第31話 レプラコーンハウス 中編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「……ふぅ、無事に帰宅……と」
時間が翌日を迎えた頃、スーツ姿の男性は少し安心したように独り言ち、玄関のドアを閉めてからリビングの電気をつけた。リビングの隅には食べ終わったカップ麺やコンビニ弁当が入ったごみ袋が置かれ、朝の慌ただしさを示すようにテーブルの上には汚れた食器などが載っていた。
「あー……忘れてた。何か作る前にこれくらいは片付けないといけないな……はあ、めんどくさい……」
スーツ姿の男性は暗い表情でため息をついていたが、ふと手に持っている小型の家を見ると、それをソファーの上に置いた。
「……とりあえずここに置くか。この『レプラコーンハウス』に住んでるレプラコーンが出てきてもこれじゃ中々悪戯なんて出来ないだろ。それにしても……悪戯を発見出来たら色々手伝ってくれたり話し相手になってくれたりするって言ってたけど、こんなちっこい家に住んでる奴に何が出来るんだろうな……」
ソファーの上に載っている『レプラコーンハウス』のドアを指で軽く叩きながら言った後、スーツ姿の男性は部屋の片付けを始めようとした。
しかし、突然後頭部に何かがぶつかったような感触があり、男性は不思議がりながら振り向いたが、そこには誰もおらず、『レプラコーンハウス』のドアが開いているだけだった。
「ドアが開いてる……それじゃあ、レプラコーンの悪戯が始まったのか。でもまあ、今はそれに構ってはいられないな。それに、こんなに散らかってる時に探しても見つかる気がしないし、まずは片付けだな」
その後もレプラコーンからの悪戯は続いたが、スーツ姿の男性はそれには反応せず、食器洗いやゴミ出しの準備に励み、開始からおよそ二時間後に部屋はすっかり綺麗になり、テーブルの上にはほかほかと湯気を立てる料理が並んだ。
「……ようやくここまでこぎ着けたな。まあ、レプラコーンは見つからないけど、とりあえずこれを食べて寝たいし、探すのは時間に余裕が出来てからだな」
そして、スーツ姿の男性が手を合わせながらいただきますと口にし、食事を始めようとしたその時だった。
「……ああっ!」
「え……?」
突然野太い男性の声が聞こえ、スーツ姿の男性が後ろを振り向くと、ソファーの上には一人の小人がおり、その視線の先では『レプラコーンハウス』が今にもソファーから落ちそうになっていた。
「危なっ……!」
間一髪のところでスーツ姿の男性は『レプラコーンハウス』を下から支え、そのまま床に静かに降ろすと、小人はソファーから急いで下りて『レプラコーンハウス』の無事を確認し始めた。
「どこも壊れてねぇ……はあ、よかった……この家が壊れちまったら、俺は……」
「えっと……なあ、お前がレプラコーンなのか?」
「……正確に言えば違うな。俺は『レプラコーンハウス』によって生み出されたレプラコーンのレプリカみたいなものだ。だから、この家が壊れちまったら俺も存在が無くなっちまう」
「なるほど……だから、家は壊しちゃいけないのか。あれ……でも、あの子はわざと壊しちゃいけないって言ってたけど、事故と故意じゃ何か違うのか?」
「……本来なら『繋ぎ手』から教えられるのがベストだが、まあ良いだろう。『レプラコーンハウス』を事故で壊したら俺の存在が消えるだけだが、わざと壊したら所有者が次の家になる。簡単に言えば、この『レプラコーンハウス』と同じになって、俺に永遠に住まわれるわけだ」
「そういう事か……まあ、そうなりたくもないし、壊さないようにはするよ。さて、それじゃあ俺は飯を食うから」
そう言いながらスーツ姿の男性が食事の方へ顔を向けようとしたその時、レプラコーンは警戒した様子で男性に声をかけた。
「……おい、俺を見つけられたのに何もやらせようとしないのか?」
「……今のは事故だろ。事故ならノーカンだ。ソファーの上に家を置いていた俺も悪いし、お前も家が壊れると思って声をあげてしまった。だったら、今のは無効試合で良いよ」
「お前……」
「その代わり、次からは全力で探してやるよ。ブラック勤めしながらお前の悪戯をみつけるのは大変だろうけど、それすらも楽しめばいいわけだしな」
「……ふん、変わった奴だ。だが……そんなお前だからこそ気に入った」
「え?」
不思議そうにスーツ姿の男性が振り向くと、レプラコーンは『レプラコーンハウス』の前に立ちながら男性の目をまっすぐに見た。
「たしかに今のは無効試合だが、特別にお前がいい生活を送れるように取り計らってやるよ。そうすれば、お前も俺の事を安心して探せるからな」
「取り計らうって……何をする気だ?」
「さあな。とりあえず、俺は家に帰るから、お前は飯食って寝とけ。どうせまた仕事があるんだろ?」
「それはまあ……」
「んじゃあな、人間。良い夢見ろよ」
そう言いながらレプラコーンが『レプラコーンハウス』の中に入ると、スーツ姿の男性はきょとんとしながら『レプラコーンハウス』を見つめた。
「……アイツ、何をする気だろう……まあでも、今はわからないし、とりあえず飯だ飯。アイツの言う通り、仕事があるから、しっかりと寝ないといけないしな」
そして、スーツ姿の男性は食事の方へ顔を向けた後、改めていただきますと口にし、少し冷めてしまった夕食を食べ始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。