夢中
久しぶりの投稿です
こちらにも多く載せているのでどうぞお立ち寄りください
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another passageです
眼前の超、超高層ビルを仰いで、彼は叫ぶ。
「俺は神だ」
あまりにも高いそのビルの前を往来する、スーツで身を整えた人間たちの流れが、一斉に彼を注視する。衆人環視の中、彼は唖然としているままの顔で周囲を見渡すと再び狂ったように「俺は神だ」とわめき始めた。しかし、どうやら言葉が通じないらしい、彼には聞き取れない言語で周りと何かをつぶやくと、スーツの人間らは何事もなかったかのようにまた流れをつくる。
「俺は神だ」
なお喚き続ける彼を横目に、いつものように日常を闊歩している人間らは河の如く流れ、まるで岩に割ける水流のように彼を避ける。そして、ひとつの現象を形成するように、誰も彼に関与せず、強張らせた無表情のまま幾人もが通り過ぎていく。
「俺は、神だ」
叫んでいる彼も次第に疲れたのか、声は小さくなるばかり。しまいにはその場に膝を屈し、頭を抱えてうつむいたまま動かなくなってしまった。
彼は心中で言葉を反芻させる。私は神だったはずだ。そう、森羅万象を思想夢想で弄繰り回せるという、最高位にあったはずだ。私が言うこと全てが真理であり、嘘の存在を許さじとした。指先ひとつで世界を反転させ、破滅させてきた。そうだったはずだ。
しかし、どうにもその力は今の彼には無く、人間らと同じ能力しか携えてはいないようである。足は二本しかなくて、腕も二本しかない。頭だって、小さいのがひとつ。
もしかすると。彼はあらぬ方向へ考えを馳せる。もしかすると、私は人間なのではないだろうか。夢の中でなら誰だって、自分の意の赴くままに世界を歪ませることができる。夢だからだ。こうやって現在人間程度の能力しか持ち合わせていないのは、それ故ではないだろうか。いや、違う。私はだって流れには乗っていないではないか。周りは私を避けて行く。ならば、そこいらの人間らとはやはり違うのではないか。そうすると、では、何が違うのだろうか。違うとは何なのか。やはり容姿は手触りの感覚ではどうしたって人間のようであるし、おおよそ似ている、と言われるような相手は流れの中にごまんといるだろう。さほど美しくも、醜くもない、とりとめのない顔。おお、こんなに平淡なものが特異なわけがない。私はやはり人間なのだろう。人間なのだ。
徒労感も加え重くのしかかる体を、どうにか足で支えて立ちあがった。
仰ぎ見ると、超、超高層ビルに隠れて、空は見えない。
流れに入ろうと一歩進む。
と、目が覚めた。体の感触が一度に脳に伝わって、体が布団にあることを知った。
やっと現実を把握した彼は、やはり神のようだった。
不快な寝汗を感じている。