2話
登場人物
ベルグト 18歳 酒場の下働きをしている青年
キャロル 17歳 放浪の占い師
パナ 3歳 野良犬
「そなたには凶兆が見えた。近いうちに大きな不幸が襲うであろう!
間違いはない」
ベルグトの顔を真正面に見ながらその女性はそう叫んだ。
静かな夜の街の通りに声が響いた。
突然の意味不明な発言に困惑するベルグト。
「なんだ?凶兆だって?何を言ってるんだお前は」
「わらわは旅の占い師キャロル。世界各地を旅をしながら占いを生業としておる。わらわの占いは当たる。間違いなどない。
そなたには不吉なものを感じたのじゃ。」
「ハハハ、あいにくだけど俺は占いの類は信じない性格でね。そういった商売は他をあたってくれ。不吉なもの?あほらしい!」
「そなた、まだ生きていたいかえ?これからも長く生きていたいかえ?」
「当たり前だろう!俺には夢があるんだ。この街で自分の店を構えるっていう大きな夢があるんだ。その為に毎日働いているし、生きていたいに決まっているだろう。まだまだやりたいこともあるんだ」
・・・・・・・・・・・。
しばしの沈黙。
「わかった・・・・。」
そう言うと占い師キャロルは自分の鞄をごそごそと探り、何やら1つの小さな袋を取り出した。そしてそれをベルグトの眼前に突き出してみせた。
「それであれば、これを使うがよかろう。必ずやそなたを守ってくれる」
目の前に差し出された小さな袋をみるベルグト。
「何だよコレ?」
キャロルはニヤリと笑った。そして言った。
「竜山草という代物じゃ。ドラゴンシードとも呼ばれておる。この竜山草の種を家の近くに植えておくがよい。竜山草は成長がすごく早いので20日もすれば花が咲くじゃろう。」
「竜山草?あああ、聞いたことはある。どこかの国で高値で取引されてるって聞いたけど。」
「たわけが、これはただの野草ではない。不幸を払う力を持っておるのじゃ。
竜山草の花が咲くとき、強風が吹きドラゴンの咆哮と聞きまごう響きがこだまする。そのドラゴンの咆哮で不浄な者たちが恐れおののいて、逃げていくの
じゃ!この竜山草があればそなたの凶兆も吹き飛ばしてくれるぞよ。まだ生きてやりたいことがあるのであれば、これを使え!」
「う~む・・・」
ベルグトはキャロルの様子を観察している。こいつは何なのだろうか?
怪しいけれど妙に説得力がある。
そしてキャロルの差し出す小さな袋を触ろうと手を出したとき
サッと手を引くキャロル。
そして満面の笑みで言った。
「但し、タダというわけにはいかん。わらわにも生活があるのじゃ。
そうじゃな、ここは特別価格で10万ジェルで譲ってやろうではないか!」
その言葉を聞いて愕然とするベルグト。何だ、結局モノを売りたいだけの
方便だったのか?だまされたようで腹が立ってきた。少しでも口車に乗せられて信じかけた自分がいたからだ。
「ふざけるな!インチキ占い師が!そんなもの買うわけがないだろう!
俺はもう帰る。これ以上付きまとうと騎士団を呼ぶぞ!」
ベルグトはパナと共に足早に立ち去って行った。
「バカ者!噓ではない、わらわの占いは当たるのじゃ。おーーーい!!」
夜の街の大通りに一人残されたキャロル。
防波堤の向こうから波の音が聞こえている。
1000文字づつの連作となります。いいね!感想、評価で応援して頂ければ幸いです。