いえ。そう言う事では
出浦盛清:森様!お待ち下され!!
森長可:上杉から誘われた事を心配しておるのか?案ずるで無い。日付を見るにこの書状。景勝めが京で政変があった事を知った直後に認めた物である事がわかる。それをすぐ知らしてくれた其方の働き。長可。大いに感謝しておる。景勝がどれだけの者に書状を送り付けたのか定かでは無い。今後、私に刃を向ける者も居れば日和見を決め込む者も居る。その犯人捜しをするつもりは無い。そうなると私に知らせた其方が川中島で生活するのが難しくなるかも知れぬ。心配致すな。其方に斯様な思いをさせぬ事。この長可約束する。
出浦盛清:いえ。そうではありません。私が長可様の下に足を運んだのには理由があります。
森長可:ん!?何だ。申してみよ。
出浦盛清:私がここに足を運んだ理由。それは……。
森長可が川中島を去ってしまうのでは無いか?
出浦盛清:であります。ここ川中島の者共皆。武田の家臣として、長年対上杉の最前線を任されて来ました。いついくさになるかもわからぬ緊張感の中、この川中島を守って来ました。時は移り主君でありました武田信玄がこの世を去り、勝頼の代となり上杉との関係は修復。その結果、いくさの無い川中島を手に入れる事が出来ました。しかしそれも束の間。武田は織田とのいくさに敗れ、先行きのわからない状況に追い込まれる事になりました。そんな我らを憐れに思われたのでありましょう。織田信長様信忠様より御高配を賜り、今もこの川中島で生活を営む事が出来ています。
「これで川中島がいくさに巻き込まれる事は無くなった。」
と皆が安堵していた所、此度の政変であります。
ただ現状大きな問題にはなっていません。何故なら森長可様。貴方様がここ川中島を守っていただいているからであります。森様のいくさ上手は越後に去った芋川、島津を通じ景勝にも届いている事でありましょう。芋川は武田。島津は上杉の共に最前線でこの川中島で相対していた間柄であります。景勝も畏怖し、信頼を置いている者共であります。そんな彼らの言を重んじるのは必定であります。
もし森様がこのまま川中島を守っていただけるのでありましたら、国衆は皆。森様の下に馳せ参じる事。間違いありません。しかし森様の本貫地は美濃にあります。加えて此度の政変で森様の主君であらせられます織田信長様信忠様の行方が不明であるとの事。すぐにでも戻りたいと考えておられるのでは?そうなった時、上杉がどのような手を打って来るのか?森様不在の中、上杉の侵攻を川中島の国衆だけで維持する事が出来るのか?皆が不安に覚えている所であります。




