第29話 チャームパフューム 前編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「はあ、今日もかったるかったぁ……」
夕方頃、一人の少女が気だるそうな様子で歩いていた。
「……ったく、学校がダルすぎてほんとイライラする。バカな男共を騙して貢がせるために人当たりの良いキャラを演じてはいるけど、それもそろそろ面倒臭くなってきたし、何か面白そうな事でも──」
その時、向かい側から歩いてきた軽口を叩きあいながらも楽しそうにしている高校生のカップルがその横を通り過ぎると、少女は振り向きながらカップルの彼氏の方を忌々しそうに睨み付けた。
「……あの男、アタシに目もくれないなんてあり得ない。隣の女よりもアタシの方がずっと見た目も良いし、スタイルだって抜群なのにチラッとも見ないなんて女を見る目がないわ。
それに……この前もアタシを好きだっていう噂のあった男も他の女と付き合い始めたみたいだし、本当にふざけないでほしいわ……」
怒りのこもった視線を向け、小さく舌打ちをした後、少女は顔を前に戻しながらイライラした様子を見せた。
「あーあ……ほんとつまんない。世界中の男がアタシにメロメロになれば、退屈じゃなくなるんだけど……」
ため息をつきながら少女が呟いていたその時だった。
「そこのお嬢さん、ちょいとよろしいかね?」
「え……?」
少女が振り向くと、そこにはにこにこ笑うセーラー服姿の少女とあまり気が進まなそうな様子の学生服姿の少年がおり、少女は少年の姿にニヤリと笑った。
「へえ……そこの貴方、そこそこ良い顔してるじゃない」
「……そりゃどうも。ただ、俺はあんたの事が好きにはなれないし、誰かの奴隷みたいになるつもりはないから、あんたからそう言われても全然嬉しくない」
「……そう。まあ、アタシよりもランクの低い女と一緒にいるような男にアタシの良さなんてわかるはずもないわね。それで? アタシに何の用?」
「お嬢さん、何か悩みがあると見たけどどうかな?」
「悩み……そうね、強いて言うなら世界中の男がアタシにメロメロにならない事が悩みかしらね」
「メロメロ……ねぇ、なるわけないだろ、そんな性悪女に」
「何ですって!?」
「まあまあ、落ち着いて。お兄さん、この子にもいつものは見えてる?」
「……一応な。『繋ぎ手』、バッグ見せてくれるか?」
「あいあいさー♪」
『繋ぎ手』は笑いながらバッグを下ろすと、助手の少年はバッグのチャックを開け、その中から桃色の液体が入ったビンを取り出した。
「これに白い縄が繋がってるみたいだ」
「それは……香水? ビンの柄は綺麗だけど、そんな物であたしの悩みを解決出来るの?」
「うん、出来るはずだよ。この子は『チャームパフューム』という名前で、これをつけた人は異性から好意を持たれるようになって、その効果は香水を洗い流すまで続くし、つければつける程、その効果は強くなるよ」
「へえ……それはすごいわね」
「ただ、本当に好きな相手がいる人には効果が薄くて、つけた人に興味がない人にはまったく効果がないから、そういう人達には自分からボディタッチなんかをして少しでも興味を持たせる必要は出てくるかな」
「そう。まあ、わざわざそんな事をする必要もないわ。あたしの良さをわからない奴には用はないし、面倒な事は嫌いだから」
「ふふっ、そういう性格の人は嫌いじゃないよ。という事で、この子は貴女にプレゼント。大切にしてあげてね」
『繋ぎ手』の言葉に少女は意外そうな表情を浮かべた。
「あら、良いの?」
「うん、この子は店頭に並べられなかったり試作品で誰かに渡しても良いって言われたりした子の一つだから遠慮無くどうぞどうぞ」
「なら、もらうわね。ところで……この香水の匂いってどういう物なの?」
「嗅いだ人にとって一番良い香りだと思うものだよ。バラの香りが好きな人はバラ、チョコレートの香りが好きな人はチョコレートみたいにね」
「ふぅん、変わってるのね」
「ただ、使う際の注意点もあるからそれは気をつけてね」
「注意点?」
少女が不思議そうに訊くと、『繋ぎ手』は微笑みながら頷く。
「そう。効果を強めるために何回もつけるのは別に良いけど、つければつける程異性からの好意は強くなるから、それだけは気を付けてね。そうじゃないと、大変な事になるから」
「好意が強くなる……そんなの良い事じゃない。まあでも、せっかくだから頭の片隅にでも置いておくわ」
「うん、そうしておいて。それじゃあ、私達はこれで失礼するね。という事でお兄さん、帰ろうか。帰ったら、何かおやつが欲しいな」
「はいはい……」
半ば呆れ気味に助手の少年が答え、『繋ぎ手』達が去っていくと、その姿を見送ってから少女は手の中にある『チャームパフューム』に視線を落とす。
「……これがあれば、もっと色々な男達がアタシを求めて争いあうのね。さて……それじゃあ、明日からつけてみようかしら。ふふ、ほんと楽しみだわ」
楽しそうな笑みを浮かべながら『チャームパフューム』をポケットにしまうと、少女はその笑みのままで歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。