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不可思議道具店  作者: 伊達幸綱
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第29話 チャームパフューム 後編

どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。

「はぁ……本当に幸せだわ……」


 校内の片隅にある空き教室。そこに置かれた椅子に座った少女は周囲に立っていたり足元でかしづいたりしながら自身に熱っぽい視線を向ける何人もの男子生徒を見ながら幸せそうな表情を浮かべる。


「私に好意を持つ男がこんなにもいる……あぁ、嬉しさが奥底から沸き上がってくるわ。ねえ、貴方達もそうよね?」

「はい、もちろんです!」

「他にも男がこんなにいるのは少しモヤッとするけど……こうやって俺達の姫の傍にいられるならそれは小さい事だな」

「むしろ、同士がこれだけいる事を喜ぶべきなんだろうな」

「まったくだな」


 男子生徒達が頷きあう様子を少女はクスクスと笑いながら見た後、ポケットから『チャームパフューム』を取り出し、うっとりとした目で見始めた。


「……ほんと、この香水はすごいわね。こんなにも男からの好意を集められるんだもの。でも、まだ足りない……もっとよ、もっと男を私の傍に置きたいわ……!」

「まだ求めるのか、俺達の姫は」

「けれど、その欲望すらも愛おしいからな」

「ああ、それでこそ俺達の姫だな」


 少女の言葉に嫌悪感を示さずに肯定する男子生徒達の様子に少女が気持ちの良さそうな表情を浮かべていると、一人の男子生徒がスッと近づき、少女に中身の入った一本の蓋が開いたペットボトルを差し出した。


「お飲み物をどうぞ」

「あら、気が利くわね。頂くわ」


 渡された飲み物を手に取り、そのまま口へと運んだ。すると、少女は眠そうに欠伸をし始め、うとうとしながら傍にいる男子生徒達に話しかけた。


「……今から少し寝るから、チャイムが鳴る5分前には報せなさい」

「わかりました」

「起きなかった時には責任をもって教室まで運ぶから安心して眠ってくれ」

「ええ……わか、った……わ」


 寝息を立てながら少女が眠り始めると、男子生徒達は頷き合い、その内の何人かは愛おしそうに少女の顔や腕、足などを撫で始めた。


「あぁ……なんてすべすべなんだ……」

「普段なら気安く触る事が出来ないから、こうやって触れるのは本当に幸せだ……」

「本当にな……なあ、さっき盛った睡眠薬はそう簡単には起きないんだったよな?」

「ええ、効果はたしかですよ。少なくとも、夜までは起きないはずです。なので、この後は相談した通りに動く事にしましょう」

「ああ、そうだな。具合が悪いようだからという事で保健室に寝かせ、交代制で放課後まで監視役を置いて、その後は事前に見つけておいたあの場所まで運ぼう。

 そうすれば、俺達は姫を独占できて、姫は学校へ行く必要も無くなる。損をする奴は一人もいないという最高の展開になるはずだ」


 男子生徒の一人が迷った様子もなく言う中、別の男子生徒は眠る少女の顎を撫でながら嬉しそうに笑う。


「これも全部姫が悪いんだよな……俺達をあの香水を使って夢中にしたのに、他の男まで侍らせようとするんだからな。

 ここにいるのはみんな同士だけど、他の男なんて姫にはいらない。姫が自分しか俺達の目に入らないようにしたように姫も俺達だけを見てれば良い。香水の力無しでも姫に夢中になった分の責任はとってもらわないと」

「そうだな。おい、香水はポケットから取っておけ。俺達には必要ないし、万が一逃げた時に他の男を手懐ける方法として使われても面倒だからな」

「はい──取りました。これはどうしますか? その辺に捨てておきますか?」

「そうだな。割ったら後始末が面倒だから、机の上にでも置いておくか」

「ああ。よし……それじゃあ運ぶ役と監視役だけ保健室に行って、他のメンバーは教室に戻るぞ。全員が保健室に行ったら、明らかに怪しいからな」


 その言葉に全員が頷いた後、男子生徒達はそれぞれ行動を開始し、空き教室には誰もいなくなった。それから数分後、空き教室内に青い渦が現れると、そこから『繋ぎ手』と助手の少年が姿を現し、『繋ぎ手』は『チャームパフューム』を手に取りながら哀しそうな表情を浮かべた。


「……やっぱり、あの子はダメだったか。だから、言ったんだよ。つけすぎには気をつけてって」

「たしかに言ってたけど……あれ、どういう事なんだ? それって異性からの好意を高める物のはずだろ?」

「うん。でも、高まった好意は相手を独占したいという欲にも直結するし、記憶自体が無くなるわけじゃないから、何度も好意を高められた事でこの子の力無しでも強い興味や好意を持つようになり、次第にあの子を独占したいという気持ちを大きくしてしまったんだよ」

「そういう事か……まあ、しばらくは男から愛され続ける生活が続くんだから、あの性悪女的には幸せだろ。俺だったらごめんだけどな」

「私もかな。ところで、お兄さんだったらこの子に頼りたいと思う?」

「俺はいらない。今は妹を幸せにしてやる事と『繋ぎ手』とオーナーの手伝いでせいいっぱいだし、異性から好かれたいなら自分の価値を上げて行く方が好きだからな」

「わあ、イッケメーン。そんなお兄さんなら私も好きになっちゃうかもなぁ~」


『繋ぎ手』の言葉に助手の少年は静かにため息をつく。


「……いつも思うけど、その気もないのにそういう事言うなって。本当にそういう言葉を真に受ける奴がいたら、ソイツからつけ狙われるぞ?」

「私だって誰彼構わず言わないよ。お兄さんみたいに注意をしてくれる人やクラスの子みたいに軽く流してくれる人くらいしか言わないもん」

「……それってクラスの奴からそういう対象として見られてないって事じゃないか? 少しおふざけが過ぎるけど、性格は明るくて見た目も良いんだからもったいないな」

「ふふ、ありがと。でも、私は良いよ。誰かとそういう関係になる気はないし、そもそも興味がないんだ。それに、その姿を想像するだけで気持ち悪くなっちゃうしね」


 笑いながら言う『繋ぎ手』の目は笑っておらず、その様子に助手の少年は心配そうな表情を浮かべたが、すぐにふぅと息をついて気持ちを切り替えた。


「そういう事なら俺も心配しなくて良いな。家に知らない男を連れ込んだりどこぞの男の家に何日も泊まりに行ったら、妹が不安がるだろうからな」

「あれ、お兄さんは不安になってくれないの?」

「……あー、お前がどっかに行ったら不安だなぁー」

「不安さが足りないような気がするけど……」

「別に良いだろ。ほら、早く帰るぞ」

「ほいほーい」


『繋ぎ手』が返事をし、それに対して助手の少年が少し疲れたように息をついた後、二人は再び現れた青い渦の中へと消えていった。

いかがでしたでしょうか。

今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

それでは、また次回。

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