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憧れだった異世界転移は波乱万丈のようです。~5人のイケメンと聖女っぽくない聖女が異世界を救っちゃう話~  作者: mii
第2章 想像以上に波乱万丈

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第16話 新たな火種の予感だってば!!

 

舞踏会での“あの事件”から、1週間。


オーウェンは――少なくとも表面上は――あの時のことを、きれいさっぱり覚えていない様子だった。


(いや、もう忘れててくれていいんだけどさ。

 でも、もし本当は覚えてて知らん顔してるんだとしたら、

それはそれで心臓に悪いんだけど)


彼はいつも通り冷静で、いつも通り完璧で、いつも通り、眼鏡の奥の瞳に感情をあまり浮かべない。


こっちは、うっかり目が合うたびに、思い出して、ひとりで顔が熱くなってるっていうのに。


……ほんと、ずるい。


そんなことを内心でぶつぶつ言いながらも、私の生活はというと、ここ一週間でますますハードモードになっていた。 


「もっと集中して下さい、聖女様。魔力の流れを感じて」


「こ、これ以上は!?」 


ユリウスさんからは、毎日、容赦のない魔力訓練。

手を繋いだり、魔法陣の上に立たされたり、見たこともない魔道具を握らされたりしながら、「今、ここが温かいでしょう」「痺れる感じがしますね?」と冷静に観察される。


一方でオーウェンからは、この国の地理や情勢の講義。浄化の旅をするのにあたって重要な事らしい。


「ここが国境になります。隣国との関係は現在、おおむね良好ですが……」


「……ですが?」


「ひとつ、聖女様がいらしてから急激に動き出した派閥がありまして」


「えっ、なんかサラッと怖いこと言いました!?」


地図にびっしり書き込まれた文字を見ながら、私は毎回、頭を抱える。

聞いたことのない地名、聞いたことのない貴族の家名、聞いたことのない税制。 


さらにセシルさんからは、相変わらずマナーの厳しい指導が続く。


「聖女様、ナイフはもう少し寝かせてお持ちくださいませ」


「ねかせる……こう?」


「いえ、そうしますと今度はフォークが立ちすぎてしまいます」


「うぅ……ごめん、フォーク……」 


テーブルマナーだけじゃなく、立ち居振る舞い、笑顔の作り方、視線の向け方。

「聖女として恥ずかしくないように」と、セシルさんは本当に熱心に教えてくれるのだけれど、庶民出身の私は、毎日新しい筋肉痛を発見していた。 


そして、怪我で安静中のダンテの代わりにガウェインから受けることになった体力訓練は――。 


「あと十周だ」


「ひっ……ひぃぃっ……!?さ、さすがにもう、足が……!」


「足があるうちは走れる。そんな体力で過酷な大地を浄化して周れると思っているのか。」


「過酷な大地って!?」


広い訓練場をぐるぐる走らされ、木剣を振らされ、盾を構えさせられ。

最初の頃に比べれば、確かに体力はついてきた気はする。でもその分、ガウェインの要求も容赦なく上がっていくので、結果としてしんどさはあまり変わらない。


(あれ?これってもしや、ずっと苦しいままなんじゃ……?)


そんな毎日――。


合間合間に、アレクシスが「やぁ、今日も頑張ってるねぇ、美鈴♡」とちょっかいをかけに来る。 


「最近、ガウェインと一緒にいる時間が増えたね?嫉妬しちゃうなぁ」


「嫉妬する要素どこに!?あの人、鬼教官なんですけど!?」


「ふふ、頑張ってる君も、可愛いよ?」


「はいはい、仕事してください、王子様」 


……とまぁ、こんな感じで。


そんな日々を、私は、なんだかんだで全力で走り抜けていた。


「ようやく順調に進んできたかな」と、ちょっとだけ思い始めていた、その頃だった。


◆ 


その日も、午前中の訓練を終えて、私は自室へ戻っていた。

汗を流して、少し休んでから午後の講義に向かうつもりで、椅子に腰を下ろした瞬間。


「美鈴様……」


「美鈴様……その、少し、よろしいでしょうか」 


いつもはにこにことしているリリちゃんとカミーユが、やけに深刻そうな顔をして部屋へ入ってきた。


「あれ?どうしたの、二人とも。そんな顔して。」  


リリが、ぎゅっとエプロンの裾を握りしめる。 


「……あの、実は、あまり良くない噂が出回っているみたいで」


「良くない噂?」 


首を傾げた私の代わりに、カミーユが静かに続ける。 


「んー……オーウェン様と……美鈴様が、不貞行為を働いた、とか、ですね」


「ええ!?ちょっと待って、今なんて言った!?」 


思わず椅子から立ち上がった。

耳を疑うって、こういうときに使う言葉だ。


リリが、申し訳なさそうに目を伏せる。


「二人が、周囲に隠れて逢瀬を繰り返していて、それを目撃した人物がいる、とか」


「はぁぁぁ!?逢瀬!?繰り返して!?」 


どこのロマンス小説だ、それ。


まず逢瀬の意味をちゃんと理解してる自分が恥ずかしいし、それを自分とオーウェンに当てはめられているという事実が、輪をかけて恥ずかしい。


カミーユが、少しだけ肩を竦めた。 


「それと、婚約話が出ないのは、そのせいでアレクシス様が婚約を破棄しているから、だとか」


「ちょ、ちょちょちょ、何それ!?盛りすぎにも程があるでしょ!?」 


ていうか、破棄も何も、そもそも正式に婚約してないからね!? 


