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憧れだった異世界転移は波乱万丈のようです。~5人のイケメンと聖女っぽくない聖女が異世界を救っちゃう話~  作者: mii
第1章 聖女っぽくない聖女

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8/13

第8話 オーラが凄いんだってば!!


こってり怒られた翌日。


朝から晩まで、私はセシルさんの超・厳しいマナーレッスンを受けていた。

初回のときもそれなりに厳しかったけど、今日はレベルが違う。


「はい、もう一度、最初から。歩き方が崩れてます」


「ひぃぃ……」


廊下を歩く

お辞儀

椅子に座る

立つ

また歩く


このセットを何十回やったか分からない。


足はパンパン、背筋はバキバキ、顔は引きつり笑顔のしすぎで筋肉痛。

表情筋って、そんなに酷使するものだっけ……?



そして今。私は、謁見のための準備中。

いつもは「動きやすさ重視です!」って感じの、シンプルなドレスなのに。


今日は――


「……すご」


鏡の前に立っている自分を見て、思わず固まった。


めちゃくちゃ豪華なドレス。

しかも、聖女っぽく見せるためか、全体的に白くてヒラヒラしている。


胸元や袖口、裾には繊細なレース。ウエストには細い金色の飾り紐。

光を受けるたびに、ふわっと淡い光沢が浮かぶ。


中身はいつもの“中身おっさんOL”なのに、外側だけ急にレアキャラになった気分だ。

詐欺では? 大丈夫? 


「美鈴様」


背後から、リリちゃんの声がする。


「とってもお美しいです!」


きらきらの笑顔で、両手を胸の前でぎゅっと握りしめている。


「ありがとう///」


頬が熱くなって、思わず目を逸らした。


かわいい。今日も天使。やっぱりお嫁に欲しい

鼻の下が伸びそうになったところで――


「美鈴様」


セシルさんの、ほんの少しだけ低い声。


「本日は、王宮の方々もご覧になります。お顔に“いつもの緩み”が出ないように、お気をつけくださいね」


言い方ぁ!!


