生きるために
こんにちは、だざいです。
第5話「生きるために」を執筆しました。
温かい目でお読みいただけると嬉しいです。
「ん…うぅぅ…」
体痛い…なんか疲れたなぁ…
私何してるんだっけ…
確か…零士達と「Eden」に到着して…
時折体に波立つように走る鈍い痛みが走り、
ぼんやりと回らぬ頭を起こすようにして美也子は目を覚ました。
「そうだ、アウディが変なロボット?に攻撃されて…
み、みんなは…?零士、ミゲル、ミューディ!!」
隣を見ると美也子のように意識を失っているミゲルとミューディの姿が目に入った。
多少衝撃による打撲などはあるだろうが、
時折「うぅ…」と呻いている所を見るに生きているのは間違いなさそうだ。
「よかった…生きてる…」
美也子は遠目でも全員が生きていることに安心をし胸をなでおろした。
しかし次の瞬間ミューディの隣にがらんと誰もいない空席のシートが目に映った。
全員ではない。
1人ここにいない人間がいる。
零士の姿はどこにもないない…。
美也子は勢いよく立ち上がろうとしたが、
ガチっと脱出ポットのシートに体が抑えられており立ち上がれず
「うっ」という声と共に再度元の座っていた位置に戻された。
「零士はアウディの爆発で…」
思い出したくもない今しがた起こった戦闘の光景が、
今そこで再度起こっているかのように、
鮮明に頭の中でリピートされた。
操縦ブリッジからポッドまでの距離は3分もない。
全員が生きるために全力で走った。
ミゲル、ミューディ、私は次々に乗り込み
最後の零士のみとなった。
私はその零士に声をかけて手を伸ばし、零士もその手を取るモーションに入ったその瞬間、
零士は爆風に巻き込まれて、まるで突風で一瞬にして飛ばされる綿毛のように、
脱出ポットの目の前で通路の側面に吹き飛ばされてしまったのだ。
べしゃ…という音共にぐったりと血まみれで床に転がる様は、
今まで共に研究者として生活してきた仲間とは思えない無残な姿だった。
零士が死んでしまう。
零士を助けなければ!
私は瞬間的にそう思った。
死んでしまったと一瞬でも感じたが、
それを信じず振り払うように、私は零士の元へ駆け出した。
だがそれをミゲルに後ろから抱かれる形で引き止められた。
「美也子よせ!零士はもうだめだ!ポッドを出そう!!」
「何を言ってるのよ!零士はまだ生きてるわ!」
「このままじゃみんな死ぬぞ!零士を見ろ!もうぴくりとも動きはしない、
仮に連れて行ってもどのみち治療はできないんだ!!」
「いや!いやよ…!!零士をそれでも置いていけないわ!!」
必死に振りほどくように私は暴れたが、
私より二回りは体格の違うミゲルに強引にポッドの中に連れていかれてしまう。
「だめよ!見捨てたら!!零士が!!」
泣きわめく私に発射システムを起動したミューディが私に近寄ってきた。
そして右の頬にバシっと乾いた音と共に鈍い痛みが走る。
「美也子さん冷静になりなさい。」
「ミュー…ディ…????」
なんで?なんでそんなに落ち着いてるの?
切り捨てるの?仲間を?零士を?
「あなただってこうなる予想はしていたでしょう!!
重症の零士さん1人と私3人の脱出と今優先しなきゃいけないのはどっちですか!?」
「く……」
「今次の瞬間には私たちも死ぬかもしれない。
遊びじゃないんです!!!
