
「うん!良く分かったね。」
「凛花と優里ちゃん見てたらそんな気がした。」
「そっか・・・で、ある日優里がいってくれたんだ。かわいく見えない様にしたら?って。私はオシャレしたかったし、かわいくなりたかった。でも、仕方ないかなって思って、事務の西条凛花に変身したの。」
「大変だったんだな。」
「うん。とてもつらかったよ。
地味なカッコになったら、段々、言いよって来る人が減っていった。結局、見た目だけでしかみんな私を見てなかったんだな〜って思って悲しくなったよ。
でも、優里がいたから、私はちゃんと生きてこれたの。」
「なぁ、凛花・・・これって、凛花のいってた秘密?」
「・・・。」
凛花は涼介の頬にやさしく手を当て、
キスをした。
「えっ?」
「私のファーストキス・・・だよ。
ふふっ。ちょっと血の味。」
「あの〜凛花さん。まだ6日くらいあるんですけど・・・とめられなくなるよ?」
凛花は、涼介を無視して話しを続けた。
「で、私が大学生になった時。」
「無視?!」
凛花は涼介の口を塞ぐ様にまたキスをした。
「聞いて。」
「はい。」
「私は大学生になるし、もう大人だし、ちゃんとできるって思って、入学式の日からしばらく地味なのは辞めて、オシャレして大学に行ったんだけどね、また、中学校の時と同じ様な感じになり始めてて・・・でも、オシャレしたかった。
そしたらある日、大学の中のいわゆる一軍?とりあえず!自分がイケてると思ってる男女グループに、屋上に呼び出されて、すごいひどい事いわれて、もう優里も助けてくれないし、私はしゃがみ込んで泣いてたの。それでも悪口やめてくれないし、誰か助けて〜って思ってたら、ちょーカコイイ人が屋上で寝てたみたいで、その人が起きあがっていったの。「あーうるさい!お前らさ、その子が何かしたの?聞いてて思ったけど、お前らクソみたいだな。ははははっ!」って言ったの。すごいスッキリしたんだ!嬉しかった。それでね、そのちょーカコイイ人は、金髪で、体も大きかったから、誰も何も言わないで、私に悪口言ってた人たちは、怪訝そうに教室に帰っていったの。」
「あ〜・・・・どこかで聞いた事のある・・・」
「涼介くんだよね?」
「多分。全部知ってるのか?」
「うん。友樹くんが、無理やりイメチェンさせて、大学デビュー計画をたててたのに、すぐに元に戻したんだよね?」
「はぁ。そう。あの髪のせいで、逆に誰も近付いてこないわ、町で絡まれるわで最悪だったよ。」
「ふふっ。涼介くんは名前も言わないでどっか行っちゃうし、次の日から金髪じゃ無くなるし、しばらく見つけられなかったんだよ。で、涼介くんをようやく見つけたんだけど、声をかける勇気なくて、遠くから見てた。」
「そっか。大学一緒だったんだな。もっと早く声かけてくれたら良かったのに。」
「涼介君が、金髪のままなら、声かけたかもね。」
「なんで?金髪?」
「涼介をコーデした時いったでしょ?私、目立つから、彼氏はかっこよくないときっと勘違いな人達が奪いに来るんだよ。」
「凛花さん・・・すごい自信ですね。」
「茶化さないでよ。本当なんだもん。」
「ごめん。だから外見をちゃんとする事が責任取るって事だったんだ!」
「分かった?」
「うん。会社は?もしかして追いかけてきてくれたの?」
「それは・・・涼介さん。自意識過剰ですよ。」
「失礼しました!」
「会社同じなのは、偶然だったから、入社式で涼介くんを見つけた時、すごい嬉しかった!
それでね、そんな感じで、ずっと好きでした!」
「嬉しいな。ありがとう凛花!」
「ふふっ。私も、
助けてくれてありがとう。
あの日言えなかったから。」
「それで秘密全部?」
「そうだよ。あの〜。」
「ん?」
「私、秘密もはなしちゃったし、フライングでキスもしちゃったし・・・期日を早めさせて頂きたいのですが。」
「えっ?いいの?」
「うん。そうしたいなぁ。涼介くんの気持ちを確かめたくて一ヶ月っていったけど、さっきの事で、気持ち確かめるとか、必要ないし、失礼だと思ったよ。」
「カッコ悪かったけどな。」
「うぅん。実はめっちゃ強くて、あんなヤツ一瞬で倒してしまうってのが理想だったけど、カッコ悪くないよ。
かっこよかった!」
「ありがとう。俺、ケンカはできないけど、凛花の事、生きている限り、何があっても守るから。」
「ありがとう・・・」
凛介はまた、涼介にキスをした。
「凛花、俺、もう止まらないよ。」
「どうぞ・・・お待たせしました。」
「凛花、大好きだ!」
二人はこの夜、幸せな夜を過ごした。
それから10年程の時間が流れた。
「坊ちゃま!木に登っては危ないです!おりて下さい!」
「嫌だ!」
「こらっ!今日はちゃんといい子にしてなさい!」
「あっ、奥さま。申し訳ありません。」
「ふふっ、悪いのはあの子よ。謝らないで。」
「優里〜!ごめん遅くなったね。」
「凛花!久しぶり〜!」
凛花は、かわいい女の子の赤ちゃんを抱いている。
木に登るわんぱく少年は、友樹と優里の子だ。
あれから、友樹は父親の会社を任される様になり、社長として、市村グループを支えている。
涼介は、と言うと、友樹に懇願され、友樹の会社で働いている。
今日は、市村グループのパーティーだ。
涼介、凛花、友樹、優里。
4人は幸せな日々を過ごしている。
涼介と凛花は、友樹のおかげで、大きなマイホームに引っ越していた。
リビングには、涼介の描いた、凛花の絵が飾られている。
「完」