探査機を思う
いつのまにか、グラスの横に置いたラジオからは、祭りにふさわしい明るい音楽が雑音混じりに流れている。
古いディキシーランド・ジャズ。
僕は一つに合体した光体が再び二つに分離したところを、のんびりと見上げながらチーズを囓る。
どうやら状況は終了したようだ。
さっきから家の電話がジャンジャンなっている。
けれども僕はもう引退した身だ。
軍だろうが数少ない飛行隊からだろうが、僕は電話を放っておくことに決めていた。僕には責任もなにもないのだから。
普段であれば相談くらいは受け付けるが、今日は特別な日だ。
地球からの旅人が、帰路につくのだ。
静かに見送りたい。
探査機である光体は月の影に入っていく。ラジオの音楽が突然止まり、男性の声に変わった。
「臨時ニュースです。地球からの探査機が正体不明機に襲撃された模様です!」
アナウンサーは興奮したように捲し立てている。
僕は離れていったアランチオネ人の機体であろう光が、アネロに消えていくのを見つめながら呟く。
「隣人を信じられないものかねぇ?融和、博愛だろうに……」
僕だってもちろん探査機の心配はしているが、宮仕えの身としてはアランチオネ人とも関わりがあるし、無謀なことをするとは思えない。
第一、目的はなんとなくだが分かっている。
「……新しい情報……探査機の進路……影響……ないようです……詳細はまだ分かりませんが……」
僕はニュースの中身に一応は胸をなで下ろし、雑音が大きくなったラジオを消した。
やっぱり、予想どおりの動きがあったのだろう。情報どおりだ。
遠くでどよめきが湧き上がるのが聞こえた。安堵の声だろうか。街の方ではざわめきがさらに大きくなっている。
僕も、無関心を装いながらも、とても気になっているのだ。仰向けのままでグラスを傾けながら、探査機のことを思う。
無事、地球に着くにはまた二千年ほどの時間がかかるだろうし、僕はもう生きてはいない。
人類もどうなっているかは分からない。
もはや覇権を握るだけの力も若さもなくなってしまった種族なのだから。でも、だからこそ、個人的には、若かりし頃の地球人からのメッセージに関しては興味があった。
けれども、まあ、彼らの手に渡っていることの方が正しくも思える。
悩ましいところだ。
結局のところ、片道になることを承知で送り出されたのだとしても、僕ら地球人はただ、若人の飛ばした希望の塊が役目を果たし、無事に帰ることを祈るだけがいいのかもしれない。