でも鏡を見ると、確かにさっきまで、うっすらニヤニヤしていた。

リリちゃんを眺めていると、気を抜くとすぐこうなる。


「……気をつけます」


姿勢を整えて、深呼吸。


コンコン。


「お迎えに上がりました」


扉の向こうから、オーウェンの声がする。


セシルさんが、私の肩にそっと手を置いた。


「美鈴様。大丈夫です。……行ってらっしゃいませ」


その一言で、また胸の奥がじんわり温かくなった。


「行ってきます……!」


ガチャ、と扉を開けて外に出ると――


「美鈴……」


すぐ目の前に、アレクシスがいた。


今日はいつもよりフォーマルな衣装。

金の刺繍が入った白い軍服みたいな格好で、それだけで“ちゃんと王子様です”ってオーラがある。


「素晴らしい」


私を一目見て、さらっとそんなことを言ってくる。


「もう、目が離せなくなりそうだ……」


「行きますよ」


オーウェンが、控えめな咳払いをする。


アレクシスが私に手を差し出してきて、私は“聖女っぽく”少しだけ遠慮しつつ、その手を取った。


横でオーウェンが見守っている。

なんか親みたいだ、この人。



謁見の間へ向かう長い廊下を、三人で歩く。


外には出ていないのに、空気がひんやりしている気がした。

緊張のせいかもしれない。


しばらく沈黙が続いたあと、アレクシスがぽつりと言う。


「聖女なんて、勝手に押し付けてゴメンね」


横顔は、いつもみたいな遊び人っぽさがない。

少しだけ、真面目そうに見える。


「でも、来てくれたのが美鈴で良かった」


「ど、どうしたんですか……。王子様らしくないですよ」


思わず本音が漏れる。

さっきから心臓バクバクなんだよ。


「ははは」


アレクシスが笑う。


「君が、美しすぎる……せいかな♡」


心配した私がバカでした。

一瞬で、いつもの王子様に戻りやがった。


オーウェンが、何も言わずに一歩前へ出る。


「こちらが謁見の間です」


重厚な両開きの扉の前で立ち止まり、振り返る。


「準備はよろしいですか?」


「……はい」


喉がカラカラに乾いてる。

それでも、なんとか絞り出す。


大丈夫。昨日、あれだけ叩き込まれたんだから。やれる。……はず



扉が開いた瞬間、空気が変わった。


高い天井。

整然と並べられた柱。

赤い絨毯が、まっすぐ玉座まで伸びている。


左右には、騎士たちや貴族らしき人々が控えていて、皆が一斉にこちらを見る。


視線の圧がスゴい。


真ん中、一段高い場所に、立派な玉座がある。

そこに座っているのが――この国の王様。


アレクと同じ、青い瞳。

年を重ねているのに、顔立ちははっきりしていて、髭もきれいに整えられている。


お年をとっていても、イケメン……

さすがアレクの父親。遺伝子の暴力。


でも何よりすごいのは、オーラだ。


ただ座っているだけなのに、空気が重たくなるような、圧のようなものを感じる。


王様の左右には、数人のおじ様たちが並んでいた。

きっと王様付きのなにかをしている人たちだろう。

宰相とか、騎士団長の上の人とか、偉い人ポジション。


ふと、カミーユの恋の話を思い出す。

“王様付きの偉い役職のおじ様”。

この列のどこかにいるのかもしれない。


視線をそらすと、視界の隅に見慣れた顔が見えた。


あの隅の方――


ガウェイン。

ダンテ。

ユリウス。


三人とも、それぞれの持ち場で控えている。

距離は遠いのに、誰もがわずかに険しい表情をしていて、なんだか心強くて、少しだけ怖くて。


赤い絨毯の上を、ゆっくり歩く。


セシルさんに教わった通り、一歩一歩、背筋をまっすぐに。

足を引きずらない。

目線は、少しだけ下。


玉座の前まで行き、止まる。


静かに裾をつまんで――

優雅に、ね。


「初めまして、陛下。

私は遠き異郷より遣わされし聖女、」


声が、謁見の間に広がる。


たちばな 美鈴と申します。

このような光栄を賜り、心より感謝申し上げます。

どうか、今後ともご指導のほど、よろしくお願いいたします」


王様が、ゆっくり頷く。


「遠い世界より、よく来てくれた」


落ち着いた、低い声だった。

アレクの声とは違い、積み重ねた年月の重みがある。


王様から挨拶を返されて――


そこから、予期していなかった質問タイムが始まった。


「城の暮らしには慣れたか?」


「はい。皆さんがよくして下さるので、少しずつ……」

(毎日イベントだらけで慣れる暇もないですけど)


「何か、不足しているものはないか?」


「えっと……特には……」

(ビールです。とは絶対言えない)


「訓練は順調か?」


「まだ始めたばかりですが、頑張っております」

(塔の階段とセシルさんのレッスンが、既に地獄です)


他にも、いくつか軽い質問が続く。


驚いたのは、王様だけじゃなく、隣にいるおじ様たちも、時々口を挟んでくるところだ。


「元の世界の食べ物で、こちらでも作れそうなものはあるか?」


「城の者に、失礼を働く者はいなかったか?」


そして――


「婚約を拒んでいると聞いたのだが」


唐突に、王様がそう言った。


謁見の間の空気が、ほんの少しだけざわつく。


出た――!!

