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4話

登場人物

ベルグト 18歳 酒場の下働きをしている青年

キャロル 17歳 放浪の占い師

パナ   3歳  野良犬

ベルグトとキャロルが出会ってから20日ほどが過ぎようとしていた。

最初の数日はしつこく付きまとっていたキャロルも最近はしばらく姿を見せていない。

さすがにあきらめたのだろうと思っていたが、ある日突然ベルグトの働いている酒場にやってきたキャロル。


当然のように酒場のテーブル席に座る。その姿を見たベルグトは仰天する。



「またお前か!!今度は俺の仕事場にまで来るなんて、どういうつもりだ

何をしに来たんだ?」



ちらりと一瞥するキャロル。


「愚か者め!ここは酒場だろう?客が酒場へ来て何がおかしい?今日、わらわはここへ食事をするために来たのじゃ。ほれ、客なのだからもてなすがよかろう」



「あのなあ、そんなことを言ってまたインチキ商品を売りつけるつもりだろう?いい加減にあきらめろよな」



「竜山草のことか?」



ふふん、と鼻で笑ったキャロル。



「あれはもうよい。すべて済んだ」



言葉の中に引っかかりを感じた。



「すべて済んだ?どういうことだよ。お前、まさかあの妙な野草を他のだれかに高い値段で売りつけたんじゃないだろうな?」



「その話はもうよいと言っておる。さあ、この店で飛び切りのうまいものを持ってこい!今日は客だと申したであろう」



訝しげなベルグトではあるが、押し問答をしてこの店で騒ぎを起こされては

自分が困る。


しぶしぶではあるが仕方がないのでオーダーを通し、料理をテーブルへと運ぶ。



「お待たせしました。どうぞ」


ベルグトは肉料理をテーブルに置く。


目を輝かせ破顔してその肉料理に舌鼓を打つキャロル。


彼女の正前の席に座るベルグト。



「しばらくおとなしくしていたと思っていたのに、突然どうしたんだよ?」



「ふむ・・・」



食べ始めたばかりではあるが、手を止めて紙ナフキンで口を拭う。

そして口を開く。


「わらわはこの20日ほど、この街の古い図書館でいろいろな文献をあさっていた。そなたに見えた凶兆とは何なのかと考えておったのじゃ。随分と時間がかかってしまったがおぼろげながら正体のようなものが見えてきた」



よくも20日間も飽きないものだとあきれながらも、彼女の言葉の中に凶兆の

正体らしきものというワードには気になるものを感じた。

興味があることを気づかれるのも、しゃくではあるが聞き返してみる。



「凶兆の正体?なんだよそれは?」




「まあ、聞きたいだろうて。よいよい、わらわの個人の見解じゃが話してやろう。戯言として聞いてくれて構わない」



グラスの水を1口飲み、間を置く。そして話し始める。



「人間には周期と運命というものがある。周期とは調子のいいとき、悪いとき。物事を始めるのに良い時、逆に悪いとき。そういったものが人生の中で繰り返されている。まあ、わかりやすく言えばタイミングというものだ。タイミングが合わなければ物事は動き出さない。そして運命とはその人間に降りかかる試練のことだ。人生の壁ともいえるものじゃ」



「そりゃあ、誰にでも理由もなく気分が落ち込んだり、どうしても物事がうまく運ばないときはあるけれど、そんなことは意識をしたことがなかった。

試練?人生の壁って?」



ベルグトの2つの瞳に占いに対する関心の色が出たのを感じ取る。


「ふふふん、そなたも興味が出てきたようじゃな。ではでは説明してやろう。

人生の壁は周期とともに必ずその人間にやってくるものだ。その壁を前にして

どうするかはその人間次第だ。大きな壁を前にして逃げることもできるし

立ち向かうこともできる。迂回したり、よじ登ったり、まあ人によりいろいろじゃ」



「いったい何が言いたいんだ?」



「そなたには今、試練が訪れようとしているということじゃ。

試練とは誰もが逃れることのできないものだ。試練の具体的なことまではわからないが、乗り越えねばならぬもの。たとへ周りの人の力を借りてでもどうしても乗り越えねばならぬもの。乗り越えることができるもの。

一人の力ではどうすることもできないことでも、周りに助けを求めれば救われることもたくさんあるはずだ」



「う~ん・・・。」



考え込むベルグト。こいつの言うことを信用してもいいものか?

順風満帆に生きていけるとは考えてないけれど、キャロルの言うことには

納得できるところもある。



「もし、この試練を超えることができたら、大きな幸福がそなたを待っておるであろう、と予言する」




その日の仕事終わり、店のかたずけを終えるとパナと共に路地裏を出て

家に向かう。

あの後、食事を終えたキャロルはあっさりと店を出て行った。



「凶兆、周期、運命、試練・・・・。あいつの言ってたことは本当なのだろうか?誰しも必ず人生の壁がやってくる。今までそんなことは考えたこともなかった。自分一人ではなく、周りに助けを求めるという方法もある・・・。」



昼間のキャロルの言葉が気になる。ベルグトの頭の中にいろいろな考えが

駆け巡る。



「あの占い師、突然付きまとってきたり、変なものを売ろうとしたり

今日は難しい話をしていた。予言だって?信用してよいものなのか?」



「ワン!ワン!」



何かを見つけたのか、横を歩いていたパナが突然吠え出して走っていく。

その方向を見ると防波堤の上に昼間、店に来ていたキャロルが海に向かって座っていた。

片手にはアイスクリームを持っている。


「う~ん、このアイスクリームはなんと美味なことか!

海を見ながらのデザートとは幸福じゃ」



防波堤に座ってアイスクリームをほおばっている。

暢気なものだと思うベルグト。



走っていったパナがキャロルのアイスクリーム目掛けて飛びついた。

背後からの突然のアクションに驚いたキャロルはアイスクリームをパナに奪われてしまう。

がつがつとデザートを食べてしまうパナ。



「あーー!!こらっ!わらわのデザートに何をするのじゃ!大バカ者!」


慌てて取り戻そうとしたが、半分以上は食べてしまっている。

ベルグトが後からやってきた。その慌てふためいている様子を見て吹き出してしまう。



「ハハハハハ、何やってんだよお前は!」


「笑うな小僧!わらわのアイスクリームを弁償しろ」





            「ドクン!!」




突然の衝撃が走った。



ベルグトの胸に凄まじい胸の痛みが襲ったのだ。心臓を走る鋭い痛み。



「ハア、ハア!ぐ、、ウア、、、!!」



突然のことに驚きながらも、もだえ苦しむ。呼吸が苦しい。自分の体が業火に

焼かれたように熱くなっている。両膝を地面につき、自分の胸のあたりを押さえる。


「ドクン!ドクン!ドクン!」



「ゴホッ、ゴホッ。く・・・あ・・・」



心臓が早鐘を打つ。そのたびに鋭い痛みを感じる。

声が出せない。汗が大量に出てきた。意識が朦朧とする。


その様子を冷静に見ているキャロル。



「そうか、こやつにずっと見えていた凶兆とはこのことか・・・。

遂にその時が来たのかえ?」



ベルグトは息が荒くうつぶせになり倒れてしまった。


周りではパナが騒がしく吠え続けている。

読んでくださってありがとうございました。次がラストのお話となります。いいね!応援いただければ嬉しいです。

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