第28話 デヴィネイションフラワー 後編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「……うん、今日も美味いな」
空が雲で覆われたある日の朝、ホームレスの男性はいつものように河原に敷いた段ボールの上で炊き出しで配られた食べ物を味わっていた。その傍らには『デヴィネイションフラワー』があり、男性は食べ終わると同時に『デヴィネイションフラワー』を手に取って、目の前まで持ち上げた。
「さて……今日も運勢を占うか。今日の運勢は?」
すると、『デヴィネイションフラワー』は黒く染まり、それにホームレスの男性が驚いている内に桃色、黄色という順番で変わると、再び白色に戻った。
「……今、一回黒くなったよな。黒ってたしか……命の危険がある時だってあの子が言ってたはず。それじゃあ、朝はもしかしたら死ぬかも知れないのか……でも、その後の桃色は何なんだ? 説明にも出てこなかったし、これまで見た事も無いぞ?」
突然の出来事にホームレスの男性は腕を組みながら頭を悩ませたが、すぐに腕組みと考え事を止めると、不安そうに空を見上げた。
「……でも、それよりも今日の天気が気になるな。もしかしたら、雨が降るかもしれないし、天気には気をつけないと。そうじゃないと、俺の死因が溺死になりそうだからな」
頷きながら立ち上がり、『デヴィネイションフラワー』をポケットにしまってから段ボールを手に取ろうとしたその時、突然強風が吹き、ホームレスの男性の段ボールを彼方へと吹き飛ばした。
「ちょっ……! あれが無くなったら、寝床も座るところも無くなるぞ……!? は、早く追いかけないと……!」
ホームレスの男性は焦った様子で走り始め、どうにか段ボールを掴もうと手を伸ばした。しかし、後ちょっとのところで段ボールは手からすり抜け、男性の体はバランスを崩した事でぐらりと揺れると、近くにあった先の尖った石に向かって前のめりになりながら倒れ始めた。
「え……そ、そんな……こんなところで俺の命は終わるのか……? い、嫌だ……俺はまだ、生きていたいんだ……!」
ホームレスの男性の心からの叫びもむなしく体はそのまま倒れていき、先の尖った石へ体が倒れていくと、ホームレスの男性は目を固く閉じた。
しかし、突然強い力で腕を掴まれると、男性の頭は石の先端に触れる直前で止まり、男性が恐る恐る目を開けると、石の先端が目の前でキラリと輝いていた。
「ひ……い、嫌だ……!」
「おい、大丈夫だから暴れないでくれ。今、体を引き上げるから大人しくしててくれよ」
「あ、ああ……」
恐怖を感じながらも聞こえてきた声に従って動きを止めると、ホームレスの男性の目はゆっくり石の先端から離れていき、完全に体が引き上げられると、男性は恐怖と安心感からその場で腰を抜かし、体をぶるぶると震わせ始めた。
「あ、危なかった……あのままだと、目を貫かれて死ぬところだった……!」
「たしかにな……たとえ死ななくても、しばらくは痛みでのたうち回る事になって、そっちの目が使えなくなるところだったから、何とか助けられて良かったよ」
「あ……あ、ありがとう。あんたは命の恩人だ……!」
「そんな大層なものじゃないさ。俺だってある人に命を助けられたからこうして生きていられるし、仕事も与えられて娘とも暮らせてる。俺だってあんたと同じようになってたかもしれないんだから、決して他人事じゃないよ」
「そ、そうだったのか……」
「おおよそ、あんたもリストラにあったりした口だろ? まあ、違うなら謝るけどさ」
スーツ姿の男性の言葉にホームレスの男性は首を横に振る。
「……リストラじゃないけど、俺は勤め先が倒産した上に家賃の滞納で家具や日用品を差し押さえられてアパートを追い出され、付き合ってた彼女からも捨てられたんだ」
「……そうか。やっぱり、俺達は境遇が似てるみたいだな。俺も同じような目に遭って、絶望しきってたところに恩人に拾われて今ここにいるからな。
まあ、その後にちょっと迷惑をかけたけど、あの人はそんな俺でも捨てずに置いてくれたし、その後に出会った実の娘とも暮らせるように取り計らってくれた。
俺はあの人がいなかったら、あんたみたいにホームレスになってでも生きようとせず、きっと自分から死んでいたんだ。俺よりもあんたの方がずっと強いよ」
「そんな事……」
「なあ、よければウチのボスに会ってみないか? あんたに振れる仕事があるかはわからないけど、このまま放ってはおけないし、何となくあんたからは俺や娘と同じ物を感じるんだ。何か不思議な物に出会ったような雰囲気をさ」
「不思議な物……」
「……心当たりはあるみたいだな。まあ、あんたがどうしたいかは自由だから、断ってくれて全然良い。俺もあんたの人生を縛ったり強制したりするつもりもないからさ」
スーツ姿の男性の言葉を聞きながらホームレスの男性はジッと顔を見つめると、少し安心したように微笑みながらコクンと頷いた。
「……ついてくよ。どうせ、段ボールももうどこかに飛んでったし、命を助けられたお礼もしたいからな」
「決まりだな。よし、それじゃあ行こうか」
「ああ」
頷きながらホームレスの男性が立ち上がった後、スーツ姿の男性は携帯電話を取り出し、どこかへ電話をかけた。そしてそれが終わると、二人は並んで歩きながら河原を後にし、その様子を陰から見ていた『繋ぎ手』と助手の少女は安心したように息をついた。
「よかった……あのお兄さん、良い人に出会えたみたいだね」
「うん、そうだね。でも……まさかまたあの人の姿を見る事になるとはね。もしかしたら、あの人やボスのおじさんはそういう運命なのかもしれないね」
「そうかもね。ところで、『デヴィネイションフラワー』の色って他に何があるんだっけ?」
「後はね、何が起きるかあの子にもわからない虹色と掛け替えのない出会いがある桃色、宝物と出会える金色に悩みが解決する空色なんかがあるね。
あの様子だと……今日の運勢は、朝に命の危機に瀕して、お昼くらいに大切な出会いがあって、夜は嬉しさでいっぱいになるってところだね」
「そっか……なんだか安心したらお腹空いてきちゃった。お姉ちゃん、おやつを食べに一度戻ろうよ」
「そうだね。帰ってお兄さんにおやつを作ってもらおうか」
そう言いながら『繋ぎ手』達は笑いあった後、道具の力で出現させた青い渦へ向かって歩きだし、そのまま姿を消した。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。