来た。絶対どこかで来ると思っていた、婚約問題。

優秀な私は既にこの答えを準備していた。


「……申し訳ありません」


ゆっくり頭を下げる。


「私は、こちらの世界について、まだ何も知りません。

王子様のことも、この国のことも。

そんな状態で、“婚約します”と軽く言ってしまうのは、失礼だと思ったんです」


王様が、じっと私を見る。


「アレクシス様に、不満があるわけではないのです」


「……」


いや、チャラいなとは思ってますけど

さすがにそれは言えない。


「私自身も、聖女として、ひとりの人間として、もう少しこの世界を知ってから決めたいと思っています」


なんとか、それっぽい言葉を紡いだ。

ちゃんと本心でもある。

“イケメンだからOK”で婚約決めるほど、私は軽くない。


王様は、少しの間沈黙してから――


「正直でよろしい」


そう言って、口元をわずかに緩めた。


ほっと胸を撫で下ろす。


質問タイムがひと通り終わったあと。

さっきまでの柔らかい空気が、ゆっくりと変わっていくのを感じた。


王様の顔つきが、より一層、厳しくなる。


謁見の間の、空気の温度が一段、低くなったようだった。



「実はな」


王様の声が、静かに響く。


「城の裏の方に、森が広がっておるのだが」


さっきまで、私に向けられていた視線が、今は皆、王様の口元へと集まっている。


「瘴気が、その森を飲み込もうとしておる」


瘴気――


それは、この世界に来てから何度か耳にした言葉だ。

空気を汚し、土地を腐らせ、人や動物さえも狂わせる、黒いもや。

“聖女の浄化”が必要とされる、原因。


「すぐそこまで、来てしまっておる」


王様の言葉には、重さがあった。


「城から見て、もう遠いものではない。

森の端は、かつては子どもたちが遊び、狩人たちが獲物を求めて入っておった場所だ。

今では、近づくことさえ危ぶまれておる」


視線の端で、ガウェインたちの横顔が見えた。

誰もしゃべらない。

けれど、その表情から、この話が冗談でも誇張でもないことが伝わってくる。


「既に、何度か討伐隊を出した」


王様の声は静かだが、その奥に僅かな悔しさが滲んでいた。


「騎士たちも、魔術師たちも、持てる力を尽くしてくれた。

だが、瘴気は少しずつ広がり続けておる。

押し返すことはできても、“消す”ことができぬのだ」


消すことができない……

それを唯一、出来るのが私なんだ…


「こちらの世界に来て、まだ数日しか経っておらぬ」


王様は、私をまっすぐ見た。


「本来ならば、お披露目が終わるまでは、と思っておった」


瘴気が広がるのが早いんだ…

多分、予想以上に…


「だが――」


王様は、ゆっくりと玉座から腰を浮かせた。

その姿勢のまま、頭を少し垂れる。


「どうか、森の浄化を」


ざわっ、と、周囲が揺れた。

王様が、聖女に向かって頭を下げている。

その光景の重さは、ここにいる全員に共通して伝わっているのだろう。


「民のために」


短く、しかしはっきりとした言葉だった。

心臓が、どくん、と跳ねた。


国のトップが、自分よりずっと年下のよそ者に向かって、頭を下げている。


「……そんな」


思わず口を開いていた。


「頭を上げてください!」


胸の奥が、じん、と熱くなる。


元の世界で、人の上に立つ立場なんて、ほとんどなかった。

正直、面倒ごとは避けたいし、危ない目にも遭いたくない。


でも――


「私、やります」


気づけば、言葉が勝手に飛び出していた。


「森の浄化。……やります」


王様が顔を上げる。

その瞳には、さっきとは違う光が宿っていた。


「……危険な事だというのは、分かっています」


手が少し、震えている。

けれど、それを抑え込むように、ぎゅっと手を握った。


「でも、ここに来て、皆さんにすごく良くしてもらいました。

セシルさんや、カミーユや、リリちゃん。

アレクシス様も、ガウェインさんも、ダンテさんも、ユリウスさんも、オーウェンさんも……」


頭の中に、顔が次々浮かぶ。


「私が成長するのを、待ってくれようとしてたんですよね。まだ途中で、学ぶべき事が山ほどあります。聖女としては半人前どころか、やっと1歩を踏み出そうとしている所です。」


騎士たちの家族。

子供たちが遊んでいた場所。


「でも、私が、大切なものを守れるんだったら、聖女とか、どうこうじゃ無くて」


一度、息を吸って。


「橘 美鈴として、やります」


――と口にした瞬間、自分で自分に言い聞かせているような感覚がした。


怖い。


正直、森の浄化とか言われても、具体的に何をするのかも分かっていない。

瘴気がどれくらい危険なのかも、ちゃんとは知らない。


正直、勝手に召喚しておいて聖女なんて大役押し付けて、訓練だとか言って怒られて…迷惑だと思ってたしムカついた。


それでも、この世界に来て知り合ってしまった、大好きな人達の悲しい顔は絶対に見たくない。


「……そうか」


王様が短く息を吐く。

ほんの一瞬だけ、表情が緩んだ。


「感謝する、聖女――いや、美鈴殿」


横を見ると、アレクシスが、少しだけ真面目な顔でこちらを見ていた。


その奥で、ガウェインが静かに頷き、ダンテがニヤリと笑い、ユリウスが穏やかに目を細める。


私の、はじめての“聖女としての仕事”が、今、決まってしまった。


――王城のすぐ裏に迫る瘴気の森。


それはきっと、“異世界転移は憧れでした☆”なんて軽いノリでは済まない。


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