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不可思議道具店  作者: 伊達幸綱
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第27話 韋駄天シューズ 前編

どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。

「うーん……一体どうしたら良いんだろ……」


 早朝、とある公園の一角で首からタオルをかけたジャージ姿の少女がベンチに座りながら考えに耽っていた。


「早朝と下校後のランニングはしてる。食事と睡眠はしっかりととってるし、筋トレも欠かしてない。なのに、どうしてタイムが縮まらないのかな……走るのも競うのも好きだから、陸上部に入ったは良いけど、このままじゃ良い成績を残せずに終わっちゃうよ……」


 少女がため息をつき、沈んだ様子で俯いていたその時だった。


「そこの貴女、ちょっと良いかな?」

「……え?」


 不思議そうに少女が顔を上げると、そこには背中に小型のバッグを背負った桃色のジャージ姿の少女と青色のジャージ姿の少年が立っていた。


「えっと……あなた達は?」

「私達はランニング中の道具と人間の橋渡し役と助手君だよ。こちらの助手君が体力をつけたいって言うもんだから、私もこうして早朝ランニングに付き合ってるの」

「そうなんだ……カップルでランニングなんて仲が良いんだね」

「別にカップルじゃないよ。この子は色々な道具を扱ってる店の子で俺は妹と一緒にお世話になってるだけだから。それで、何か悩んでいたようだったけど何かあったのか?」

「え……まあ、ちょっとね。私、走るのも競うのも好きだから、陸上部に入ったんだけど、最近どうにもタイムが縮まらなくて……」

「なるほど……うん、やっぱりこの子からもあの白い縄が見えるな。『繋ぎ手』、バッグの中を見せてくれるか?」

「うん、良いよ」


 笑みを浮かべながら『繋ぎ手』がバッグを下ろすと、助手の少年はバッグのチャックを開けて中を覗き込んだ。そして、その中から深緑色のシューズを取り出すと、少女は不思議そうに首を傾げる。


「シューズ……?」

「そう。この子は『韋駄天(いだてん)シューズ』という名前で、仏教の神様である韋駄天様の名前を冠してる通り、履いた人の足を速くしてくれる物なんだ」

「足が速くなるシューズ……」

「仕組みとしては、神通力で履いた人の頭に無理無い程度に速く走れるように働きかけるみたい。だから、自分が今出せる全力で常に走れるようになるわけだね」

「す、すごい……でも、走ってる途中につまずいたり靴紐がほどけたりしたら大変なんじゃ……」

「それも大丈夫。靴紐は自分からやらなきゃほどけないし、転びそうになったらすぐに体のバランスをとって転ばないようにしてくれるからね。という事で、これは貴女にプレゼントするよ。大切にしてあげてね」


 その『繋ぎ手』の言葉に少女は驚きながら両手を横に振った。


「い、いいよ……そんなの申し訳ないって……!」

「ううん、大丈夫だよ。この子は店頭に並べられなかったり試作品だから渡しても良いって言われたりしてる子の一つだから、遠慮無くもらっちゃってよ」

「でも……」

「まあ、申し訳なく思う気持ちはわかるな。けど、『繋ぎ手』の話が本当なら君はタイムを縮められるかもしれないし、そうじゃなくてもシューズのスペアを手に入れられたと思えば良い。少なくとも簡単には壊れないだろうし、これまで頑張ってきた自分にご褒美がきたと思えば良いしな」

「ご褒美……うん、わかった。それじゃあありがたくもらう事にするよ。二人ともありがとう」

「どういたしまして」


 少女の言葉に『繋ぎ手』が微笑みながら答えていると、助手の少年は少女と『韋駄天シューズ』を見ながら『繋ぎ手』に話しかけた。


「……それで、この道具には注意点ってあるのか?」

「この子か……うん、あるよ。所有者が走るためのサポートはしてくれるけど、走る以外に使ってはいけないってところかな」

「走る以外……?」

「そう。不注意とかやむを得ないとかなら良いんだけど、何かを踏むとか蹴るみたいな事をわざとしてはいけないよ。したら大変な事になるからね」

「大変な事……わかった、しないようにするよ」

「うん、ありがとう。それじゃあ私達はそろそろ行くよ。その子、大事にしてあげてね」

「それじゃあまたどこかで会おうな」

「あ、うん。またね、二人とも」


 そして、『繋ぎ手』達が再び走り始めると、少女は手を振りながら見送った後、『韋駄天シューズ』に目を向けた。


「……足が速くなるシューズ、か。たしかにこれが本当なら私はみんなよりも速くなれるかもしれないし、そうじゃなくても練習用のシューズが手に入ったと思えば良い。これがあれば、私は……」


『韋駄天シューズ』を見る目はどこか虚ろであり、少女は『韋駄天シューズ』を持ったまま立ち上がると、嬉しそうな笑みを浮かべながらゆっくりと歩き始めた。

いかがでしたでしょうか。

今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

それでは、また次回。

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