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憧れだった異世界転移は波乱万丈のようです。~5人のイケメンと聖女っぽくない聖女が異世界を救っちゃう話~  作者: mii
第2章 想像以上に波乱万丈

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第15話 もうトラブルは、ごめんだってば!!


舞踏会がおわりかけ。

音楽もさっきより少しだけ落ち着いた調子になっていて、グラス片手に談笑している人が多くなってきた。


アレクシスが、隣でぐいっと伸びをする。


「ふぅ。そろそろお開きかな」


「……やっと終わる」


思わず本音が漏れた。今日一日で、どっと寿命が縮んだ気がする。


「私は、もう少しここにいるから」


アレクが椅子から立ち上がりながら言う。


「オーウェンに先に送ってって貰ってね。

 皆の帰宅と被るとごちゃごちゃして危ないから」


「かしこまりました」


オーウェンが、いつもの丁寧な一礼をする。


「では聖女様、参りましょう」


「はい。お疲れ様でした、陛下、王妃様」


王様と王妃様に挨拶をしてから、私はオーウェンと共に、会場を後にした。



人の気配が少ない廊下は、さっきまでのざわめきが嘘みたいに静かだった。


ヒールのコツコツという音と、オーウェンの足音だけが響く。


(はぁ~~~疲れたぁ~~~~)


心の中で全力のため息をつきながら歩いていると――


ふわり、と。


どこからか、甘い香りがした。


「……ん?」


思わず足を止める。


花とも違う、香水とも違う、ねっとり甘い匂い。

なんだろうこれ。お菓子のシロップを煮詰めたみたいな。


「聖女様?」


オーウェンも、少し眉をひそめる。


「今の、匂い、分かりました?」


「ええ。……この辺りに、香りの元があるようですね」


彼は視線を巡らせ、ある扉の前で立ち止まった。


「……ここから、ですね」


扉の隙間から、甘い香りがさらに濃く漂ってきている。


「聖女様はここにいて下さい」


オーウェンが、真剣な表情で私の方を向いた。


「少し、確認してきます」


「は、はい」


そう言って、オーウェンは扉を開け、中に入っていく。


パタン、と扉が閉まる。


私は廊下に残されて、一人ぽつんと立つ。


……しーん。


……しーん。


(……戻ってこない)


数分も経っていないはずなのに、やけに時間が長く感じる。


(大丈夫かな……?)


何も聞こえない。物音も、声も。


(ちょっとだけ。ちょっとだけ覗くだけ)


フラグを立てている自覚はある。あるけれど。

ここで何もせずに待つのも、それはそれで不安だ。


私はそっと扉に近づき、ノブに手をかけた。


「オーウェン? 大丈夫?」


少しだけ、扉を――


その瞬間。


「きゃっ!?」


後ろから強く押されて、私はそのまま中へ転がり込んだ。


バタン!


