第27話 韋駄天シューズ 中編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「はっ、はっ、はっ……!」
ある日の午後、ユニフォーム姿の少女は他の女子生徒と共に学校のグラウンドを走っていた。その足には深緑色のシューズを履き、息遣いこそ荒かったが、その足の運びは至って滑らかな物だった。
そして、少女は他のランナー達を圧倒的な差で引き離すと、そのままの勢いでゴールし、そのタイムを見た顧問の教師は驚いた表情を浮かべる。
「すごいぞ……! これまでよりも明らかにタイムが縮まっている……!」
「はぁっ、はぁっ……ほ、ほんとですか……!?」
「ああ、本当だ。他の部員よりも明らかに速いし、これなら大会でも良い成績を残せると思う。早朝にランニングをしていたのは聞いていたが、ここまで結果が出るとはな……俺も顧問として鼻が高いぞ!」
「あ……ありがとうございます……!」
顧問の言葉に少女が嬉しそうに答えていると、走り終わった生徒達は次々と少女へと近づいてきた。
「あんなに速いなんて本当にすごいよ!」
「結構頑張ったんだけどなぁ……でも、あそこまで差がついてるなら私もまだまだって事だね」
「ねえ、どうやってあんなに速くなったの?」
他の部員達からの声や羨望の眼差しに少女が気持ちよさを感じていた時、ふと一人の生徒が少女の足元に目を向けると、『韋駄天シューズ』を見ながら不思議そうに首を傾げた。
「あれ……ねぇ、もしかして靴変えた?」
「え……」
「あ、ほんとだ。よく見たら、前に履いてたのと違うね」
「だね。あ、もしかして……シューズを変えて気持ちを一新したから速くなったとか?」
「あ……う、うん、そうなんだ……! 昨日、偶然このシューズを見つけたんだけど、このシューズがあればうまく走れるような気がして買っちゃってね。ただ、これ一足しか無くて、次にいつ入るかは、わからないみたいだよ、うん……」
「そうなんだ……まあ、私はこの履きなれたシューズで良いかな」
「そうだね。新しいのにして気持ちを切り替えるのも面白いけど、履きなれてるからこその安心感もあるしね」
他の部員達が笑いながら話す中、少女もそれに合わせて笑っていたが、その目は笑っておらず、閉じていた口からポツリと言葉が漏れた。
「……そんな安心感ごときで諦められる程、私は甘く考えてないんだよ……」
「ん、何か言った?」
「……何も。それよりももっと練習しよう。今ならもっと良いタイムを出せる気がするから」
「あ、そうだね」
「よーし、もっと走るぞー!」
少女の言葉に他の部員達が乗り気でスタートに向かって歩き始める中、少女もそれに続いて歩き始めたが、その顔は笑っておらず、他の部員達への侮蔑の色が浮かんでいた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。