幕間
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
現世から隔絶された空間に建ち、不思議な道具を扱う『不可思議道具店』。その店先では、和装の少年と少女が竹箒で落ち葉の掃き掃除をしていた。
「ふぅ……いつも思うけど、掃いても掃いてもキリがないな」
「たしかにね。お兄ちゃん、疲れてない? 『アルケミーボトル』の力借りる?」
「いや、大丈夫だ。けど、『アルケミーボトル』も出会った頃よりもすごくなったよな。今では最初に指定した飲み物以外にも変えれるようになったんだろ?」
「うん、そうだよ。だから、緑茶を飲んでる時に別のを飲みたくなっても、『アルケミーボトル』にお願いしたら、紅茶でもコーヒーでも好きな物に変えてくれるみたい」
「なるほどな。それにしても……俺達の生活もだいぶ変わったもんだ。父さん達を亡くして、親戚の家に引き取られた時には辛かったけど、今では不思議な道具達に囲まれながら良い生活をさせてもらえてるからな」
「そうだねぇ……『アルケミーボトル』の力で私も元気になって、神様に保護してもらって、お姉ちゃんとお姉さんに出会って……私、お母さん達がいた頃も好きだけど、今の生活も楽しくて好きだよ」
「ああ、俺もだ」
にこりと笑いながら言う妹の言葉に兄が微笑みながら頷いていると、その近くから穏やかそうな声が突然聞こえてきた。
「君達はいつも仲良しさんだね。うんうん、良い事だ」
「え?」
「……え?」
兄妹が不思議そうな声を上げながら顔を向けると、そこには二人を見ながらにこにこと笑う少年とその隣に静かに立つ少女の姿があった。
「あ……神様と秘書の……」
「神様達だ、こんにちは」
「うん、こんにちは」
「本日はお二人の能力発現の件で伺いました」
「能力……」
「そう。『繋ぎ手』の道具との意志疎通や『創り手』の道具創造と同じで君達だけの固有能力の件。ただ、それは君達の中に眠る能力の一つに過ぎない。この子や他に関わってきた人間達もそれぞれの能力を幾つか発現させてきたからね」
「他に……そういえば、神様って何者なんですか? 正体を疑うわけじゃないですけど、まだしっかりと聞いた事が無かったなと思って……」
「たしかにそうだったね。でも、それは中で話すとしようか。彼女達も中にいるようだからね」
その言葉に三人が頷いた後、入り口のドアを開けて中へと入った。中には道具達と楽しそうに話す『繋ぎ手』とレジカウンターの拭き掃除をしている店主の女性がいたが、二人はドアが開く音を聞いて揃って入り口へ顔を向けた。
「あっ、神様達だ」
「あら、今日お越しでしたか。ご連絡を下されば私からお出迎えしましたのに」
「ふふ、別に大丈夫だよ。君達の手を煩わせるわけにはいかないからね。さて……それじゃあ早速話を始めようか。いつお客さんが来るかもわからないしね」
神は微笑みながら言った後、兄妹の方を見ながら話を始めた。
「まずは君達に僕達の事を改めて簡単に説明しよう。僕はあらゆる世界の様子を観測したり危機に対して処置をしたりする神で、この子や彼女達のように放置しておくと世界に大きな影響を与えてしまう能力者を保護したりその力に頼って他の世界に派遣したりする役目を担っているんだ」
「保護や派遣……それじゃあ、俺達も能力次第では異世界に派遣されていたわけですか?」
「そうなるね。まあ、時には勇者として行ってもらった子のように何も言わずに送る場合もあるけど、その時は後から説明もするし、全てが終わった後にはそれ相応の報酬も支払うよ」
「なるほど……」
「そんな彼や他に関わってきた人間とももしかしたら出会う事もあるとは思うし、その時はたぶんお互いになんとなくわかるかもしれないね。
そしてこの子は僕の秘書をしてもらってる子で、今は学生生活を送りながら別の子と一緒にアイドル活動もしているよ」
「神様の秘書をしながら学生兼アイドル……なんだか大変なんだな」
「……この程度、問題ありません。今の人生には満足していますし、神様の計画に協力する形で始めたアイドル活動もそれなりに楽しんでいますから、神様には保護して頂いた件も含めて感謝をしています。まあ、仕事にもっと真面目に取り組んで頂ければもっと良いのですが……」
冷たい視線を向けながら言う秘書の言葉に神は苦笑いを浮かべる。
「僕は真面目にやってるつもりなんだけどね。とりあえず僕達の話はここまで。機会があったらまた他の事も教えてあげるよ」
「わかりました」
「それじゃあ、次に君達の能力の話。君達の能力を視た感じだと、お兄さんの方は『道具と人間の縁の可視化』と妹さんの方は『道具と人間の相性の可視化』のようだね」
「縁の可視化と……」
「相性の可視化……お兄ちゃんの方はわかりますけど、私の方は少しわかりづらいというか……」
「まあ、そうかもしれないね。お兄さんの方は縁を白い縄のような形で視られるけれど、その太さによって縁の強さを測れるようだ。
妹さんの方は視た人間と相性の良い道具をモヤのような物で視られて、色が近ければ近いほど相性がより良いみたいだよ」
「あ……だから、『フェイトリング』の時も同じピンク色のモヤが視えたんだ」
「二人の様子を見る限り、変に暴走する事もないみたいだし、安心してその能力に頼って大丈夫。ただ、縁の強さや相性の良さが必ずしも所有者を良い未来へ導くわけじゃない。
ここの道具に限らず、道具は使い方や使う人によって良くも悪くもなる。だから、結果として所有者が亡くなったり辛い目に遭ったりしても気に病まなくていい。言ってみれば、それは所有者の自業自得だからね」
「……わかりました」
「……はい」
兄妹が少し辛そうに答えると、神は微笑みながら二人の頭をポンポンと叩いてから入り口へ体を向けた。
「それじゃあ話も終わったから、僕達はそろそろ帰るよ。みんな、これからも仲良くね」
「わかりました」
「それでは、失礼いたします」
神と秘書がドアを開けて出ていくと、店主の女性は辛そうな表情を浮かべる兄妹の頭を優しく撫で始める。
「……まあ、すぐにはそんな考え方も出来ないだろうし、ゆっくり気持ちの整理をしていけばいいわ。けど、神様の言葉だけは覚えておいてね」
「……はい、わかりました」
「……お姉さん、ありがとうございます」
「どういたしまして。とりあえず、あなた達の能力も発現し始めたわけだし、後で私達のような呼び名も考えましょうか。その呼び方をした方が良い時もあるかもしれないからね」
店主の女性が微笑みながら言うと、兄妹は少し安心したように笑みを浮かべながら頷き、『繋ぎ手』は嬉しそうに二人に話しかけ始め、『不可思議道具店』の店内は楽しそうな声で満ちていった。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。