第32話 プリコグニションカレンダー 前編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
よく晴れたある日の夕方、一人の少女が少し暗い表情で道を歩いていた。
「はぁ……今日もやっちゃったなぁ。私、なんでいつもこうなんだろ……人の考えがわからなくて変な事言っちゃうし、ドジばかりだし。せめて相手が何を言うかわかったり何が起きるかわかったりすれば良いんだけど……」
少女が深くため息をつき、重い足取りで歩いていこうとしたその時だった。
「そこのお嬢ちゃん、ちょっと良いかな?」
「え?」
突然聞こえてきた声に少女が顔を上げると、そこにはセーラー服姿の少女と灰色のパーカーに水色のスカート姿の少女が立っていた。
「え……あ、貴女達は……?」
「私達は道具と人間の橋渡し役とその助手ちゃんだよ。ところで、なんだか辛そうにしてたけど何かあった? もしかしてどこか痛いとか?」
「ううん、違うよ。私、昔からドジばかりな上に相手の言っている事があまりわからないから、いつも誰かを怒らせたり失敗ばかりしてるの。だから、せめて相手が何を言うかわかったり何が起きるかわかったりすれば大丈夫かなと思うんだけど……」
「つまりは対策を前もって練りたいんだね。お姉ちゃん、鞄の中見せてもらって良い?」
「うん、見ちゃって見ちゃって」
『繋ぎ手』が鞄を下ろすと、助手の少女は鞄のチャックを開けた。そして、中に手を入れて液晶画面がついた四角い機械のような物を取り出すと、少女は心底不思議そうに首を傾げた。
「それは……?」
「この子は『プリコグニションカレンダー』という名前で、この画面のところに日時や気温なんかが映るんだけど、それと同時に所有者にその日起こる事を教えてくれるんだ」
「その日起こる事を……それって時間とか場所とかもわかるの?」
「わかるよ。例えば、午前6時に家でベッドから転げ落ちる、みたいにその人にとって良い事でも悪い事でも何か起きるようなら教えてくれるよ」
「そうなんだね……」
「因みに後ろに付いているボタンを押すと、映す日にちを切り替える事が出来るから、今日の内に明日起きる事を知りたいっていう時にはそれも可能だし、間違って進めすぎたっていう時でも逆のボタンを押せば戻せるよ」
「なるほど……」
「という事で、これは貴女にプレゼントするよ。大切にしてあげてね」
そう言いながら『繋ぎ手』が『プリコグニションカレンダー』を渡そうとすると、少女は驚きながら首を横に振る。
「い、いいよ……私の場合、間違って壊しちゃうかもしれないし……」
「ああ、大丈夫だよ。この子は本体も画面も壊れる事はないからね。それに、どうやら貴女とこの子は相性が良いみたいだから、きっと貴女の事を助けてくれるよ」
「私の事を……うん、それじゃあありがたくもらうね。私もこのままじゃ良くないって思ってるし……」
「うん、辛いままじゃ嫌だもんね。ところで、お姉ちゃん。この子の注意点ってあるの?」
「特にはないよ。でも、強いて言うならこの子が出来るのはあくまでもその日に起きる事の予知だけだから、その出来事に完全に対応する事は出来ない。だから、後は貴女自身がどうするかだよ」
「……うん、わかった。そこまでは流石に頼れないもんね」
少女が真剣な表情で答えると、『繋ぎ手』は満足げな様子で頷く。
「そうだね。それじゃあ、私達はそろそろ帰るよ。その子の事、大切にしてあげてね」
「うん、もちろん。良い物をくれてありがとうね」
「どういたしまして。それじゃあまたね、お姉ちゃん」
手を振りながら『繋ぎ手』達が去っていくと、少女は手の中にある『プリコグニションカレンダー』に視線を落とす。
「……どうするかは私次第、か……でもそうだよね。これの力を借りて、私は変わらないといけないんだ……」
少女は辛そうな表情で独り言ちた後、『プリコグニションカレンダー』を手に持ったまま踵を返し、そのまま家に向かって歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。