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憧れだった異世界転移は波乱万丈のようです。~5人のイケメンと聖女っぽくない聖女が異世界を救っちゃう話~  作者: mii
第1章 聖女っぽくない聖女

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第5話 淑女とは、程遠いんだってば!!


あのあと。


ガウェインに部屋まで送ってもらって、扉が閉まった瞬間。


「お疲れ様です、聖女様」


ニコッと笑うセシルさんが、いつもの落ち着いた声音で出迎えてくれた。

その一言と、その笑顔で、私の体から一気に力が抜ける。


「ああぁぁぁぁぁぁぁ……帰ってきたぁ……」


思わず、そのままセシルさんに抱きついた。

自分でも驚くくらい、勢いよく。

胸に飛び込むみたいな感じで。


セシルさんは、ちょっと驚いた顔をしたけど、すぐに私の背中をぽんぽんと叩いてくれた。


「大変でしたね」


たった一言。それだけなのに、なんかもう涙出そう。


ガウェインと歩き回って、緊張と酒の約束(重要)とで頭がいっぱいだった私は、安心感と達成感で、完全に電池切れ状態だった。



部屋には、すでに昼食が用意されていた。


テーブルの上に、きれいに並んだ料理たち。

スープに、パンに、サラダに、薄く切られたお肉のプレート。

彩りもきれいで、見てるだけでお腹が鳴りそうになる。


「わぁ……」


思わず声が漏れる。


朝はあんまり食べた気がしなかった。

そもそも緊張で、飲み込んでいる物がパンなのか心臓なのか、分からないレベルだった。


だから、今ここで落ち着いて食べられるのは、本当に嬉しい。


「……あれ?」


でも、テーブルをよく見ると、食器がひとり分しかない。


私の席だけ。

椅子も、私の分だけがテーブルに寄せられている。


「えっと……一緒に食べられないんですか?」


思わず聞いてみた。


だって、せっかく三人ともそばにいるのに、私だけもぐもぐしてるのって、なんか申し訳ない。


セシルさんが、いつもの丁寧な口調で答える。


「聖女様がお食事を終えられましたら、順番に食堂の方でいただきます」


そういえば、朝もそうだった。


王子様とご飯を食べている時、オーウェンは後ろに立ったままだった。

“仕事中だから”っていうのは分かる。


でも、なんか……それ、寂しくない?


「……一緒に食べられたら、楽しいのに」


ぼそっと、つい本音が漏れた。


その瞬間、カミーユが「やれやれ」といった顔で肩をすくめる。


「一緒に食事は出来ませんが、座るだけなら、いいですよ」


そう言いながら、私の向かいの椅子を引いて、スッと腰を下ろしてくれた。


優しい!!!

それを見て、リリちゃんも、きゅっとスカートをつまんでから、恐る恐る隣の椅子に座る。


「わ、わたしも……ご一緒します……」


可愛い。


可愛いは正義。

可愛いは正義だから、もう座って座って。むしろソファにぎゅうぎゅうに並んで座ろう?


セシルさんは、相変わらず私の斜め後ろに控えたままだったけど、表情は柔らかい。


「では、おそばで見守らせていただきます」


なんかもう、暖かい。

この空間だけは間違いなく自分の味方なんだって、信じる事が出来る。


そんな感じで、昼食を終え(めちゃくちゃ美味しかった。なんなら食べすぎた)四人で恋バナをする流れになった。


好きなタイプとか、推しとか。

この世界の恋愛事情、興味しかない。


「リリは、騎士団に婚約者がいるんです」


「えええええ!?婚約者…?私の可愛いリリちゃんが??」


私の反応にリリちゃんは、顔を真っ赤にして、両手で頬を押さえる。


「ま、まだ正式じゃないです……! でも、その……小さいころから一緒にいて……」


軽く膝から崩れ落ちそうになった。

こっちは彼氏いない歴=年齢だっていうのに。


「いいなぁ……」


素直にそう思った。


カミーユは、肘をテーブルに乗せて、頬杖をつきながら笑う。


「私は、年上が好みですね。」


「へー!どんな?」


「王様付きの偉い役職のおじ様がいましてね。すごく仕事ができて、優しくて……奥様は病気で亡くなられてしまったんですが」


おじ様!!

