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憧れだった異世界転移は波乱万丈のようです。~5人のイケメンと聖女っぽくない聖女が異世界を救っちゃう話~  作者: mii
第1章 聖女っぽくない聖女

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第12話 1人にしないでってば!!


――ここは、どこ。


目を開けると、そこは森の中だった。


でもさっきまでいた森とは、少し違う気がする。

瘴気はない。空気が澄んでいて、息を吸っても喉が痛くない。


木々は柔らかい緑色で、葉の一枚一枚まで、やけにくっきり見える。


その、少し開けた場所の真ん中に。

祈りの像があった。


(……え?)


思わず、息が止まる。


さっき、目の前で砕けたはずの像。

頭も、腕も、胸も、全部バラバラになって、土の上に転がっていたはずの像が――


今は、何事もなかったみたいに、そこに立っている。

白い石肌は傷一つなく、ローブの皺まで丁寧に彫られている。

両手を胸の前で組み、空を見上げている横顔は、静かで、優しくて。


(夢……?)


そう思った時。


祈りの像のすぐ隣に、ひとりの女性の姿が見えた。

長い髪をゆるくまとめ、シンプルな白い衣をまとった人。


年齢は分からない。少女にも、大人の女性にも見える、不思議な雰囲気。

その人は、祈りの像と同じように、優しい目をして私の方を見た。


何か、口が動いている。


『……ありがとう』


そう言ったように見えた。


でも――声が聞こえない。


「ちょっと待って」


思わず叫んでいた。


「聞こえないよ! 何て言ったの!? みんなはどこなの!」


返事はない。


女性の唇は、何か続きを紡いでいるのに、音が届かない。

そして、消えていく。


「一人にしないで……!」


胸が締め付けられる。


アレク。

オーウェン。

ユリウス。

ガウェイン。

ダンテ。


第1騎士団の人たち。第3騎士団のみんな。

治癒術師さんたち。セシルさんたちメイドのみんな。


(みんなは……無事なの?)


声に出しても、ここには、もう私しかいない。


耐えきれなくなって、私はその場にぺたんと座り込んだ。

膝を抱え込んで、小さく体を丸める。


祈りの像の前で、体育座りみたいな姿勢でうずくまる。



どれくらい、こうしていたんだろう。

森の中の時間は、やけにゆっくりで、でも一瞬で過ぎていくようでもあった。


風の音も、葉擦れも、鳥の気配もない。

静かすぎて、自分の心臓の音ばかりが耳に響く。


ふと、視線を上げる。


祈りの像は、さっきと同じ姿勢のまま、静かに立っていた。


壊れる前と同じ像。


でも、さっきの戦場のことを思い出すと、胸が痛い。


私がモタモタしている間に、像は砕けて。

ダンテは血まみれで倒れて。


みんな、傷だらけで戦っていて。


ゆっくりと、手を伸ばした。


祈りの像の裾のあたり――ローブの石の布に、指先が触れた瞬間。


像から、不思議な光が溢れ出した。


「っ……!」


眩しさに、思わず目を細める。


光は白くて、でもどこか温かくて。

冷たい石から溢れているのに、春の陽だまりみたいな感覚だった。


その光の中から、半透明の鳥のようなものがふわりと現れた。


翼を広げ、ゆっくりと羽ばたく。

体は透き通っていて、向こう側の景色がかすかに見える。


それでも、輪郭ははっきりしていて、瞳は澄んだ金色に光っていた。


「……きれい」


思わず呟く。


鳥は一度私の周りをぐるりと飛び、くちばしで空の一点を指し示した。

そして、そのままふわりと飛び立つ。


『こっちだよ』


そんな声が、心の中に直接響いた気がした。


(……ついてこいって、言ってる?)


鳥は振り向かない。


でも、一定の距離を保ちながら、こちらを気にしているようにも感じる。


気が付くと、無意識に歩き始めていた、出口を探すように。


「美鈴?」


遠くで、誰かが呼ぶ声がした。


「美鈴! 聞こえるか!」


アレクシスの声だ。

一気に、現実に引き戻される。


「っ……アレク?」


「すぐにユリウスを呼んできて下さい!」


今度はオーウェンの声が聞こえた。

いつもの落ち着いた声音より、少しだけ強く、焦りが滲んでいる。


目の前の光の鳥が、くるりと振り返る。

金色の瞳が、まっすぐ私を見つめた。



私は、ゆっくりと目を開けた。


視界に飛び込んできたのは、見慣れた天井。


「……ここ、部屋?」


少し視線を動かすと、天井近くをさっきの美しい鳥が飛んでいるのが見えた。

透き通った羽根をなびかせながら、静かに旋回している。


そのすぐ横で。


「美鈴!」


アレクシスが、今にも泣きそうな顔で覗き込んでいた。

思わず、口が勝手に動いた。


「……アレク、ひどい顔ね」


目の下にクマ。髪はぼさぼさ。

いつものキラキラ王子様スマイルはどこにもない。

自分の声が、かすれていることに気付く。


(ああ、ちゃんと喋れる)