「えっ」


ガチャリ。


はっきりと、鍵がかかる音がした。


「……へ?」


「聖女様」


中には、オーウェンがいた。


少し眉を寄せて、ため息をついている。


「廊下にいて下さいと言ったのに」


「す、すみません。なんか全然戻ってこないから心配で……」


言い訳は、我ながら苦しい。


それどころじゃない問題が、すぐに発覚した。


ガチャガチャ。


「……あの、もしかしたら、閉じ込められたかも」


オーウェンは扉のノブを回し、軽く押したり引いたりしてみるが――


「……開きませんね」


「やっぱり~~~!?」


思わず頭を抱えたくなる。


その時、さっきの甘い香りが、さらに強く鼻を衝いてきた。


「うっ」


「……はぁ」


オーウェンが、わずかに目を細める。


「この香りは――恐らく、惚れ薬の類いでしょう」


「惚れ薬!?」


思わず声が裏返った。


「結構、吸っちゃってるけど!?」


「粗悪品のようなので、あまり効果はないですが、念の為、窓を先に開けます」


そう言って、オーウェンは部屋の奥にある窓に向かった。


そこは、物置部屋なのか、小さなテーブルと椅子がいくつか置いてあるだけの簡素な部屋だった。

外は夜。月明かりが差し込んでいる。


ガラリ。


窓を開けると、冷たい空気が流れ込んでくる。


「ふぅ……これで、少しはマシでしょう」


オーウェンがそう言った、その時だった。


ドアの下の隙間から、別の匂いが流れ込んでくる。


「ん……?」


今度はさっきとは違う、ツンとした薬草みたいな匂い。


「聖女様、窓の近くに。離れないように」


オーウェンが振り返りながら言う。


「え?」


「ゴホッ……!」


オーウェンが、突然咳き込んだ。


「オーウェンさん!?」


「少し……吸い込んでしまいました」


彼は胸元を押さえ、苦しそうに呼吸を整える。


「恐らく新しい方も、単体では大したことないです。

 ですが、匂いが混ざると危険なので、窓から離れないように……」


「誰が、こんな事を……」


思わず漏れた私の声に、オーウェンはかすかに微笑んだような気がした。


「……すみません」


「え?」


「すぐに、出して差し上げたいのですが――」


額に汗が浮かび始めている。


「どうやら、先程の薬と、私の相性が悪かったみたいです」


「オーウェンさんっ!?」


冗談抜きで、顔色が悪い。


「ど、どうしよう。オーウェンさんが死んじゃう! どうしたら……!」


「大丈夫です。……私は、丈夫なので」


そう言いながらも、足元がふらついている。


「無理して立ってないで、座って下さい!」


私は慌てて、近くの椅子を引いてオーウェンの腕を取った。


その手が、ほんの少し震えている。


心臓が、いやな意味でバクバクしてきた。


「美鈴、様」


「え……?」


さっきまで“聖女様”と呼んでいたのに、嫌な予感しか、しない。


私は思わず、オーウェンの顔を覗き込む。


「なに? 何をして欲しいの?」


「私は……」


オーウェンの瞳が、少し霞んだように見えた。


「とてもズルい男です」


「え?」


「アレクシス様の影に隠れて、ずっと、あなたを見ていました……」


ゆっくりと伸ばされた手が、私の頬に触れる。


ひやりとしていたはずなのに、今は妙に熱い。


「オーウェンさん、しっかりして下さい! 変な事言ってる場合じゃ――」


「両思いに、なれるなんて」


オーウェンは、苦しげに息を吐いた。


「高望みは、しません」


視線が、真っ直ぐこちらを射抜く。


「ただ、あなたをお慕いする――許可を頂けませんか……」


「お、お慕い!?」


心臓が、今度は別の意味でバクバクし始めた。


「惚れ薬……粗悪品だって、言ってたのに……」


「苦しいのです」


オーウェンの声が、かすかに震える。


「想っては、ダメだと、自分に言い聞かせても――

 どんどん、あなたに惹かれていく」


本当に苦しそうな顔をしている。

それが混ざった匂いの悪影響なのか、惚れ薬による、恋煩いの影響なのか私には、わからない。


(どうしよう……)


こういう時、どう返せばいいの?

教科書に載ってなかったよこんなシチュエーション。


「そ、その……」


私は、喉がひりひりするのを感じながら、言葉を絞り出した。


「誰かが誰かを好きになるのに、許可なんて、いらないと思います」


「……」


「だから、その……」


オーウェンの腕に、少し力が入る。


次の瞬間、ぐいっと、身体を引き寄せられた。


「……っ!?」


「オーウェンさん!?」


オーウェンの腕が、私の背中に回る。


耳元で、低い声が囁いた。


「今だけ」


息がかかって、背筋が震える。


「今だけ、私だけの、美鈴様でいて下さいませんか」


(む、むりむりむりむり!?)


頭が一瞬真っ白になる。


距離が近い。近すぎる。

顔を上げると、すぐそこに、オーウェンの顔。


目が合う。


心臓の音が、うるさくて、自分にしか聞こえないのが不思議なぐらいだ。


「オ、オーウェンさんは今――」


なんとか声を絞り出す。


「たぶん、惚れ薬の影響を受けています。だからっ……!」


か、顔が近付いてくる。

キ、キス――!?


(ちょっ、待っ、心の準備ってものが――)


その時。


コンコン。


「おい、誰かいるか」


ドアの向こうから、聞き慣れた低い声がした。


「!?」


ビックリして、私は反射的にオーウェンを押しのけた。


「っ……!」


勢いよく離れたオーウェンは、そのまま椅子にもたれかかるようにして、ぐったりと目を閉じる。


(あぶなかった~~~~~!!)


