3/7
三 碧血
玉体にも、干戈が迫っている。胡軍号して二万七千が洛陽を包囲している。
対して洛陽に、防ぎ守るほどの兵はない。
逃れさせねばと、王城に残った数少ない人士は額を付き合わせ思案し、決意した。天子蒙塵の荒路に命果てるまで供すると、覚悟した。
「うぬもか」
鳩首凝議していた人士らは、部屋の一隅に控え、無言ながら気焔万丈たる宦官に気付いて言った。
「碧血なり」
人士らは口々に賞賛した。
「とても宦官とは思われぬ」
宦官は感激に打ち震えた。
蒙塵の日は、今日である。夜陰にまぎれ洛陽の南、洛水へ浮かべた船に乗る。洛水の流れに沿って西のかたへ下り、古都たる長安へ入る。
都落ちはすでに幾度も企図されてはいた。が、ことごとく潰えた。
「万障、排されんことを」
計画を聞き、帝は奏した十人余りの人士へかく綸言を賜った。もはや勅命ではなく、祈願の言葉であった。事実、乾坤一擲の賭けであった。天佑神助のほか帝を守り給う術はないと、誰も彼も分かっていった。
残日も、遂に沈んだ。決行の時である。