第26話 リンカーベル 前編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「……はぁ、最近良い事が無いなぁ……」
夕暮れ時、一人の少女が表情を暗くしながら歩いていた。その足取りは重く、表情や独り言ちた言葉から少女の気持ちが沈んでいるのは明らかだった。
「良い事が何も無いのもそうだけど、やっぱり好きだった人から別れを告げられたのは今でも辛いよ。出会いは偶然だったかもしれないけど、私は本当に彼の事が好きだったのに、私に飽きたからって簡単にフラれるなんて……もう、私の事を誰も好きになんてなってくれないんじゃないかな……」
少女がため息をつき、目に涙を溜めていたその時だった。
「ねえ、そこの君」
「え……?」
少女が目に涙を溜めたまま振り向くと、そこにはセーラー服姿の少女と桜色のパーカーに若草色のスカート姿の少女がおり、少女は二人の姿に不思議そうに首を傾げる。
「あ、あなた達は……?」
「私達は道具と人間の橋渡し役とその助手ちゃんだよ。ところで、お嬢さん。何やら辛そうだけど、何かあったのかな?」
「え……う、うん……最近、良い事が全然無かったのもそうだけど、少し前に好きな人からフラれちゃってね。それが今でもすごく辛いんだ……」
「フラれた……でも、どうして?」
「……私に飽きたからって。それも面と向かって言われたわけじゃなく、メールで言われたからもっと辛いの。私って彼にとってその程度だったのかなって……」
「そっか……その彼とはそれから話し合ってないの?」
「……もう話せないの。彼、私にメールを送ってきた日に何かあったみたいで、その日から何かに怯えるように部屋に籠りきりになっちゃったみたいなの。それでも、いつか話せるかもなんて考えてる内にどこかに引っ越しちゃったし、私もそれをきっかけに未練を断ち切ろうとして連絡先を消したから本当にもう話せなくなって……」
「なるほどね……それなら、この子が力になれるかな」
そう言いながら『繋ぎ手』がポケットから取り出したのは、細い組紐が付けられた金色の小さな鈴だった。
「これは……鈴? なんだかすごく綺麗だけど……」
「これは『リンカーベル』という名前で、この鈴を付けていると、貴女に縁のある人や幸運を引き寄せてくれるんだよ」
「縁のある人や幸運を……でも、もう彼とは会えませんよね?」
「そうだね……確信は無いけど、たぶんその彼とはもう縁は無いって考えて良いと思う。自分から貴女との関係を断ち切ったし、それから会う機会も無かったなら、もう本当に未練を断ち切ってしまった方が良いんじゃないかな?」
「そっか……」
「という事で、これは貴女にあげるよ。この子の事、大切にしてあげてね?」
「え……そ、そんな悪いよ……」
少女は断ろうとしたが、『繋ぎ手』は首を横に振りながら少女の手を掴み、『リンカーベル』をその手に握らせた。
「ううん、良いの。これは店頭に並べられなかったり御師匠様から渡しても良いって言われてる子だし、この子自身も貴女の力になりたいようだから」
「でも……」
「それに、私も貴女を応援したいし、ちょっとした《《償い》》みたいな物でもあるから」
「え……そ、それって……?」
「……それはまた会えた時にでも話してあげるよ。今話すよりは、貴女が今よりも落ち着いている時の方が良いからね」
「……う、うん、わかった……えっと、ありがとうね」
「どういたしまして」
『繋ぎ手』が微笑みながら頷いていると、助手の少女は首を傾げながら『繋ぎ手』に話しかけた。
「ところで……お姉ちゃん、その子には何か注意点ってあるの?」
「ううん、特にはないよ。強いて言うなら、縁のある人や幸運の種類を選べないくらいで、後は毎日綺麗に磨いてあげてほしいくらいかな。だから、安心してその子に頼ってみて」
「……うん、わかった。本当にありがとうね」
「どういたしまして。それじゃあ、私達はそろそろ失礼するよ。その子、大切にしてあげてね」
「うん、もちろん。またね、二人とも」
「うん、またね」
「またね、お姉ちゃん」
そう言って『繋ぎ手』達が去っていった後、少女は手の中にある『リンカーベル』に視線を落とす。
「……縁のある人や幸運を引き寄せる鈴、か。なんだか気になる事を言ってたけど、また会えた時には話してくれるって言ってたし、今はおとなしく待ってよう。さて、それじゃあ私も帰ろう」
『リンカーベル』をポケットにしまった後、少女は再び歩き始めたが、その足取りは先程よりは軽く、表情も心なしか明るくなっていた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。