それだけで、少し安心した。


「っ……!」


アレクシスが、ぐっと唇を噛んだ。

そして、安堵と怒りと嬉しさが全部混ざったような、何とも言えない笑顔を浮かべる。


「それは、こっちのセリフだってば……どれだけ心配させるのさ」


私は、どうやらベッドの上にいるらしい。

身体を動かそうとしたけれど、妙に力が入らない。


天井付近を回っていた鳥を、オーウェンが見上げた。


「祈りの像があった付近から、出てきました」


淡々と説明する声。


「かなり上位の精霊です。元々、祈りの像を守っていたものでしょう」


精霊。

やっぱり、あの不思議な感覚は、ただの夢じゃなかったんだ。


「ダンテは……」


口が勝手に続きの名前を呼ぶ。


それが、今一番怖くて、一番知りたいこと。


「その他のみんなは、無事ですか。森は……」


アレクシスが、慌てて私の肩に手を置いた。


「慌てないで。まずはユリウスに診察してもらおう」


「でも……」


起き上がろうとして、上半身に力を込める。


その瞬間――


「うっ」


体から一気に力が抜けて、ベッドに押し戻された。

腕も、足も、思うように動かない。

自分の体なのに、距離感が合わないような、不思議な感覚。


そこへ、ノックもそこそこに扉が開いた。


「聖女様!」


ユリウスが、少し息を切らしながら入ってくる。

普段の穏やかな笑みはそのままだけど、目の奥がほんの少し潤んでいるように見えた。


「本当に……目が覚めて、良かった」


ベッドの傍まで来て、そっと手を差し出す。


「手を」


私は、言われた通りに手を差し出した。

自分の指が、少し震えているのが分かる。


ユリウスの手が、私の手を包み込む。

温かい魔力が、静かに流れ込んできた。


「大丈夫です。森の浄化で魔力を使い切っているようなので、もう少し安静に」


優しく、そう告げられる。


「……っ!」


言葉より先に、問いが口から飛び出した。


「成功したんですか?」


オーウェンが、静かに頷いた。


「えぇ。森の瘴気は晴れました。あなたのおかげです」


アレクシスが、私の手をそっと握る。


「美鈴が倒れた直後、一瞬、あたりが闇に包まれて――」


彼の目が、その時の光景を思い出すように、遠くを見る。


「そして、光が溢れた。

 魔物は灰になり、森に色が戻った」


(……やったんだ)


胸の奥がじんわりと温かくなった。


私にも、ちゃんと出来た。

みんなが繋いでくれたものを、無駄にしなかった。


オーウェンが、いつもの調子を少しだけ取り戻したように、淡々と続ける。


「像があった周辺から、怪しい袋が見つかりました。

 魔物はそれを守っていたんだと、思います」


ユリウスも頷いた。


「袋から、黒い魔力を感じました。

 瘴気とは違う、濃く淀んだ……意図的に集められた類のものです」


言葉を選びながら、そう言う。


「なので――」


そこで、低い声が割り込んできた。


「内通者がいるということだ」


視線を向けると、ガウェインが扉に寄りかかっていた。

腕を組んで、こちらをじっと見ている。

その表情は冷静で、でも目の奥にははっきりと怒りが燃えていた。


アレクシスが、深く息を吐いた。


「悲しい事にね。森の瘴気の広がり方も異常だった。

 自然にああなるには、あまりに早すぎた」


「誰かが、意図的に瘴気を呼び込み、濃くした可能性が高い」


オーウェンが言葉を継ぐ。


重い空気が流れた。


私の背筋が、ぞくりと冷たくなる。


(……この国のどこかに、王国の滅亡を考えてる誰かがいるってこと?)


信じたくない。でも、さっきの森の様子を思い出せば、納得もしてしまう。


「……あの」


口の中がカラカラに乾いているのに、それでも聞かずにはいられなかった。


「レオンハルトさんとダンテは?