確実に生き残る命と死んでしまった人とどっちが優先にすべきことですか。」
「で、でも零士は…!!」
私がまだ生きていると言葉を続ける前にミューディが閉開ボタンを押した。
ゆっくりポッドの扉が閉まっていく。
この時私は何を言っていたか覚えていない。
言葉にもなっていなかったかもしれない。
唯一この時覚えているのは。
暴れ続ける私をがっちり抑えるミゲルと閉開ボタンを押したまま固まるミューディに対して
私はなんて薄情な人たちとミゲルとミューディを睨みつけた。
許さないと仲間を切り捨てる鬼だと本気で思った。
しかしそんな気持ちはすぐに立ち込める硝煙のにおいに消えていった。
彼らは涙を流しながら零士を見ていたのだ。
絶対に互いの手は緩めない。
自分達はしなければならないことをするという、
強い意志が彼らにあった。
生き残るために。
しかしそのために零士を見捨てなければいけない、
救うことができない。
そういった悔しさや悲しさ、やるせなさが
彼らの目から涙へ形を変え絶え間なく流れ続けていた。
その涙が、【本心は私と同じ】なのだと感じずにはいられなかった。
「零士…」
「零士さん…」
2人は小さな声で確かに零士の名前をつぶやき
しまっていいく扉の先にいる零士から決して視線を話さなかった。
私は2人の顔を交互に見て心情を察した気がした。
そして共に…
零士は死ぬのだ。死んだのだ。
そう私の中で結論をつけてしまった瞬間だった。
涙が止まらない。
見捨てたくない。離れたくない。
だが零士は動く気配はなかった。
それが事実だった。
もう扉が閉じる。
ごめんなさい零士…
心の中でそう唱えたとき
「零士さん!!!!!」
ミューディが突然叫んだ。
私は突然のことに驚いたが、
すぐに零士に目をやる。
そこにはこめかみから頬にかけて血でそまりつつ、
こちらに右手を向けながらこちらを見る
零士がそこにいた。
「零士!!零…」
プシューーー!!
バン!!キーン…バシュ!!
ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!
本当に一瞬だった。
こちらを必死にみる零士。
私が叫んだ時には扉は閉じ、
脱出ポッドは勢いよく射出された。
扉のドアからはどんどん小さくなるアウディが無数のロボットに
攻撃され続けているのが見える。
泣きわめく私をミゲルは、
すまない零士…許してくれ…
とつぶやきながら私を座席にシートベルトで括り付けた。
そしてミューディ、ミゲルが操縦席についたところで、
ゴッと鈍い音がした。
「まずい!!さっきの爆発でポッドの左翼が動かない!」
「これではどこかに不時着するしか…ぐうぅぅぅぅ!!」
ゴゴゴゴと地響きのようにひどく揺れるポッド
「だめだもう持たない!!」
ミゲルが叫び
「もうだめ!イヤァァァァァア!!」
ミューディの絶叫がこだましたとき、
強い衝撃がポッドを襲った…。
恐らくそこから気を失ったのだろう。
すべてを思い出した。
一体どれだけの時間がたったのだろう。
誰も座っていないそのシートを再度見やる。
するとこちらに手を伸ばし、
こちらを見つめる零士がフラッシュバックした。
見殺しにしたという罪悪感と共に、急な吐き気が襲てきたので必死にこらえ、
窮屈に拘束されていたシートベルトを素早く解き、
一目散に外に出た。
外は夜だった。
周りは森林に囲まれており、ポットの周りを覆い隠すようだった。
そして外の空気と美也子の肌が触れた瞬間、
喉の奥から強い酸味の匂いと吐しゃ物を吐き出していた。
まるで体中にある体液がすべて吐き出されるようだった。
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一通り腹の中にあったものを出し切り
嘔吐した際特有の痙攣が収まったところでポッドの中に戻った。
口の中がひどく酸っぱい。
中に戻ると目を覚ましたミゲルがやるせないという顔で
ミューディを抱えて外に出ようとしている所だった。
「美也子…大丈夫か…?」
「えぇ…大丈夫…少し吐いて楽になったわ…
ミューディは?」
「軽いむち打ちにはなったみたいだが…大丈夫そうだ。
多分時期に目覚めると思う」
「そう…」
それぞれが今出せる声で必死に会話をしている、という感じだった。
ミゲルは罪悪感かあるいは、ばつの悪さなのかわからないが、
私の顔を見ようとしない。
今の私たちには状況を整理する時間が必要だ。
最もその時間があるかはわからないが…
不安
恐怖
疑念
確執
罪悪感
様々な気持ちが渦巻き疲れ果てる私たち。
しかしそんな私たちの地獄は始まったばかりと、
ステージのスポットライトのように、月明かりが私たちを照らし続けていた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
本当は零士目線で小男との回を書こうと思いましたが、
その前に美也子たちがどうなったのか先に書こうと思い執筆しました。
個人的にはミューディとミゲルの会話があんまりないので、
もう少し会話してほしいなぁと思ってます。
※書いてるとなかなか話すシーンに行けない…
近々6話を執筆しますので、お楽しみにいただけますと幸いです。