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不可思議道具店  作者: 伊達幸綱
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第26話 リンカーベル 後編

どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。

「はあ……今日は良い日だったなぁ」


 ある日の夕方、少女は公園のベンチに座りながら満足げに独り言ちると、頭上に広がるオレンジ色の空を見上げた。空は幾つか雲が流れ、近くからはカラスの鳴き声が聞こえており、そんな平和な光景に少女は安心したように息をつく。


「……本当にあの人は良い人なんだなぁ。連絡先をもらった日に興味本位で電話をかけて、今では付き合うまでは行ってないもののそれも良いかなと思えるくらい好きになってるから、あの日に彼に出会えたのは本当に幸運だった。

 きっと彼なら大丈夫、そう思えるはずなんだけど……もう一歩踏み出せないのは、やっぱりあの日別れる事になった彼の事をまだ引きずってるからなんだろうなぁ……」


 呟く少女の声は暗く、浮かない表情のままで空から地面に視線を移し、しばらく俯いていると、そこに向かって幾つかの足音が近づいてきた。

 そして、足音の主が少女の前で足を止め、少女が目に涙を溜めながら顔を上げると、そこには『繋ぎ手』と助手の少女の姿があった。


「貴女達は……」

「また会えたね、お嬢さん。まあ、本当の事を言えば、『リンカーベル』がメッセージをくれたから来ただけなんだけどね」

「あの鈴が……?」

「そうみたいです。道具の声が聞こえるのはお姉ちゃんだけなので私にはわからなかったんですけど、『リンカーベル』が言うには今がまた会いに行くタイミングだったみたいです」

「その通り。だから、約束通りに話に来たよ。あの時、私が償いという言葉を使った理由をね」

「償い……でも、私は貴女とは会った事はないし、貴女から何かをされた覚えも──」


 その時、少女は何かに気づいた様子でハッとし、その表情を見た『繋ぎ手』は哀しそうに微笑みながら頷く。


「そう。貴女じゃなく、貴女が以前付き合っていた人と私が前に出会っていて、その時に異性との縁について悩んでいたようだったから、所有者の恋愛運を格段に上げる『招きウサギ』をあげたの。

 その結果、貴女と彼は出会い、そのまま貴方との縁を大事にしていれば良かったんだけど、その後にも何人もの異性と出会っては交際を始めた。

 そして、有頂天になった結果として私にも手を出そうとしたようだけど、その頃には気持ちが離れていた貴女との関係をそれをきっかけに断ち切ったから、『招きウサギ』の怒りに触れて酷い目に遭って今に至るわけだね」

「そんな事が……というか、デートの時も友達からだって言って電話してたりメッセージを送ったりしてたけど、その時も他の女の子に連絡を……!?」

「そうだと思う。まあ、私にも手を出そうとしてた件は言わなくても良いかなと思ったけど、黙っているのもなんだか嫌だし、それだけ隠すよりは全部言う方が良いからね。貴女に辛い思いをさせた責任は私にもあるわけだし」

「……そんな事ないよ。たしかにその道具があったから、結果的に私は失恋と孤独で辛くなったけど、そこまでは貴女だって予測出来ないわけだし、こうなったのは仕方ないよ。それが私の運命だったわけだから……」

「お姉ちゃん……」

「でも、話してもらえて良かった。これでようやく彼への未練をちゃんと断ち切れそうだよ。また会ったって結局他の女の子になびいて捨てられるかもしれないなら、私はもう彼には関わらない。彼の事はもう忘れてしまって、新しい道を進んでいくよ」

「うん、それが良いと思う。どうやら貴女には新しい異性との出会いがあって、お互いに好意を抱いているようだからね。今度こそ幸せになってね」

「ありがとう。私、もう迷わないよ。彼や妹さん、そしてこの先『リンカーベル』の力で出会うはずの人達と一緒に楽しい毎日を過ごせるように頑張るね」


『繋ぎ手』達を見ながら笑う少女の表情は太陽のように明るく、その迷いを完全に断ち切った少女の姿に『繋ぎ手』達は顔を見合わせた後、安心したように微笑む。


「……うん、これなら大丈夫みたいだね」

「そうだね、お姉ちゃん。それじゃあ私達はそろそろ帰ろっか。お兄ちゃんやお姉さんも待ってるだろうし」

「うん、そうしよう。それじゃあ私達はそろそろ失礼するよ。後……他の子にも興味が湧いたら、ウチの店に来てみてね。『リンカーベル』をつけてる時なら、店に通じる道のありかを『リンカーベル』が導いてくれるから」

「わかった。あの……本当にありがとう、またね」

「うん、またね」

「またね、お姉ちゃん」


 そう言って『繋ぎ手』達が手を振りながら去っていくと、少女は手を小さく振り返してから再び夕焼け空を見上げた。


「……バイバイ、私の初恋。そして……これからよろしくね、新しい恋。今度こそ離したくないから、私、全力で頑張るね」


 微笑みながら独り言ちた後、少女は家に向かって歩きだしながら携帯電話を取りだし、愛しそうな表情で話しながらしっかりとした足取りで歩いていった。

いかがでしたでしょうか。

今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

それでは、また次回。

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