 それに、他の騎士の方とか……みんな、無事?」


問いかけた瞬間、部屋の空気が変わった。


一瞬だけ、全員の表情が暗くなる。

嫌な汗が、背中をつうっと伝った。


「まさか……」


最悪の言葉が、喉の奥で引っかかる。


ガウェインが、ゆっくりと口を開いた。


「ダンテは……たったさっき、目を覚ました」


「本当かい!?」


真っ先に反応したのはアレクシスだった。

身体を乗り出す勢いでガウェインを見る。

オーウェンが、わずかに眉をひそめる。


「なぜそれを早く言わないんだ」


「お前たちが喋りすぎてるからだ」


ガウェインが、小さく肩をすくめた。

ユリウスが、ふっと表情を和らげる。


「レオンハルト団長も、命に別状はないですよ。

 重傷ではありますが、術師たちが総出で治療に当たっています」


ほんの少し、胸の中の石が軽くなる。


「その他の騎士も――」


一拍置いてから、ユリウスが続けた。


「あんな戦いがあったのに、奇跡的に死者はゼロです」


「……ゼロ」


思わず、復唱していた。


「アレクシス王子の采配や、治癒術師の方々の働き、戦ってくれた皆さんの功績です」


オーウェンが淡々と言う。


「そして、一番は美鈴だね」


アレクシスが、改めて私を見つめた。


「君が浄化してくれなかったら、今頃この国はどうなっていたか分からない」


褒められているのに、胸がくすぐったくて、少し苦しい。

ユリウスが、ふと思い出したように言った。


「アレクシス様、美鈴様の目が覚めなかったのは、魔力が枯渇した影響なのか、という件ですが」


「そう、それも聞きたい。美鈴、君はまる2日間。眠っていたんだよ。」


アレクシスが真剣な表情に戻る。


「魔力が尽きてしまったから、こんなに長く……?」


ユリウスは少しだけ言葉を選び、それから静かに首を振る。


「いえ、違います。

 断定はできませんが――」


一度、私の手を握る力をほんの少し強める。


「聖女様の光の魔力と、何らかの力が深く共鳴したのだと思います」


「何らかの、力……?」


「はい。おそらくは、祈りの像に宿っていたもの。

 あるいは、この森そのものの“意思”のようなものかもしれません」


ユリウスの視線が、天井近くで飛んでいる精霊の鳥へと向かう。


「その結果、美鈴様は一時的に、森全体と繋がる形になった。

 その反動で、意識が深く沈んでしまったのだと考えられます」


「……森と、一体化」


木々の揺れる音。

土の中を流れる水の気配。

遠くの、まだ生きている小さな命の鼓動。

全部が、自分の中に流れ込んできた、あの不思議な感覚。


ユリウスは、少しだけ安堵したように微笑んだ。


「ですが、今はもう大丈夫です。

 光の魔力はまだ回復途中ですが、“繋がり”そのものは静かに落ち着いています」


そこで――


バンッ、と勢いよく扉が開いた。


「こんなところで、何をしているんですか!!」


鋭い声が部屋に響く。


セシルさんだった。


その後ろには、号泣しているリリと、目をうるうるさせているカミーユが並んでいる。


セシルさんは、ベッドをぐるりと囲んでいる男性陣を一瞥した。


「安静にしていなきゃいけない聖女様を取り囲んで、何を話し合っているんですか!」


ぴしゃり、と言い放つ。


誰も反論できない。


「オーウェン様、ガウェイン様、アレクシス様、ユリウス様。

 聖女様の命に関わる会議でないのなら、続きは外でなさって下さい」


オーウェンが、苦笑を浮かべて肩をすくめる。


「……ごもっともです」


アレクシスも、小さく手を挙げた。


「じゃあ、続きはあとで、ね」


ガウェインは何も言わず、静かに頷いて扉の方へ向かう。

ユリウスも軽く頭を下げて、その後に続いた。


セシルさんが、ぴしゃりと指を扉の方へ向ける。


「出ていって下さい!」


王子も執事も騎士団長も魔術師団長も、揃いも揃って、セシルさんの号令一つで部屋を出ていく。


扉が閉まる直前、アレクシスが名残惜しそうに振り返って手を振った。


「本当に、良かった……またあとでね、美鈴」


扉が閉まり、部屋が少し静かになった。


次の瞬間。


「ぐすっ……うわぁぁぁぁん!!」


リリが、堰を切ったみたいに泣き出した。


「み、美鈴様ぁぁぁぁ! 本当に、本当に良かったですぅぅ……!」


ベッドの枕元まで走ってきて、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で笑う。

カミーユも、目を赤くしながら笑った。


「まったく……私、心配しすぎて、昨日一睡もできなかったんですからね」


セシルさんは、深く息を吐き、そして私の手をそっと両手で包み込んだ。

「お帰りなさいませ、美鈴様」


その一言が、胸の奥まで染み込んで、目の奥がまた熱くなる。


(……ただいま)


声には出さずに、そう心の中で返した。


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