なんか突然、濃厚な話が飛んできた。

さすが同い年、趣味が渋い。


「セシルさんは?」


気になって聞いてみると、セシルさんは少しだけ目を細めて、すぐに首を振った。


「私は、結婚する気はありません」


「えぇ!? 絶対モテるでしょうに!」


あの落ち着き、美貌、スタイル、気遣い。

モテない要素どこにも見当たらないんだけど。


「このお仕事を、やめたくないんです。……恋人は、一応、いますけれど」


「いるんかい!!」


思わずテーブルばんっ、って叩きそうになった。

寸前で止めた。偉い。


今度詳しく聞きたい。めちゃくちゃ聞きたい。

セシルさんの恋人ってだけで、どんな人なのか気になる。


そんなこんなで、笑ったり驚いたりしながらあっという間に時間が過ぎていった。


かなり打ち解けられたと思う。



そして現在。


――次の日の午後。


私は今、セシルさんに“女性の仕草”的なものを叩き込まれている真っ最中だ。


「聖女様、背筋。もう一度、まっすぐに」


「はいぃぃ……」


背中に棒でも入ってるのかってくらい、ピンとさせられている。


肩の力は抜いて、でも猫背はダメで、首の角度はこれくらいで――って、指示が細かい。


「私が恥ずかしい思いをしないように、って言ってくれてるのは分かるんですけど……!」


心の中で涙を流しながらも、足は動かされ続ける。


お茶の飲み方。

カップの持ち方、置き方。

歩き方。

お辞儀の仕方。角度。タイミング。

人前で座るときの姿勢。

話すときの目線の配り方。


そして何より――表情。


「笑いすぎです、聖女様。少しだけ、控えめに」


「はいぃぃ……」


「……今度は真顔が怖いです。もう少し柔らかく」


「むずかしい!!」


もう疲れた。

上から下まで、使ったことのない筋肉が総動員されている感じがする。


この国の人たち、聖女に夢見すぎだって。


希望の存在で、祈りの象徴で、しかも見た目が美しい――(まぁそれは、私が生まれ持った美貌のせい)って設定、ハードル高すぎでしょ。


私なんて完全に清楚とは、かけ離れた女だよ?


でも、まだお披露目前とはいえ、私の存在を知っている人たちはいるらしい。

口外は禁止されてるらしいけど、城内では噂もきっと広まってるだろう。


だからこそ、セシルさんは本気だ。


「聖女様、また色々とだらしなくなっております」


「うぅ……少し休憩したいです! もう、上から下まで使ったことのない筋肉が!!」


情けない声で訴えてみる。


「ずっと年下の少女でさえ、もう少し出来ますよ。ほら、頑張ってください」


ぐうの音も出ない正論。


リリちゃんを横目で見ると、確かに姿勢が綺麗だ。

小さいのに、背筋ピンとしてる。えらい。


「……あの」


私は、ふと思い立って、手を挙げた。


「それと……ひとつお願いがあるんですけど」


セシルさんが、軽く首を傾げる。


「えっと…、聖女様じゃなくて、名前で呼んでくれませんか?」


その瞬間、空気がピタッと止まった。

皆が固まってる。

セシルさんも、カミーユも、リリちゃんも。


私には、ちゃんと名前があるんだ。

“橘 美鈴”。

聖女様なんて柄じゃないし、距離を感じる。


ここにいる三人は、私の生活を支えてくれていて、もう半分家族みたいな存在だ。

せめて部屋の中だけは、もう少しだけ距離を縮めたい。


「美鈴って、呼んでほしい、です」


なんか、言ってから恥ずかしくなってきた。


顔が熱い。

絶対、赤くなってる。


カミーユが、ふっと笑って、


「聖女様……そのお顔。男性の前ではなさらないで下さい」


え。

また変な顔になってた!?

