5/7
五 叫喚
蒙塵の一行は、輿車もなく牛馬もなく、洛陽の大路小路を徒で走る。
王城を焼き落とす火影で、四方は黄昏どきのように赤い。
一行の背では、年古りた三百歳の宮々が燃えている。冬官が技を競って建てた玉の台が、春秋秦漢の御代から伝わる玉器神剣が、聖人君子の叡智の粋たる典籍が、名文家の美学の結晶たる書物が、なべて灰になろうとしている。男の絶命の喚声が耳朶を打つ。女の陵辱さる叫声が鼓膜を震わす。王城のあらゆる歴史と人倫を蹂躙して飽くことのない胡どもの歓楽の声が、通りによく響いている。
左方、右方に広がるは、廃墟である。毀され焼かれ、無事な建物は一つもない。かつての西市に近い街路である。が、華やかりし人のあふれた、在りし日の姿を思い起こさせるものは皆目ない。
足下で軽く固いものが割れる。土器か、あるいは白いので、骨か。
前に、人の脛を咥える痩せた野犬がいる。一行に杖で払われ蹴散らされ野犬が落とした脛を奪ったのは、廃墟から這いずり出た人であった。
一行はひたぶるに洛水へ向かった。