そこへ、話を聞いていたセシルさんがため息混じりに言った。


「はぁ……そうなのです。舞踏会当日に、お二人で姿を消されて、それを、多くの兵が知っています。捜索しておりましたから……」


「だ、だってそれは!?閉じ込められてたんだってば!?」


あの部屋でのことを思い出し、心臓がバクンと跳ねる。


(あぁもう、思い出させないで……!) 


セシルは静かに首を振った。 


「事情をご存じない者にとっては、

“姿を消した”という事実だけが残ります。

 そこへ何者かが悪意ある噂を流せば――」


「……こういう形になる、ってこと?」


「はい。どこから噂が漏れ出したのか、現在、城の者たちも調査中だそうです」 


リリが、不安そうにこちらを見上げてくる。 


「だから、今後の訓練では、

必ず私たちの誰かが付き添う形になります。」  


セシルが、改めて姿勢を正した。 


「その件につきまして、後ほどアレクシス様、オーウェン様からもお話があるようです。私もご一緒に伺います」


「もー、次から次へと!なんなの!ようやく順調に進んでると思ったのになぁ!」


思わずテーブルに突っ伏す私を、リリとカミーユが心配そうに覗き込んだ。


「大丈夫ですか、美鈴様……」


「お茶を淹れてきますね。少し、落ち着かれたほうが」


「……うん、お願い」


私は深く息を吸って、ゆっくり吐き出した。 


◆ 


執務室。


いつも通り整えられた室内は、どこか張り詰めた空気に包まれていた。


私はセシルと一緒にソファに座り、真正面の机の向こうに座るアレクシスとオーウェンを見つめる。 


「さて、今回の噂の件だけど」


いつもの軽い口調。けれど、その青い瞳はしっかりと真剣で、冗談を言う気配はない。 


「どうやら、城の外から流れてきているようなんだ」


「外……?」 


セシルが小さく呟く。


「それって?」 


私が聞き返すと、オーウェンが静かに眼鏡を押し上げた。 


「あの事件と、噂を流した犯人は、同一人物の可能性が高い、ということです」


短い言葉なのに、背筋がひやっとする。 


「わざわざ、外にまで話を持ち出して、広げている、ってこと?」


「はい。あの日のことを知る者は限られていました。城内だけでなく、街の噂として広がっている以上、意図的な動きと見てよいでしょう」 


アレクシスが、肩をすくめてみせた。 


「私と、美鈴の婚約を反対してるみたいだねぇ。

 それと、聖女の評判を落としたい、とか」


「……あの人、」 


名前は出さなかった。けれど、全員の頭の中に、同じ人物の姿が浮かんでいる気がした。


真っ赤なドレスに身を包み、冷たい瞳でこちらを見下ろしていた、公爵令嬢。


「まさしく、アレクシス様と私が考えているのも、聖女様と同じ人物でしょう」 


オーウェンの声が、わずかに冷たくなる。 


「でも、証拠がないんだよね」と、アレクシス。


その一言に、執務室の空気が沈む。 

 

「来週、街の中を巡るパレードが計画されているのですが、延期するしかないでしょう」


オーウェンが、書類の一枚をめくりながら言う。 


「聖女様の御姿を民へお見せする初めての場でもありますし、今のままでは危険が大きすぎます。人混みの中で何かあれば――」 


セシルも、すぐに頷いた。 


「そうですね……私も、その方が宜しいかと存じます。護衛の数にも限りがございますし」 


パレード。

街の中を馬車で巡って、人々に手を振って、笑って――そんな、テレビでしか見たことのない光景を、自分がやることになるなんて。


怖くもあるけれど、楽しみにしていたイベントでもあった。


(延期かぁ……)


少しだけ肩を落としたその時、アレクシスが「……いや?」と、ぽつりと呟いた。 


「その逆じゃ、ダメかな?」


私たち三人の視線が、一斉に彼へ向く。


「逆?」


オーウェンが眉をひそめる。 


アレクシスは、いたずらっぽく笑ってみせた。


「むしろ、仲睦まじい姿を見せてあげようじゃないか。

 僕たちは噂なんかに負けませんよ、ってね。噂を流した本人は、焦るだろうねぇ」


「……」


一瞬、言葉を失った。


「な、仲睦まじいって、具体的に何するつもりなの?」


「もちろん、やましいことはなにも。

 ただ、手を取ってエスコートしたり、馬車の中で楽しそうに会話したり、笑い合ったり――普段通りの僕たちを、堂々と見せればいいだけさ」


“普段通り”の基準が違いすぎる。


こっちは毎回、あんたの軽口と距離感に振り回されてるっていうのに。 


「アレクシス様。危険を承知で、あえて敵を刺激することになります」


オーウェンの声が、いつもより少しだけ低い。


「もちろん、護衛体制は増強するよ。

 それに――」 


アレクシスはふっと笑って、私のほうを見た。 


「何より、聖女を“隠す”ような真似は、したくないんだ。

 後ろめたいことなんて、ひとつもないのだから」


その言葉が、じんわりと胸に響いた。 


綺麗なことを、さらっと言う。

本気なのか、半分は王子としての“役目”なのか、分からなくなるくらい自然に。  


私はまた、トラブルの予感に、小さくため息をつくのだった。


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