嘘!?


「そうですね。女性の私達でさえ、見惚れてしまいました」


リリちゃんまで、ぽわっと頬を赤くしてそんなことを言う。


その逆だったーーー!!!

変な顔じゃなくて、“ときめき誘発顔”だったの!?


私こんな顔も出来るんだね。初めて知りました。

オネダリ顔? お願い顔?

でも再現は出来ません。意識した瞬間に崩壊する自信がある。


セシルさんは、少しだけ目を伏せてから、静かに頷いた。


「では、お部屋の中だけですよ……美鈴様」


「っ……」


優しい!!!

大好きなんです! セシルさん!!


名前で呼ばれた瞬間、なんか胸の奥がじんわり温かくなった。

ここが私の居場所なんだって、改めて思う。


「ははっ! もう少し表情の練習が必要ですね」


カミーユが嬉しそうに笑う。


「何を考えているのか丸わかりでっ、あははっ!」


うるさい。

でも、笑ってくれる事で仲良くなった感じがして何も言えない。


セシルさんは、少しだけ厳しい目に戻って、私をまっすぐ見た。


「美鈴様は裏表がなく、まだ数日ですが、私達のことも信頼し、心から慕ってくださっていると感じます」


「そ、それは……はい。好きです、皆」


素直に答えると、セシルさんは一瞬だけ目を見開いて、すぐに柔らかく笑った。


「ですが、それは命取りです。余計なトラブルになりかねません」


それはそうです。

ごもっともです。


この城の中には、たぶん色んな思惑を持った人がいる。


聖女としての私、

異世界人としての私、

その全てに、何らかの価値を見出す人がいても、おかしくない。


「……頑張ります……」


しゅんと肩を落としつつも、ちゃんと返事をする。


その時。

コンコン、と扉がノックされた。


ついに!?

酒か!?

心の中で歓声を上げる。

来た!? 約束のやつ来た!?


「はい、どうぞ」


セシルさんが声をかけると、扉が開いて、そこから顔を出したのは――


「聖女様に、明日の訓練のことで確認が必要なことがあり、お呼びだそうです」


ダンテだった。


「…………」


一瞬で、私のテンションが床まで落ちる。


セシルさんも、すごい微妙な顔をした。

口には出さないけど、絶対に同じこと思ってる。


“ああ、またどうせ王子様なんでしょ?”って。


「夕食もこちらで食べる、ってさ」


ダンテが、がははっと笑いながら付け加える。


やっぱりかーーー!!!

お酒じゃなかったーーー!!!


「……何も聞いていないですが」


セシルさんの声が、ほんの少しだけ低くなる。

仕事上の確認モードだ。


「そりゃあ急だったから、そちらにはまだ来てないだろう」


ダンテは悪びれもせず、頭をかく。


「帰りもしっかり送り届けるからさ。大丈夫だ」


絶対、“大丈夫”の基準が違う気がする。

王子様といる時の“大丈夫”って、だいたいこっちの精神力が削られる方向に傾いてるんだよね。


「……あまり遅くなりすぎないように言っておいてくださいませんか?」


セシルさんが、しっかりと釘を刺す。


「おう、分かってるって」


ダンテは、にかっと笑って親指を立てた。

その笑顔は嫌いじゃない。

嫌いじゃないけど、今は違う。今欲しいのはアルコールだ。


「じゃ、行くか、聖女様!」


元気いっぱいに手を差し出してくるダンテ。

私はその手を見て、深くため息をつきたくなるのをなんとか堪えた。


「行ってきます……セシルさん、カミーユ、リリちゃん」


「行ってらっしゃいませ、聖女様」


三人の声に見送られながら、私はダンテと並んで歩き始めた。


……頼むから、今度こそ心臓じゃなくて、ちゃんとご飯の味がする夕食でありますように。


そんなことを心の中で祈りながら――


私は、また新たな“聖女業務(?)”に向かっていった。

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