第26話 リンカーベル 中編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「それじゃあ行ってきます」
ある朝、少女は家の中にいる母親に声をかけながら外へ出ると、少し浮かない表情でゆっくり歩き始めた。
「はあ……今日も一人で登校か。中々誰かに話しかけていけないから友達も作れないし、あの日までは一緒に登校してた彼もいないから当然なんだけど、やっぱり一人って寂しいなぁ……」
少女は寂しげにため息をつき、とぼとぼと歩いていたが、通学用カバンに付いていた鈴が小さく鳴ると、少女はゆっくり鈴へ視線を向ける。
「この鈴……たしか『リンカーベル』だっけ。くれた子はこの鈴は私にとって縁のある人や幸運を引き寄せるって言ってたけど、私と縁のある人なんて本当にいるのかな……?」
鈴を見ながら少女がポツリと呟くと、『リンカーベル』は朝日を反射しながらチリンと鳴り、その澄んだ音に少女の表情はどこか安らいだ物になった。
「良い音……もし、縁のある人と出会えなかったり良い事が無かったりしても、この音を聞けただけでも得したかな。本当はもっと落ち着いて聞きたいけど、今は登校中だし、後でゆっくりと──」
そう言いながら歩いていたその時、横道から突然赤いランドセルを背負った少女が飛び出し、それに驚いた少女が足を止める間もなく二人はぶつかった。
「きゃっ」
「わわっ」
そして、衝突の衝撃で二人が尻餅をついていると、ランドセルの少女が飛び出してきた横道から遅れて学生服姿の少年が姿を見せた。
「おい、大丈夫か? まったく……周りを見ずに走るからそうなるんだぞ?」
「いてて……うん、そうだね。あ……お姉ちゃん、大丈夫? 怪我、してない……?」
「う、うん……大丈夫。私もボーッとしてたのが悪いから気にしないで。あなたこそ大丈夫だった?」
「うん、私も大丈夫だよ」
ランドセルの少女がにこりと笑い、少女が安心したように微笑むと、少年は妹の隣に立ちながら少女に頭を下げた。
「ウチの妹が本当にすみませんでした……あの、本当に怪我してないですか?」
「……はい、大丈夫です。それじゃあ私は学校があるので、これでしつれ──」
「あ、ちょっと待って下さい──よし、出来た」
「それって……お兄ちゃんの連絡先?」
「ああ、そうだ。あの……突然こんな物を渡されても困るかもしれませんが、もしも後から痛んだり何か壊れたりしていたら、この番号にかけてください。その時は謝罪でも弁償でも何でもしますから」
「そんな気にしなくても……」
「いえ、ウチの妹がご迷惑をおかけしましたから。それに……こんな時に言うのもあれなんですが、こうやって出会えた貴女との縁を簡単に手放したくないんです」
「私との縁……」
少年が差し出す連絡先が書かれた紙を見ながら呟いた後、少女が少年の顔に視線を向けると、少年の目はまっすぐに少女を見ており、その目からは先程口にした言葉が真剣な物であった事がハッキリと見てとれた。
その目を見た瞬間、少女はかつて交際をしていた相手への未練や想いが静かに消えていくのを感じ、軽く頷いてから連絡先が書かれた紙を受け取った。
「……わかりました。でも、もしかしたらそれ以外の理由でも電話をするかもしれません。私も……なんだか貴方との縁を手放したくないと思えたので」
「……ありがとうございます。それじゃあ俺達はこれで失礼します。連絡、いつでも待ってますね」
「お姉ちゃん、またね」
「……うん」
少女が微笑みながら答えると、兄妹は並んで歩き去っていき、少女はそれを見送ってから手の中にある連絡先が書かれた紙に視線を移した。
「……もう彼みたいに好きになれる人はいないと思ってたけど、さっきの人なら信じても良いのかな……」
それに答える者は無かったが、少女は大切そうに連絡先が書かれた紙を畳んでポケットにしまうと、先程よりは明るい表情でゆっくりと歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。