あと数センチずれてたら、完全にキスしてた。

惚れ薬混ざり状態の執事と。

精神が持たない。私の心が過労死する。


コンコン。


「誰かいるのか」


さっきより、声が少し大きくなる。


「は、はいっ!」


私は慌てて扉の方へ近づき、隙間に向かって叫んだ。


「閉じ込められました!! 助けて下さい!!」


……一瞬の沈黙。


次の瞬間。


ドーーーン!!


「きゃあっ!?」


扉が外側から勢いよく蹴り破られた。


粉じんの中に現れたのは――ガウェインだった。


「良かった」


彼は部屋の中を素早く見渡し、私と倒れかけているオーウェンを確認する。


「部屋に戻ったはずなのに、どこにも見当たらず、捜索中だった」


「オ、オーウェンさんが!」


私は慌てて振り返る。


「薬の匂いがして……苦しそうにしてて……!」


ガウェインの顔がわずかに険しくなった。


「詳しい話は後だ。まずは治療室へ連れて行く」


彼はオーウェンの腕を取り、肩を貸して立たせる。


「歩けるか?」


「……問題、ありません……」


オーウェンが、かすれた声で答えた。


その言葉に、ほんの少しだけホッとする。



治療室。


白いカーテンで仕切られたベッドがいくつか並び、その一つにオーウェンが横たえられていた。


ユリウスさんが、真剣な顔で診察している。


私はその少し離れたところで、ガウェインと並んで説明を終えたところだった。


「……部屋に入ったら甘い香りがして、オーウェンさんが『惚れ薬の類い』って言ってて。

 扉が勝手に閉まって、鍵がかかって……」


ユリウスさんは頷き、手元の小瓶を軽く揺らす。


透明なガラス瓶の中に、淡いピンク色の液体が入っていた。


「オーウェンのそばから見つかった小瓶がこれです。

 聖女様のお話と合わせると――この惚れ薬は私の目から見ても粗悪品のようです。ですから…」


「へっ?」


思わず変な声が出た。


「じゃあなんで……あんな……」


(お慕いとか今だけ私だけのとか言ってたんですけど!?)


ユリウスさんは、少しだけ困ったように笑う。


「二種類の薬が混ざったことで、オーウェンの身体に悪影響が出たんですね。

 そのせいで意識が朦朧としていたはずです」


「……」


「一つは粗悪な惚れ薬。もう一つは、おそらく軽い鎮静や睡眠を促す類いの薬です。

 単体ならどちらも大したことはないですが――体質的に、相性が悪かったのでしょう」


(ってことは……)


私は、さっきの言葉を思い出してしまう。


『アレクシス様の影に隠れて、ずっと、あなたを見ていました……』


(惚れ薬のせいじゃなかった……?)


顔が熱くなるのを感じて、思わず両手で頬を押さえた。


ガウェインが、腕を組んだまま口を開く。


「実行犯らしき人物は捕らえたが、黒幕は違うだろうな」


「ガウェイン」


ユリウスさんが、診察を終えて立ち上がる。


「聖女様をお部屋にお送りして下さい。

 ここに長く居させるわけにもいきませんし、今日はもう休んで頂いた方がいい」


「分かった」


ガウェインがこちらを向く。


「行くぞ」


「は、はい……」



部屋まで送ってもらって、セシルさん達に事情を説明し(かなりぼかし気味に)、

騒ぎを落ち着かせて、ようやくひとりになった。


ベッドに座り込み、天井を見上げる。


「はぁぁぁぁぁ……」


今日だけで、ため息何回ついたんだろう。


(惚れ薬事件、こわ……)


誰が、何のために。

私を狙ったのか、オーウェンを狙ったのか、それとも王子様の側近を狙ったのか。


考えれば考えるほど、胃がキリキリしてくる。


でも、それよりも――


枕に顔を埋める。


「ずるい……」


アレクはアレクで、「本気だからね♡」とか言ってくるし。

ダンテはダンテで「自分と婚約しないか?」なんて冗談言ってくるし。

ガウェインは、さりげなく一番頼りになるし二面性のギャップが。

ユリウスさんは体調診断とか言ってスキンシップが多い気がする。

そしてオーウェン…。


(なんで私、こんなイケメンハーレムみたいな状況に……?)


異世界転移前の私に教えてあげたい。

「そこら辺にイケメン転がってねーかなー」なんて言ってたら、こうなるぞって。


明日から、また訓練の日々が始まるだろう。


早く犯人捕まると良いなぁ。そんな事をぼんやり考えながら眠りに落ちた。


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