第27話 韋駄天シューズ 後編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「はあ……今日も疲れた」
ある日の夕方、誰もいなくなったグラウンドで少女は首から掛けたタオルで汗を拭きながら独り言ちた。一緒に走っていたり記録を測ったりしてくれていた部員達も既に下校しており、辺りを見回しても少女以外には誰もいない事を確認すると、少女はどこかバカにしたように鼻を鳴らす。
「ふん……私よりも遅いくせに残ってやろうとしないなんて、本当にやる気があるのかな。そんなんだから、私に嫉妬して変な事しか言えないんだよ。
様子がおかしいとか一緒に走ってて楽しくないとか……成績が良いんだから少し威張っても問題ないし、私達はいつまでも高校生じゃないから良い成績を残せるように頑張るのは当然。楽しいから走るんじゃなく良い成績を残せるように鍛えるために走るんだよ」
部員達の顔を思い浮かべながら空へ向かって侮蔑の視線を向けていたその時、首から掛けていたタオルがスルリと落ち、その事に少女は忌々しそうに舌打ちをした。
「……何で落ちてるの? 私の事をイラつかせないでよ!」
イラついたように大声を上げた後、少女は履いていた『韋駄天シューズ』でタオルを踏みつけ、鬱憤を晴らすようにそのままぐりぐりと地面に擦り付けた。
そして、その光景を見ながら少女が楽しそうな笑みを浮かべていたその時、少女はふと何か気づいたよう様子で足の動きを止めると、『韋駄天シューズ』を履いている自分の足に視線を向けた。
すると、突然足に強い痛みが走り、少女は顔をしかめながらしゃがみこみ、足を押さえ始めた。
「い、痛い……! な、なんで……もしかして、走りすぎたから……!?」
少女は足の痛みに耐えながらどうにか痛みを和らげるために足を揉みほぐし始めた。しかし、痛みは和らぐどころか更に増し、その痛みにとうとう耐えきれなくなった少女は足を押さえながら地面をのたうちまわった。
「ぐっ……あぐっ……! な、なんで……なんで痛みが引かないの……!? 引いて、引いてよ……! 痛いままじゃ、私は走れな──」
『……お前のような愚か者に他者と競いあう資格はない』
「だ、誰……!?」
『心配する気持ちを平気で踏みにじり、そんな友垣の思いを足蹴にするような物には足など必要ない。よって、お前の足は貰いうけるぞ』
「も、貰いうけるって……や、止めてよ……! 私は何も悪くな──」
目に涙を溜めながら少女が声を上げた瞬間、『韋駄天シューズ』の中に獣の牙のように鈍く光る鋭い物が現れると、迷う事なく少女の両足首に刃を突き立て、そのまま勢い良く少女の足首の奥に押し込んだ。
その強い痛みに少女は声も上げられずに体を弓なりに曲げると、白目を向きながら口からは泡を吹き、そのまま力なく倒れこんで意識を失った。
それから程なくして、そこに『繋ぎ手』と助手の少年が現れると、少女の姿に助手の少年は哀しそうな表情を浮かべた。
「これは酷いな……なあ、『韋駄天シューズ』の注意点を無視するとどうなるんだ?」
「うーん……まず、足が動かなくなるね。一応、足自体は残してくれてるけど、動かしたくても動かせなくなるし、『韋駄天シューズ』を手に入れてから今までの記憶は全部失われる。
だから、どうして足が動かないのかはわからないし、走りたいと思ってももう走れない。治したくても足自体はどんなに検査をしても何も変化が無いように見えるし、リハビリをしようにもそもそも動かなくなるからそれも無理。それがこの子のこれからの人生だよ」
「……道具で人の運命なんて簡単に変わるんだな。わかっていたつもりだけど、こうして目の当たりにすると、本当に辛くなるな……」
「まあ、君からしたら本当にこの子がタイムを縮めて喜ぶ姿を望んでいたわけだからそうなるよね。でも、道具を乱暴に扱って競いあう仲間を見下す人はそもそもスポーツマンシップに則ってないと思うから、いずれ別の破滅を迎えていたと思うし、お兄さんが気に病む事はないよ。切り替えていこう」
「……そうだな。それじゃあとりあえず救急車を呼んでから『韋駄天シューズ』は回収していくか」
「うん」
少女の足から『韋駄天シューズ』を脱がせ、救急車を手配してから『繋ぎ手』が『韋駄天シューズ』と会話する中、助手の少年は倒れている少女を哀しそうな表情で見つめていたが、『繋ぎ手』から声をかけられた事で視線を『繋ぎ手』に移すと、現れた青い渦の中へ向かってゆっくりと歩いていった。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。